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発禁本だった『子供の震災記』。そして残された謎。

前回記事「小学生の恐ろしい作文を改ざんする卑怯な大人たち」をきっかけに、さらに深掘りした調査が行われ、新たな事実が分かってきた。これは大変嬉しい。

まず、日比嘉高氏(名古屋大学大学院人文学研究科准教授)による次の記事。

hibi.hatenadiary.jp

日比(id:hibi2007)氏によると、『子供の震災記』は内務省の検閲により発禁処分となってしまい、これを出版可能にする(検閲をクリアする)ために、この文集を編さんした東京高等師範学校附属小学校初等教育研究会の教員たちが、作文中の朝鮮人関連部分を書き換えたり削除したりしたのだろうという。

この本が発禁処分となった事実は、国会図書館に2冊あるうちの片方(改ざん前の版)に、特500-641という請求記号が付けられていることから分かるとのこと。(「特500」は、その資料が1937年以降に内務省から帝国図書館に移管された発禁本であることを意味する。)

さらに、日比氏が「最後の謎」だとしていた、国会図書館の発禁本より出版が一ヵ月早い神戸市立中央図書館所蔵本について、神戸在住のしろきち(id:shirokichi_essay)さんが、図書館に直接足を運んで調べてくださった。

cherry-blossoms-on-the-ridge.hatenablog.com

その結果、確かに奥付に書かれている印刷・発行の日付は発禁本より一ヵ月早いものの、その内容は改ざんが行われた後のものだったとのこと。

元記事の投稿からわずか3日でここまで分かってしまうというのは、すごいことだと思う。

ところで、『子供の震災記』と同じ頃に、同じように検閲を受けて出版された、東京市学務課編『東京市立小学校児童震災記念文集』では、たとえば「朝鮮人」を「◯◯人」とするなど、単純な伏せ字化によって修正が行われている。このため、もともとそこに何が書かれていたかは容易に推測できる。

このような修正でも検閲を通すことはできたのに、なぜ『子供の震災記』ではより巧妙に、文章の書き換えや大量削除により朝鮮人関連の記述を完全に隠蔽してしまったのか。単純な伏せ字化よりはるかに手間暇かかったはずなのに、なぜそこまでしなければならなかったのか。私的にはこれが残された大きな謎である。

もっとも、改ざんに関与した人々がすでに全員故人となっているはずの現在、その解明は困難だと思うが。。

 

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