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「法の支配」の意味を知らなかった安倍晋三はどういうつもりでこの言葉を振り回していたのか?

小西ひろゆき参院議員(立憲民主党・民友会)が安倍に『「法の支配」の対義語は何か?』と質問し、安倍が答えられなかった一件が話題となっている。

このやりとりを文字起こししてみるとこうなる:

小西:安倍総理、よく「法の支配」という言葉をおっしゃいますが、「法の支配」の対義語は何ですか?「法の支配」の反対の意味の言葉は何ですか?

安倍:あの、いわば、私が申し上げているのはですね、私が申し上げている「法の支配」というのは、まさにこの、反対語というよりも、いわば、えー、この海、繁栄の海、アジア太平洋の海を繁栄の海としていく、インド太平洋を繁栄の海としていく、地域としていく上においては、まあ法の支配、国際法の支配の中において、ルールを守る、ということが大切であると、いわば、力による現状変更ということは認めない、ということ、でございまして、この、そういう意味におきまして、まさに、法の支配による、ルールによる、国際秩序を維持をし、平和な海を守っていくことが、それぞれの国の繁栄につながっていく、という考え方を示している、ということでございます。

小西:「法の支配」の対義語は、憲法を習う大学の一年生が一番はじめの初日で習うことですよ。改憲を唱える安倍総理が「法の支配」の対義語を答えられないんですか?「法の支配」の対義語を一言で答えてください。

安倍:・・・・・・・

小西:憲法が依って建つ基本原理すら理解せずに改憲を唱えている安倍総理に教えて差し上げます。「法の支配」の対義語は「人の支配」です。権力者の専断的行為によってルールを捻じ曲げて、国民の自由や権利を侵害する、そういう時代がかつて人類にはあったから、近代立憲主義に基づく憲法を作る、その近代主義の憲法が基づく理念が「法の支配」の原理なんですよ

小西議員のこの追求を「クイズ」だとか「質問通告がなかった」とか言って安倍を擁護している信者がいるようだが、確かに、安倍が今まで使ったこともなかった言葉についていきなり質問したのならそうも言えるだろう。しかし、これはそんな問題ではない。むしろ安倍は「法の支配」という言葉が大好きで、首相としての国会答弁の中だけでも何十回も使っているのだ。

そんな安倍が、この言葉の意味を知らなかったというのだから、事態は深刻だ。

では、安倍はこの言葉をどんなふうに使ってきたのか。主な事例を抽出してみるとこうなる。

2007/3/9 参院予算委員会:

○内閣総理大臣(安倍晋三君)
(略)
 その中にありまして、まずは中国、韓国といった近隣諸国との関係を、未来志向の関係を構築をしていく上において信頼関係をつくっていくことが大切だろうと思います。そしてさらには、やはり日本は自由と民主主義、基本的な人権、法の支配といった基本的な価値を多くの国々と共有をしています。そうした観点から今まで外交を展開をしてはこなかったわけでありますが、そういう国々との連携を強化をしていくことが大切だろうと思います。(略)

2018/11/5 参院予算委員会:

○内閣総理大臣(安倍晋三君)
 簡潔にお答えをさせていただきたいと思いますが、まず、地球儀を俯瞰する外交というのは何かといえば、これは、ある国との二国間関係だけを見るのではなくて、世界全体を俯瞰しながら外交を戦略的に進めていくということでございまして、(略)
 同時に、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を共有する国々との関係を発展させ、その外縁を広げていきたいと、こう考えています。
 そしてまた、今後とも、国際協調主義の下の積極的平和主義の下で積極的に外交を展開し、国益を守り、地域や世界の平和と繁栄にも貢献をしていきたいと思っております。

安倍が「法の支配」を口にするときは、たいてい「自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値」というような、決まり文句の形をとる。

これだけ聞くと、何となく意味が分かって言っているかのように聞こえるのだが、なぜか安倍がこのフレーズを使うのは決まって外交についての話の中なのだ。なぜ外交戦略がどうしたとかいう話の中に立憲主義の基本理念が出てくるのか。…どうも怪しい匂いがする。

2013/10/15 参院本会議:

○内閣総理大臣(安倍晋三君)
(略)
 私は、現実を直視した外交・安全保障政策の立て直しを進めてまいります。
 国家安全保障会議を創設し、官邸における外交・安全保障政策の司令塔機能を強化します。これと併せ、我が国の国益を長期的視点から見定めた上で、我が国の安全を確保していくため、国家安全保障戦略を策定してまいります。
 さらに、日米同盟を基軸とし、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった価値観を共有する国々と連携を強めてまいります

そして、こちらの例では「法の支配」が「日米同盟」と並べて使われており、さらに怪しさが増している。それどころか、こうなると「自由」「民主主義」「基本的人権」の意味さえまともに理解できているのか疑わしくなってくる。

2015/9/14 参院平和安全法制特別委:

○内閣総理大臣(安倍晋三君)
 日本は資源の多くを輸入に頼っておりまして、生産された製品の市場を海外に求める貿易立国であります。日本の生命線である海上交通路の安全確保は、日本のみならず、国際社会全体の繁栄と発展に不可欠であります。
 ホルムズ海峡については、岸田外務大臣が二〇一三年十一月にイランを訪問した際、ザリーフ外相との間で、ペルシャ湾と太平洋とをつなぐシーレーンにおける法の支配の尊重、制限のない貿易、航行の自由等の重要性について確認をいたしております。また、我が国は、海上の安全、海洋汚染の防止等の海事問題に関するルール策定に重要な役割を果たしている国際海事機関の活動に参加をしておりまして、重要な海運・造船国としての知見を生かして貢献をいたしております。

で、とうとう「シーレーンにおける法の支配」とか言い出してしまう。シーレーン防衛と立憲主義にいったい何の関係があるのか?

どうやら、安倍にとっての「法の支配」とは、「既存の体制(強者)が決めたルールに従わせること」であるらしい。従って外交面では軍事超大国アメリカへの全面追従となるが、これが国内に向かえば「与党であるオレらが(隠蔽・改ざん・強行採決で)決めた政策に黙って従え」になるのは明白だろう。「法の支配」ではなく「法で(オレらが)支配」だ。

こんな、近代立憲主義の基本の基も理解していない、議席数さえあれば何でも好き放題やっていいと思っているような愚か者に、憲法など絶対にいじらせてはならない。

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