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東シナ海ガス田に関するWikipediaの説明がいろいろとひどい

領土問題

 

この項目を誰が書いたのかは知らないが、産経新聞防衛省発表が参照先のほとんどを占めている、という時点で内容の偏向度とそのレベルは推して知るべしだろう。こと中国韓国や歴史認識に関わることでは極端に信頼性が落ちるという、日本語版Wikipediaの特性の一例でもある。

 

さて、東シナ海ガス田問題についての第一人者といえば、40年間にわたって石油・ガスの開発事業に従事してきた専門家である、元石油資源開発株式会社取締役の猪間明俊氏をおいて他にはいないだろう。そこで、猪間氏による解説[1][2]と対比しながらWikipediaの誤りを指摘していくことにする。

 

Wikipedia

2004年

6月、中国が春暁(白樺)の本格開発に着手したことがわかり、春暁(白樺)・断橋(楠)付近の海域を独自に調査。春暁(白樺)・断橋(楠)は地下構造が中間線を挟んで日本側につながっており、天外天(樫)、龍井(翌檜)もその可能性があることを日本政府は確認した。このため、中国が日中間で地下構造がつながっているガス田の採掘を始めると日本側の資源まで吸い取られてしまう可能性が高いとして問題視している。そして、外交ルートを通じて当該海域での開発作業の即時中止と、地下構造のデータ提供を求め続けているが、2005年現在、中国側はデータ提供を拒んでいる。

猪間氏[1]:

 日本の国内法では、石油・ガス井戸は鉱区境界から100メートル離せば掘ることが認められており、それだけ離れさえすれば、先に掘った者が結果的に隣の鉱区の資源を採ることを禁じていないのである。隣の鉱業権者がそれで不満なら、自分も境界から100㍍離して井戸を掘るはかなく、相手に対して開発をやめろという権利はない。国際的に、国境からどれだけ離せという法律はないし、日中間でそのような取り決めもないのだから、「春暁ガス田」 の開発をやめろというのは国際的に通らない要求なのである。

 中国は、「春暁ガス田」を見つけるまでに不成功井を含め、いろいろな調査や掘削を実施し、その結果、地下地質資料を蓄積してきたはずである。そのために膨大な投資をしてきたことは間違いない。つまり、地下地質資料というのは、石油開発会社にとっては貴重な財産なのである。それを見返りもなく見せろという日本側の主張は、工業製品メーカーにその特許技術を開示しろと迫るのと同じくらいに失礼なことで、この業界では世界のどこでも通用しない要求である。係争海域に井戸を掘り込んでいるかもしれないからその井戸の傾斜掘りのデータを見せろ、と言うことはできるが、そのようなデータはいくらでも捏造できるのだから、要求をしても意味がない。

 

Wikipedia

2005年

(略)

中国側は日本の抗議に対し日中共同開発を提案してたが、日中中間線より日本側の領域のみの共同開発としているため、日本政府は受け入れを拒否した。2005年10月、同問題についての日中局長級協議で、日中中間線をまたぐ春暁など4ガス田に限って共同開発する提案を中国側に行った。中国政府は「日本の行為(試掘権付与)は中国の主権と権益に対する重大な挑発かつ侵害」「強烈な抗議」と自国の行為を棚に上げて反論している。中国は、中国海軍の最新鋭艦であるソヴレメンヌイ級駆逐艦を含む5隻程度の艦隊でガス田周辺の警備を行っており、管轄の南京軍区や東海艦隊は、ガス田開発問題が表面化して以降、日本との突発的な軍事衝突に備えて第一級警戒態勢を布き、幹部の無許可での移動を禁じていると言われている。

猪間氏[1]:

 国民の多くが、日本が共同開発を提案しているのに対し中国が拒否していると思っているようだが、実際は、中国側が係争海域を日中で共同開発しようと言っているのを日本がそれだけでは絶対にダメだ、中国側の海域も共同開発エリアに含めろと言って拒否しているのである。だが、中国側海域はすでに探鉱が進んで、それほど魅力がなくなっている。中国側海域を含めるのが得か否か、よく考える必要があろう。

猪間氏[2]:

