福島第一原発の全電源喪失事故発生直後、日本政府が米国からの冷却剤提供の申し出を断った、というニュースが流れ、ネットでは菅政権への非難が噴出した。
在日米軍、地震被害の原発への冷却剤輸送は実施せず=米政府高官
2011年 03月 12日 12:56 JST
[ワシントン 11日 ロイター] 米政府高官は11日、東北地方太平洋沖地震で被害を受けた原子力発電所への在日米軍による冷却剤輸送は実施しなかったことを明らかにした。これより先、ヒラリー・クリントン米国務長官は、同原発に冷却剤を輸送したと述べていた。これについて同高官は、冷却材の供給について日本側から要請があり、米軍も同意し輸送を開始すると国務長官は聞かされていたもようだと説明した。その後、日本側から冷却材は不要との連絡があったものの、国務長官の耳に入っていなかったとしている。
別の米政府当局者は、「結局、日本は自国で状況に対応できたとわれわれは理解している」と述べた。
だが、フタを開けてみれば、支援はいらないと主張したのは東電だった。
東京電力福島第一原子力発電所で起きた事故で、米政府が申し出た技術的な支援を日本政府が断った理由について、政府筋は18日、「当初は東電が『自分のところで出来る』と言っていた」と述べ、東電側が諸外国の協力は不要と判断していたことを明らかにした。
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(2011年3月18日15時11分 読売新聞)
また、事故発生後ただちに海水注入を決断できていれば事態の悪化は防げたはずなのに、これに抵抗したのも東電だった。
msn産経ニュース 2011.3.18 00:15
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「まず、安全措置として10キロ圏内の住民らを避難させる。真水では足りないだろうから海水を使ってでも炉内を冷却させることだ」
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だが、東電側の反応は首相の思惑と異なっていた。10キロの避難指示という首相の想定に対しては「そこまでの心配は要らない」。海水の注入には「炉が使い物にならなくなる」と激しく抵抗したのだ。
首相も一転、事態の推移を見守ることにした。東電の“安全宣言”をひとまず信じ、当初は3キロ圏内の避難指示から始めるなど自らの「勘」は封印した。
「一部の原発が自動停止したが、外部への放射性物質の影響は確認されていない。落ち着いて行動されるよう心からお願いする」
首相は11日午後4時57分に発表した国民向けの「メッセージ」で、こんな“楽観論”を表明した。
ところが、第1原発の状況は改善されず、海水注入の作業も12日午後になって徐々に始めたが、後の祭りだった。建屋の爆発や燃料棒露出と続き、放射能漏れが現実のものとなった。
15日早朝、東電本店(東京・内幸町)に乗り込んだ首相は東電幹部らを「覚悟を決めてください」と恫喝した。直前に東電側が「第1原発が危険な状況にあり、手に負えなくなった」として現場の社員全員を撤退させたがっているとの話を聞いていたからだ。
「テレビで爆発が放映されているのに官邸には1時間連絡がなかった」
「撤退したとき、東電は百パーセントつぶれます」
会場の外にまで響いた首相の怒声は、蓄積していた東電への不信と初動でしくじった後悔の念を爆発させたものだ。官邸に戻った後も「東電のばか野郎が!」と怒鳴り散らし、職員らを震え上がらせたという。
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「資産保護」優先で海水注入遅れる─福島第1原発事故
2011年 3月 19日 23:30 JST…
同原発の事業者である東京電力(東電)は、少なくとも地震発生翌日の12日午前という早い段階に、6機の原子炉の1機を冷却するため、付近の海岸から海水を注入することを検討した。しかし、東電がそれを実行に移したのは、施設での爆発発生に伴い首相が海水注入を命じた後の、同日の夜になってからだった。ほかの原子炉では、東電は13日になるまで海水注入を開始しなかった。
事故対応に携わった複数の関係者によると、東電が海水注入を渋ったのは、原発施設への同社の長年の投資が無駄になるのを懸念したためだという。原子炉を恒久的に稼働不能にしてしまうおそれのある海水は、今では原発事故対応の柱となっている。
元東電役員で、今回の原発事故対応に加わっている公式諮問機関、日本原子力委員会の尾本彰委員は、東電が海水注入を「ためらったのは、資産を守ろうとしたため」だとしている。尾本氏によると、東電と政府関係者のどちらにも、塩水を使用したくない大きな理由があったという。当初、核燃料棒はまだ冷却水に漬かっていてダメージを受けておらず、同氏によると、「圧力容器に海水を注入すると、容器が二度と使えなくなるため、海水注入をためらったのも無理はない」という。
東京電力広報担当者は、東電が「施設全体の安全を考えて、適切な海水注入時期を見計らっていた」としている。
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同原発の6機の原子炉のうち最も古い1号機の事故情報は、地震翌日の12日早朝まで広まらなかった。その時点には、1号機はすでに自動停止していたものの、燃料棒が過熱し始めていた。東電広報担当者は、同日午前6時の記者会見の席上、海水注入が原子炉冷却のための一選択肢だと述べた。
原子炉の温度が上昇し続けて水素ガスが発生し、同日午後3時36分に爆発を引き起こした。菅直人首相は海水の注入を命じ、これは午後8時20分に実施された。
13日の早朝までに、3号機の冷却機能が喪失した。東電は真水で3号機を冷却しようとしたが、午後には海水に切り替えざるを得なかった。翌14日午前、3号機の建屋が爆発した。この結果、格納容器が損傷して放射能漏れが起きている公算が大きい。
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要するに東電は、1機数千億の原発惜しさと、廃炉にせざるを得ないほどの大事故の発生を認めたくない面子から対策を遅らせ、これほどの事態の悪化を招いたのだ。
原子炉内の圧力が高まる前の初期段階から始めていれば十分な量の海水が注入でき、燃料棒が露出して水素ガスを発生させることもなく、その後の爆発や放射能漏洩も防げた可能性が高い。いや、可能性が高かろうが低かろうが、設計段階での想定をはるかに超えた事態が発生した以上、考えられるあらゆる手段をとるのが事故対策として当然なのに、東電はそれをしなかったのだ。
だいたい、福島第一原発は、1号機は運転開始から40年、最新の6号機でさえ30年以上が経った旧式原発だ。事故がなくても既に廃炉にしておくべき老朽施設と言える。そんなものを惜しんでやるべき対策を遅らせるとは。
地震と津波は確かに天災だが、この原発震災は人災である。その主犯は、原発の運用どころかおよそ公益企業の経営を担う資格のない東電経営陣だ。
【追記】3/21 17:00
机の上の青空さん経由New York Timesによると、海水注入を遅らせた東電の行為はGE社の原子炉運用マニュアルにさえ違反していた可能性が高い。とんでもないことだ。
日本でトラブルに陥っているものと類似のGE社製原子炉を備えたペンシルバニア発電所の上級操作員だったマイケル・フリードランダーは、決定的な問題は、日本の関係者がGE社の非常時操作手続きに従ったかどうかだ、と語った。フリードランダー氏によれば、その手続きは、いつ原子炉を水浸しにすべきか「非常に明確」に規定している。また、プラントの操作員は、原子炉を海水で満たす方法について繰り返し訓練を受けるべきだという。
この操作手続は、原子炉の温度や圧力などの変数に応じて、とるべきアクションを規定している。東電はまだこれらのデータを公開していない。