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財界がブータン首相の御宣託を喜ぶ理由

引き続き、安原和雄の仏教経済塾『「国民総幸福」をめざす国・ブータン』を読んでみる。

 2010年4月来日したジグミ・ティンレイ・ブータン王国首相(注)は第23回全国経済同友会セミナー(「今こそ、日本を洗濯いたし申し候」というテーマで高知市で開催、企業経営トップら900名余が参加)の基調講演、さらに日本記者クラブ(東京・内幸町)での記者会見で、国造りとして目指している「国民総幸福」(GNH=Gross National Happiness)について詳しく語った。

<安原の感想> 経済成長は持続不可能で危険な道
 ブータン首相の講演は、経済同友会の経営トップらを前にして、経済の基本概念・GDPへの次のような根源的な批判から始まった。これは明らかに仏教経済学的視点からの批判といえる。
GDPがあたかも人間の幸せの尺度のように勘違いされていた。
・人間を単なる消費者や数に置き換えてしまい、幸福な人生とは何かを考えることを忘れてしまっている。
GDP中心の成長は持続不可能で危険な道である。

 上記の「四本柱の戦略」のうち特に「持続可能かつ公平な経済社会の発展」は、それと根本から対立する「GDP中心の経済成長」にこだわり続けてきた日本の多くの経営トップらには大きな知的刺激となったに違いない。ただブータン首相を基調講演者としてわざわざ日本へ招いたことは、ブータンが国を挙げて取り組んでいる「国民総幸福」路線に経済同友会としても関心を抱いているからだろう。そこが保守的な財界人の総本山・日本経団連とはやや趣(おもむき)を異にしているところではある。


そもそも、財界団体である経済同友会が、なぜブータン首相の「国民総幸福」論をありがたく拝聴するのか?
この講演で何が語られたのかを具体的に見ていけば、その理由も見えてくる。

<安原の感想> 小国ながら堂々とした助言に試される日本
 まず「ブータンでは大家族を・・・セーフティネット(安全網)として、重要な社会資本ととらえている」という首相発言に注目したい。大家族を基盤とする社会の中での人間同士の温(ぬく)もり、絆、安心感などを連想させる。だからこそ国民の97%が「幸福」と答える国柄なのだろう。
 さて肝心の日本はどうか。家族が崩壊し、ゆがめられた個人主義、身勝手主義が横行している。温もり、絆、安心感などは願望の対象ではあっても、現実ではない。最近、百歳を超える高齢者の所在不明が続出する一方、幼児・児童虐待事件も後を絶たない。これが経済成長中心の豊かさを追い求めてきた経済大国・日本の成れの果て、ということなのか。


「『家族』をセーフティネットの基盤にすれば、みんなが幸せになれる。」
財界が「国民総幸福」の国の首相に一番語ってもらいたいのはここだろう。
要するに、家族間の相互扶助に依存することによってセーフティネット構築のための社会的支出を減らしたい、ということだ。もう少し本音に近い表現に訳せば、貧乏人どもにくれてやる金はない、ということ。実に単純な話だ。


しかし、かつては農村の労働力を安価に使って高度経済成長を実現するために伝統的な大家族を破壊し、今また雇用の非正規化によって核家族すら維持不能にしつつあるこの国の財界が、手頃な小国の首相の口を借りて「家族」の価値を賞賛してみせるとは、盗人猛々しいにもほどがある。


とっくに破綻した「日本型福祉社会」論の焼き直しなんかにまた騙されてはいけない。