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子どもを見捨てる文科省

文部科学省という官僚機構が、常に国家に従順でその不正や不合理に疑問を持たない「国民」を育成することにばかり熱心であったことを考えれば、今回彼らがあっさりと福島の子どもたちを見捨てたことも、別に驚くにはあたらないのかもしれない。

 

合原亮一氏のブログ「電脳自然生活」から:

「正気を疑う文科省の学校線量基準」

 

最初に、見出しに強い言葉を使ったことをお詫びしておきたいが、もっと強い表現をしたいというのが本心であることも申し添えておきたい。

文部科学省原子力災害対策本部、原子力安全委員会は、4月19日に「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」を発表した。その内容は「校庭・園庭で3.8μSv/時間未満の空間線量率が測定された学校等については、校舎・校庭等を平常どおり利用をして差し支えない」というものだ。

 

放射線管理区域の6倍で「平常どおり」

 

この3.8μSv/時という基準線量を見て目を疑った。放射線管理区域に設定しなければならない、信じ難く高い線量だったからだ。放射線障害防止のための放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律等は文科省が所管している。そして文科省自身が、「外部放射線に係る線量については、実効線量が3月あたり1.3mSv」を超えるおそれのある場所については放射線管理区域を設定するよう定めているのだ。

 

3月あたり1.3mSvというのは、0.6μSv/時である。今回文科省は、その6倍以上の3.8μSv/時という線量があっても「平常どおり利用をして差し支えない」と発表してしまった。これは明らかにこれまでの規制からの逸脱であり違法な内容である。

 

これが原子力発電所内や防災機関などなら、非常時なのでやむを得ないという考え方も出来るかもしれない。しかしどういう説明を付けても、放射能の影響を受けやすい子供達が毎日の生活を送る場所にふさわしいと言うことは出来ないはずだ。

 

法律で厳重な管理が必要な線量

 

放射線管理区域内では、個人被ばく測定器具を用いた外部被ばくモニタリングおよび内部被ばくモニタリングが行われなければならない。出入りや物品の搬出の際には、管理区域からの退出時には、ハンドフットモニタや全身汚染検査計を用いて、身体表面に汚染のないことの確認が必要である。

 

管理区域境界では靴の履き替えが実施され、管理区域外への汚染の拡大が防止されなければならない。物品の管理区域外への搬出の際には、表面汚染検査用サーベイメータを用いて、物品の表面に汚染のないことを確認しなければならない。管理区域内に立入る者に対しては、放射線防護の観点から、定期的な健康診断、教育・訓練等が義務づけられている。

 

以上のような厳重な管理が必要な区域の設定が求められるのが0.6μSv/時であるのに、3.8μSv/時もの線量があっても、特別な対応が不要というのは、明らかな違法行為ではないか。

 

実際の被曝は想定より大きくなる

 

念のために説明しておくと、実際の危険は6倍以上になる。というのも、0.6μSv/時というのは外部被曝だけの場合の基準で、内部被曝が想定される場合は外部被曝内部被曝を合計した実効線量で規制されているが、文科省が児童生徒の線量として考えているのは空間線量だけ、つまり外部被曝だけだからだ。

 

子供達が屋外で活動したり、風が吹けば当然土が舞い上がる。放射性物質が含まれた土ぼこりを空気とともに呼吸しないわけにはいかない。当然内部被曝が発生する。体内に取り込んでしまった放射性物質からは放射線が出続けるので、外部で測定された線量にその分の被曝が加わることになる。体内被曝は蓄積して行くので、被曝量が増加していく。特にアルファ線源は外部被曝の場合の危険性が低い代わりに内部被曝では大きなダメージを与えるので、吸い込まないための対策が必要だ。


文科省はただちに暫定線量の引き下げを

 

子供達の健康を守るという観点で見ると、現在の暫定基準は明らかに高過ぎる。放射線管理が必要な線量の6倍で管理が必要ないというのでは、子供達の健康は守れないし、そもそも違法だ。

