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「そうだヘイトしよう!」 はすみとしこ本の嘘(3)「帰化」 ― バカにされているのは読者

 

『そうだ難民しよう!』は、本文の半分近く、その他を含めた全体から見ても1/3強を在日や韓国・朝鮮への誹謗中傷に費やしている。

その先頭に置かれているのが「そうだ在日しよう!」だ。この項によると、在日コリアンには「被害者利権」「カンタンに生活保護」「何か困れば通名変えて人生リセット」などなど、数々の美味しい特権があるらしい。

ところが、そこからたった十数ページ先に進むと、「私の帰化した理由」というのが来る。それによると、日本のパスポートが持てるとか国会議員に立候補できるからという理由で在日は日本に「帰化」するのだそうだ。

在日コリアンは、現在毎年約1万人が「帰化」していると推定されている[1]。累計では30万人を越えているだろう。いったいそのうち何人が国会議員になりたくて「帰化」したというのか。

だいたい、ついさっき、「こんな特権手放す馬鹿がいるものか」と自分で断言したばかりではないか。

 

普通の読解力があれば、何かがおかしいことに気がつくはずである。

こういう矛盾した内容を平気で書けるのは、著者が、どうせ自分の本の読者は十数ページ前に読んだことなど忘れているだろう、と思っているからだ。バカにされているのは読者なのである。

 

実際には、在日が「帰化」する第一の理由は、この社会では日本国籍がないと生活上あらゆる面で不利だからだ。一例を示そう。1959年生まれの陶芸家、鄭チョン琪満ギマンさんの実体験である[2]。

 三人兄弟の末っ子として鄭が生まれ育った博多・吉塚には、朝鮮人集落があり、トタン屋根のバラックが建ち並んでいたという。「家は、六畳一間で親子五人が暮らしていた。親父は、塩づくりをしたり、飴玉売りをしたり、どぶろくもつくって売ってたようです。そのうちにし尿処理業をするようになって、最初はリヤカーとひしゃく、しばらくすると、バキュームカーになっていました」。

 (略)

 高校を卒業するころまで、鄭は「朝鮮人であることを隠していました。それがいいのだと思っていました。自分の集落を一歩出ると、『日本人』のようにしていた。家の中では、よく親父に『なして朝鮮人に生んだんヤ』と悪態ついたとですよ」。だから、友だちが遊びに来たときに郵便物で「鄭」の宛名があるのは全部抜き取り、「通名」の郵便物だけが見えるようにし、朝鮮人であることがバレないようにした。(略)

 「通名」で生活し、朝鮮人であることを負のイメージで捉えていた鄭に突如、大きな試練が襲った。首席で大学を卒業した次兄の就職が、朝鮮人であることを理由に拒絶された。大手の金融機関だった。それが原因で、次兄は自殺未遂をした。その兄が必死で見つけてきたある企業は「日本帰化」を採用条件としてつきつけた。父一泰は、「日本人になる」ことに大反対した。

 1924年生まれの一泰は、全羅北道南原の貧しい農家の四男で、18歳のときに農作業中、姉の目の前で日本軍人に引きずられるようにして強制連行された。筑豊の炭鉱では「太陽を見たこともない」過酷な強制労働をさせられ、敗戦末期には飛行場建設をやらされた。戦後になっても帰れなかった。だが日本国家は何ひとつ償いをしなかった。「日本人に負けるな」。一泰は息子たちにこう言い続けたという。

「一世にとって、名前が変わるのは同胞への裏切りで、故国に帰れんということを意味しました。『帰化』をめぐって毎日のように兄貴と親父の争いが続き、家の中は凄惨な状態が続きました。結局、親父は兄貴の就職のために泣く泣く『帰化』を受け入れました」。(略)

 鄭の家族が「帰化」申請したのは1976年、琪満が高校二年のときだ。「帰化」申請のために集落に少し離れた家を借金で買った。(略)「帰化」申請で忘れられないのは、10指紋と掌紋を取られたときだ。「暗く狭い部屋で指を一本ずつ回転させて採取されました。なんとも言えない屈辱でした」。

 鄭らの「帰化」が「認められた」のは一年後の77年12月1日。新たな「日本人らしい」日本名を押しつけられ、民族名を奪われた。だが「帰化」を境にして、鄭は国籍と民族の狭間を彷徨い、同胞に対するうしろめたさもからみついた。居場所がなく、アイデンティティを探し求め続けた。(略)

 

制度的差別や「帰化」手続きの内容はその後徐々に改善されつつあるとはいえ、日本社会の基本的な差別構造は戦後一貫して変わっていない。「在日特権」どころか、差別があるからこそ在日は「帰化」を選ぶのである。

 

[1] 仲尾宏 『在日韓国・朝鮮人問題の基礎知識』 明石書店 1997年 P.23
[2] 田中伸尚 『続・憲法を獲得する人びと 第6回』 世界 2003年6月号 P.44-46

 

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