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TVアニメ化されるというラノベ『二度目の人生を異世界で』の設定がひどすぎて目眩がする

■ 日本アニメ好きの中国人を嘆かせるネトウヨ原作ラノベ

先日流れてきた、日本のアニメが好きだという中国人の方のツイート。この秋TVアニメ化されるラノベ『二度目の人生を異世界で』の内容がひどすぎる、しかも原作者が中韓ヘイト丸出しのネトウヨだと嘆いている。既に中国のネットでは大炎上中らしい。

そもそもどんな話なの?と、Web連載されている原作を少し読んでみた。

このラノベ、ヨーロッパ中世風の剣と魔法の異世界に転生した主人公(日本人・男)が、向こうの世界にはない知識や能力のおかげで無双するwという、まぁよくある安易なストーリーなのだが、途中で明かされる主人公の設定が唖然とするレベルでひどかった。

功刀 蓮弥 人族 享年94歳。
(略)
界渡り前は、功刀一刀流第14代当主。
幼少より剣道を嗜み、13歳にして剣術へ移行し、その才能を開花させる。
15歳より、武者修行と称し中国大陸へ渡り黒社会で活動。
刀一本で大人数へ切り込み、生還する様から「剣鬼」の異名で呼ばれる。
黒社会活動中の殺害人数は5年間で912名に及ぶ。
その後、世界大戦に従軍。
4年間の従軍期間中の殺害数は3712名、全て斬殺。
「ブレードオーガ」のコードネームで畏怖される。
終戦後は功刀流の家督を継ぎ、後進の育成や、剣術の普及に尽力。
各地で公演や剣術の実演を行い、功刀一刀流を広く普及させ、国内外に49の道場を持つに至る。
晩年は刀匠として大成し、「華蓮」の銘を持ち、人間国宝に指定。
美食家としても知られ、自身も高い料理の腕を持つ。
94歳と127日目にして、老衰にて死去。
生涯殺害数、5730名。

連載開始が2014年なので、この主人公は1920年頃生まれたことになる。すると、日中戦争開始時点で17歳、敗戦時で25歳くらいか。で、この間に912+3712=4624名を斬殺した、と。

引き算してみると戦後も1000人以上殺していることになるというトンデモはとりあえず無視するとしても、この設定のあまりの馬鹿らしさには乾いた笑いしか出てこない。

■ 主人公(転生前)はどこでどのように人を斬りまくったのか

ところで、上のツイートのような批判に対して、「設定には日中戦争で斬り殺したとは書いてない」「デマだ!」と反論している人たちがいるのだが、こういう人は日中戦争と世界大戦(アジア太平洋戦争)が別物だと思っているのだろう。しかし、日本は1937年の盧溝橋事件から1945年の敗戦まで、ずーっと中国と戦争し続けていたのであって、だから中国では日中戦争のことを「八年抗戦」とも呼んでいる。日中戦争はまぎれもなく世界大戦の一部なのだ。

「ブレードオーガ」なる「コードネーム」からは、大戦中に主人公が斬ったのは米兵だと思ってほしい作者の気持ちwが伝わっては来るのだが、大小あらゆる火器で重武装した米軍を刀一本で斬りまくるというのは非現実的過ぎて失笑モノとしか言いようがない。まして、日本刀という武器が戦国時代以来の「大活躍」をした舞台が八年抗戦時代の中国なのだから、中国の人々がこの話に恐怖と嫌悪を覚えるのは当然なのだ。

それに、異世界側の設定であればいくらでも好きにすればいいが、ここは現世における主人公の生涯に関する設定なのだから、いくらラノベでも歴史的事実をガン無視したデタラメは許されない。この主人公が斬殺しまくった舞台は中国しかあり得ないだろう。

ちなみに、米軍ほどの火力は持たない敵が相手でも、近代戦の戦場で日本刀をふるって敵兵を斬り殺すというのは、現実的には無理な話だ。以下は、自分自身四十数名の中国人を斬殺した体験者である鵜野晋太郎氏が、更にその上を行っていたと思われる下士官について語っている話である[1]。