 

文科省はただちに基準線量を、最低でも0.6μSv/時以下に引き下げるべきだ。体制が整うまでは、0.6μSv/時よりもさらに余裕を見た、安全面に倒した基準を設定する以外に、子供達の健康を守ることはできない。またストロンチウムプルトニウムといった多くの核種に関しても全校で定期的に測定し、結果を公表しなければ、子供を持つ親は安心することができない。

 

さらに、呼吸による内部被曝を防止するために、全員に対して高性能なマスクを配布し、常に着用するよう指導するべきだ。現在の3.8μSv/時という、法律違反の異常に高い基準線量は、子供達の健康を守るためのものだろうか。子供達を犠牲にして、対策費用を節約するためのものとしか思えない。

 

合原氏の「現在の3.8μSv/時という、法律違反の異常に高い基準線量は、子供達の健康を守るためのものだろうか。子供達を犠牲にして、対策費用を節約するためのものとしか思えない」という懸念がおそらく当たっていることは、江川紹子氏による本間俊充氏((独)日本原子力研究開発機構安全研究センター研究主席・放射線防護学)へのインタビューからも伺える。

私は、福島の学校の子どもたちについて意見をもとめられた時、現存被曝状況を適用して、被曝をできるだけ低くしなければならない、と申し上げました。20mSv/年というのは、飯舘村の計画的避難が決められた時に用いられました。これを越す可能性がある人たちは避難をしなさいということです。「それと同じ値を、学校を再開するために、子どもに適用することは反対です」と申し上げました。


CRPは、大人も子どもも一緒でいい、などとは言っていません。確かに外部被曝の影響は大人も子どももあまり違いは出ていませんが、やはり子どもは感受性が高く、より守らなければならない。他に、妊婦などの感受性を考えなければならない人たちがいます。


今は、日本人の3分の1がガンで死にます。ガンを発症する理由はいろいろで、多くは何が原因か分からない。私のような年だと、多少放射線を浴びても、それが原因でガンを引き起こす前に、別の理由でガンになって死ぬでしょう。でも、子どもは余命が長い(ので、その間に影響が出る可能性は年長者より高い)。だから、子どもに関しては特にケアしていくべきです。


なので、まずはモニタリングをきちっとやっていきなさい、と申し上げた。それも学校の1カ所だけで測るのではなく、「校庭も校舎の中もまんべんなく測りなさい」と。それを夏までに環境を変えるための資料にしたい、というのが文科省の立場ですね。


それはいいのですが、実際に測った値を見て驚いたのは、校庭の線量が高いんですね。3月15〜16日に降った雨の影響だと思います。建物があれば屋上や側壁にくっつく分がありますが、校庭はすべてを地面が受け皿になってしまった。文科省が20mSv/年に達するとして想定した3.8μSvを上回る所もありますね。


限度を半分の10mSv/年にすればかなりの数の、従来の1mSv/年にすればほとんどの学校が対象になってしまい、学校が再開できなくなってしまう、ということで、20mSv/年としたのでしょう。文科省はとても急いでいて、早く原子力安全委員会のお墨付きをちょうだい、という感じでした。


私は、原子力安全委員会がこの文科省の方針を認める判断をするプロセスには関わっていないので、どのようにして決められたのかは分かりません。ただ、決めてしまったからには、この線量を少しでも下げる努力をすることです。被曝を少なくするためには、高い所から優先的に対応をとっていく。校庭であれば、表土を削ぐくらいはやるべきでしょう。

 

子どもたちの安全や健康よりも、最小の手間と費用で自分たちの業務をこなすことを優先させる文科省。たとえそのせいで被害が発生しても、「専門家」のお墨付きさえもらっておけば自分たちの責任が問われることはないと高を括る文科省

こんな官僚連中が、戦前も戦後もこの国の教育を牛耳ってきたのだ。