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勾留中の警察署内で被疑者が「挫滅症候群」で死亡?

奈良県警での被疑者不審死事件

このニュースには、心底背筋が寒くなった。

週刊朝日(12/2)

勾留中に暴行死? 奈良県警告発したのは時津風部屋暴行事件の“立役者”

(略)

 11月15日、岩手医科大の出羽厚二教授(法医学)が、奈良県警を告発した。罪状は特別公務員暴行陵虐致死容疑。「勾留中に死亡したのは、取り調べ時の暴行による急性腎不全などが原因」と訴える。

 亡くなったのは医師の塚本泰彦氏(当時54)。奈良県大和郡山市の「山本病院」(現在は廃院)に勤務当時、手術ミスで患者を死亡させたとして、2010年2月、業務上過失致死容疑で逮捕され、奈良県警桜井署の留置場に勾留された。だが、19日後に突然死亡したのだ。奈良県立医大は死因を「急性心筋梗塞(こうそく)」とし、病死と判断した。

(略)納得いかない遺族は13年、奈良県を相手に民事裁判を提起。大相撲時津風部屋の暴行死事件で被害者の力士を解剖し、愛知県警が「事件性なし」とした当初の判断を覆した出羽教授に、解剖結果の再検証と鑑定意見書の作成を依頼した。

 出羽教授は「亡くなる前日の検査データから総合的に判断すると、死因は急性心筋梗塞ではなく、筋挫滅に伴って腎不全を起こし、さらに肝不全、呼吸不全を起こした多臓器不全です。つまり、取り調べ時の暴行が原因になったとしか考えられないのです」と主張。

 一方、奈良県警は訴訟で、「暴行は一切ない」と全面否定し、右ひざ下に残っていた大きなあざについては、「床にあぐらをかいて座る際、右ひざを折り曲げながら地面に落とすように座り、床に打ち付けられるような形となった」などと反論。だが、出羽教授は「尻にまったくあざがないのは不自然」と指摘する。

(略)

筋挫滅による急死は、阪神淡路大震災の際、瓦礫の下から救出された負傷者に多発し、「クラッシュ症候群(挫滅症候群)」として注目を集めた症状だ。損傷を受けて壊死した筋肉からカリウム、ミオグロビン、乳酸などが血液中に大量に漏出し、これが心不全や急性腎不全を引き起こす。実際、ANNニュース(11/15)で放映されたこの遺体の画像を見る限り、被害者の足はひどい内出血を起こしており、筋挫滅が生じていたことを伺わせる。

出羽教授が言うとおり、蹴られたのだろう。それも執拗に蹴り続けなければ、こんな状態にはならない。

損傷を受けているのは足だけではない。事件性はないとした当時の鑑定書でさえ、ほぼ全身に打撲による内出血があったことを認めている。

小林多喜二の虐殺事件を連想させる遺体

遺族も言及しているが、この遺体写真から、特高警察に虐殺された小林多喜二を連想した人も多いだろう。

多喜二は逮捕されたその日(1933年2月20日)のうちに、3時間にわたる凄惨な拷問の末、虐殺された。遺体は体じゅうが殴る蹴るの暴行による傷に覆われ、内出血を示す痣だらけだった。写真が示すように、とりわけ下腹部から太腿のあたりがひどく、どす黒く腫れ上がっていた。死因は恐らく今回と同じく挫滅症候群だろうが、警察による発表は「心臓麻痺」だった。

もちろん、警察に虐殺された被害者は多喜二だけではない[1]。

(略)警察署内で虐殺された者は80人余にのぼります。西田信春は、捕らえられたあと消息が不明でしたが、九州大学医学部解剖学教室で遺体が発見されました。警察は虐殺した遺体を、身元不詳・氏名不詳の行路病者だとして運び込んでいたのです。上田茂樹のように、今なお消息が一切不明の人もいます。

 獄中で拷問、虐待が原因で獄死した者114人、病気で獄死した者1503人にのぼります。拷問・虐待が原因で発狂した人も少なくありません。また留置場・拘置所・刑務所などで病に犯され、釈放されたものの病死した人もいますが、その人数は不明です。

■ 敗戦後も精算されなかった警察の特高体質

政府はいまだにこれら拷問・虐殺被害者への謝罪すらしていない。一方で、こうした虐殺を指揮した特高官僚たちは戦後ほどなくして復活し、国家機関や地方自治体で要職についている[2]。

 小林多喜二を築地警察署で虐殺した、この権力犯罪の「主犯」格といえる中川成夫は、戦後、東京都北区教育委員長になっています。

 中川一人にとどまるものではありません。特高官僚たちは、そ知らぬ顔で国会議員となり、国家機関や地方自治体で要職についています。そのポストは国家公安委員、警察庁長官、警視総監、防衛事務次官自治事務次官、文部事務次官、厚生事務次官公安調査庁局長、県知事、副知事、市長、助役、教育委員長、まだまだあります。

特高官僚が警視総監や警察庁長官にまでなっているのだ。これでは、被疑者への虐待を当然視していた戦前戦中のままの古い体質が、民主化されたはずの戦後警察にも受け継がれただろう。

誰が聞いてもおかしいと分かる不合理な言い訳をして恥じない虚言体質もそうである。

 
今回の事件は、最初から殺すつもりで暴行を加えた小林多喜二のケースなどとは事情が違うが、自白を得るために被疑者に暴力を振るったのであれば、まぎれもない拷問である。

安倍自民党憲法の拷問禁止条項を緩和しようとしていることを考え合わせると、戦慄せざるを得ない。

日本国憲法

自民党改憲草案

第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁止する。 第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、禁止する。

 
この事件にはさらに、警察署内の代用監獄での長期勾留、可視化されないままでの密室での取り調べなど、人権後進国日本を象徴する様々な要素もからんでいる。このような事件をあいまいなままに終わらせては、やがて戦前並みの人権蹂躙の再来を許すことになる。

絶対に許してはならない。

[1] 柳河瀬精 『告発!戦後の特高官僚』 日本機関紙出版センター 2005年 P.11
[2] 同 P.12
 

告発戦後の特高官僚―反動潮流の源泉

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証言特高警察 (新日本新書 292)

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あたらしい憲法草案のはなし

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