 そのころ大隊本部に、公式には「喇叭ラッパ長兼本部書記」の肩書の藤井曹長がいたが、私は彼に妙に心をひかれた。(略)それにもまして確度の高い噂では、藤井は軍刀で50人以上、一説では100人以上斬っていると言われていた。私より2年先輩の昭和13年入隊、身長1メートル70、痩せぎす面長の、口数の少い、それでいてどことなくさっぱりした粋な男であった。(略)彼との交わりは半年に満たなかったが、彼の“殺人訓”を要約すると、次のようになる……
 「私が50人なのか100人なのかと聞かれても答える口はもちませんよ。差し料(自分の所持している刀剣)が普通程度のものであれば、白兵戦で敵と渡りあってガタガタにならない限り、据え物だったら相手が抵抗出来んように痛めてあるから、100人位十分殺れるんじゃないですか。…そして相手を人間と思わんことですよ。まあ私は犬コロくらいにしか思ってませんから、まず失敗なんてありっこないですよ。ホラ見て下さい、これを……」
 藤井は差し料を引き抜いて切先の部分を指さした。――「スーと細い擦った線が沢山見えるでしょう。首を斬った時につく頸骨けいこつが擦れた跡です。だからこの一本一本の線を数えれば何人斬ったか判りますよ。しかし将校さん方から時々、白兵戦で何人も何人も斬ったと言う話が流れるが信じませんね。……そうでしょう。刀ほど危ないものはないですよ。一対一でも着剣小銃手と闘っても勝てないですよ。……まして一対二なら一辺ですよ。ツンゴピン(中国兵)が本気になったら怖いですよ。だから私は、据え物で何十人斬ったと言うのなら信じますがねえ……日本の兵隊の着剣小銃での刺殺はあり得ますよ。あれなら殺れますね。……明治維新での新選組の池田屋の斬り込みは、最低三人が一団となってのことですから、あれでは斬れますよ。だから軍刀の武勇伝と言うのは嘘ですな……」
(略)
 昭和18年はいろいろと戦闘の多い年で、負け戦もあった嫌な年であった。早春の頃、私は藤井と共謀――と言うよりむしろ彼に三拝九拝して、日本憲兵隊の密偵(中国人の漢奸)を暗殺して貰ったことがある。あの頃の情報関係者は密偵に塩の独占搬入権を与えて使っていたが、憲兵が大隊の縄張りを荒すので、業を煮やしてその密偵をだまして連れ出し、藤井に背後から不意打ちさせて殺したのだった。彼の慣れた刀捌きに私は恍惚としたし、益々殺意が体中に漲った感じで、毎朝真刀(つまり軍刀)で“百本振り”をやって自慰したものである。

鵜野氏や藤井曹長は、ネトウヨラノベ作家の「ボクのかんがえたさいきょうのけんのたつじん」などではなく、日本刀の用法に熟達した本物の人斬りなのである。その彼らが言うように、戦場で敵を斬りまくったなどという軍人の自慢話は大嘘で、ほぼすべてが実際には無抵抗の捕虜や民間人の虐殺だったのだ。

つまり、この主人公がやってきたことも、要するにそういう行為でしかあり得ない。

■ 設定段階で破綻しているストーリー

数百人以上の旧軍人から聞き取りを続けてきた保阪正康氏によると、残虐行為の経験を持つ元軍人は、普段は平気な顔をしていても、自らの死期を意識する頃には罪悪感にさいなまれるようになるという[2]。

保坂 (略)僕は医学システムの評論やレポートなんかも書くから医者からよく相談されるんですけど、八十代で死にそうなおじいさんがいるというんですよ。

京極 ほう。

保坂 四十代の医者が僕のところにきて、もう動けないはずの患者が、突如立ち上がって廊下を走り出すというんですよ。そして、訳わかんないことを言って、土下座してしきりにあやまるというんです。そういう人たちには共通のものがある。僕はこう言うんです。「どの部隊がどこにいって戦ったかというのを、だいたいは僕はわかるから、患者の家族に所属部隊を聞いてごらん」。みんな中国へ行ってますよ。医者はびっくりします。

京極 ひどいことをしたのをひた隠しにして生きて来られたんですね。

保坂 それを日本はまだ解決していない。

ところがこの主人公は、戦後もやりたい放題やって人生を楽しんだあげく、何の思い残すこともなく大往生を遂げたことになっている。何千人もの人を殺しておいて何の苦悩もなかったというのは、つまりこの主人公には人としての心がなかったということだろう。

しかし、人の心(魂)がない人間が、どうして転生などできるのか

これこそが、このストーリーの根本的矛盾だろう。

■ 口直しが必要

一応漫画版のほうもWeb公開分だけは読んでみたのだが、あまりの薄っぺらさに辟易するばかりだった。ここは口直しに『青猫について』でも読み直してみることにしよう。

yawaspi.com

【2018/6/6追記】
「そもそもファンタジーなんだから何書いてあっても現実とは関係ない」とか言っている人たちは、「外国人(日本人とは言ってない)を拉致しまくった某国(北朝鮮とは言ってない)の腕利き工作員が異世界転生して最強の諜報スキルで無双」とか、「独力でサリンの大量生産に成功した某カルト教団(オウムとは言ってない)の天才科学者が異世界転生して大魔導師になって無双」みたいな話がTVアニメ化されたらどんな騒動になるか、そのとき「ネタにマジレスw」「時代劇作家にも言え」みたいな弁解が通用するかどうか、ちょっとは考えてみたらいいんじゃないですかね。
【追記終わり】

[1] 鵜野晋太郎「日本刀怨恨譜」/本多勝一編 『ペンの陰謀』 潮出版社 1977年 P.379-380
[2] 『スペシャル対談 京極夏彦×保阪正康』 IN・POCKET 2003年9月号 講談社 P.30-31

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