 それから開発を一緒にやろうということ、これも自分で見つけて生産を始めたところに俺も入れてくれとおしかけてきたようなもので、はいはいと言っていれてくれるそんなお人よしは世界中探してもいませんよ。入れるんなら当然自分がそこの油田を見つけるまでの何倍かを報償として出してくれるのなら、やらせてあげてもいいよというところでしょうか。向こうがよっぽど金繰りに困っているならありうる話かもしれませんが、なんでわざわざ苦労して掘り当てた油田を他人にやらせますか。そういう意味で日本側の要求は全く無茶で常識はずれな要求だと思います。

(略)

石油産業構造図

 左の図を見ていただきたいのですが、石油産業には上流部門と下流部門があって、上流に開発(Exploitation)と書いてありますね。英語で言うエクスプロイテーション、これは開発と訳すのです。このエクスプロイテーションのなかに何があるかというと、探鉱、地質調査から試掘までですね、それから井戸が見つかってそれを生産に結び付けるまでの作業これも開発と言っているのですが英語でいうとDevelopmentになります。日本ではエクスプロイテーションとデベロップメントを両方開発と言っていますさっき日本は中国に共同開発を申し込んだと言いましたね?。これは中国側でエクスプロイテーションが終わった場所で日本側はデベロップメントを一緒にやろうと言っているのです。一般的に共同開発と言いますと何をわれわれ石油人が思うかと言うと、エクスプロイテーションの方なんです。というのはエクスプロイテーションにはリスクがあるからです。デベロップメントの方はもう油田を見つけた後ですから、それはリスクはありますが、エクスプロイテーショに比べればお金が沢山借りられるくらいにリスクは小さいのです。ですから失敗の大きなリスクのあるエクスプロイテーションを一緒にやるのが共同開発というのが石油人では常識なのです。相手が見つけた油田を俺にも一緒にやらせろなんていうのは石油人の常識からは外れています。

 東シナ海ではもし日本側が日本が主張しているエリアで石油・ガスを欲しいのならば中国側と共同開発、即ち共同エクスプロイテーションをしなければ駄目だと私は思います。先方は絶対譲らないわけですからね。

 

Wikipedia

2008年

6月8日、中国政府は春暁ガス田の共同開発相手として日本企業の参加も認めると伝えてきた。

東シナ海ガス田が全て操業を開始したとしても、大消費地の上海周辺の需要量から、1-2年の需要を賄なう程度の埋蔵量しかないのではないかと推定されており、日本はもちろん、中国側から見ても決して採算性のある事業ではない。そのことから、中国の真の狙いは、ガス田の開発それ自体より、日中中間線付近に複数のプラットフォームを建設することにより、日中中間線近くの海上に「事実上の中国領土」を人工的に作り上げ、第一列島線の一部でもある東シナ海制海権と軍事的優位を確立することにあるのではないかと推定されている[1]。

(略)

2009年

1月4日、『産経新聞』が、2007年6月18日の日中両政府間の政治合意後も、中国が「樫」(天外天)で単独開発をしている事実をスクープした。

2008年7月、海上自衛隊のP3C哨戒機が、樫(天外天)のプラットホーム周辺の海域が茶色く濁っているのを確認し、変色した海域が拡大したり、海面が激しく泡立ったりしたのも把握した。また、同月頃にパイプやドリルを使い、樫(天外天)で掘削を開始した。掘削は最短で1カ月程度で終わるとされることから、石油と天然ガスの採掘に入ったとの見方が強いと報じた。そして、同日、中国外務省の報道局長は「天外天(樫)が中国の海域であることは争いがなく、作業を行うのは固有の権利で日本との間に共同開発の問題は存在していない」と強く反発した。

 

ここまで来ると、もはや猪間氏の知見を借りるまでもないだろう。一方で、ガスの埋蔵量などたかが知れている、採算性などない、中国の本当の狙いは軍事利用だ、と書きながら、そのすぐ下には、中国がガスの採掘を始めた証拠を見つけたぞ、資源を盗られる、けしからん、といった趣旨のことを平気で書く。中国のやることなすことにケチをつけることばかりに目が行っているから、自己矛盾に気付きもしないのだ。

 

[1] 猪間明俊 『東シナ海ガス田開発問題の焦点』 週刊東洋経済 2005.10.1

[2] 猪間明俊 『世界中の石油探査40年―東シナ海ガス田開発問題の理解のために―』 2007.8.3(講演)

 

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