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朝鮮学校の除染をやらないための理屈


文科省はもちろん、福島県も郡山市も、福島朝鮮初中級学校の除染をしてくれない
それはなぜか?

実際に行政との交渉にあたったかっちんさんのブログに、向こうの言い分が書かれている。


かっちんの青商会物語(6/30)

福島ハッキョの表土撤去の交渉−その①(いきなりドタキャン)



この間、県庁の私学法人課担当の方と電話にて、交渉をしてきました。


そこで、結論として、表土の撤去については、コリアンスクールなど各種学校専修学校のうち高等課程を有しない学校は、表土撤去の対象外とされている。


この決定にいたるまでの、詳しい過程について、福島大の同僚達ともに、一度、担当者に確認をしたいと申し入れ、来週火曜日に、県庁で私学法人課課長と会う方向で、日程を組んできましたが、先方より、来週は議会運営のため時間をとりかねると、ドタキャンされました。


今回、確認した結果をまとめると、コリアンスクールは、各種学校のため、このたびの東日本大震災に伴う災害復興においても、一般の学校とは異なり、別段の取扱いをする。


今後、予算措置等において、コリアンスクールの表土撤去について、考慮する余地はない。


との、ことです。



福島県・私学法人課024-521-7048に電話して適切な対処を要請しましたが福島県郡山市は違うと。

福島県では小学校、中学校は近いうち除染作業やるが福島はハッキョは各種学校なので対象外

続いて024−934−9683(郡山市)担当小林さんに電話したところ、前回郡山市除染作業やったが福島ハッキョが入ってない理由はやはり各種学校だったからやらないと。

ふざけるなよ   −−−−−−−−−−−



ちょうど昨日福島ハッキョ校長先生からも電話がありました(新潟ハッキョから別件で)

この件を伝えました。ココは全国の青商会が力を合わせて抗議せねばいけません。


つまり、朝鮮学校は一般の学校とは違う「各種学校」だから行政サービスとしての除染は提供しない、という回答だ。

しかし、「各種学校」だろうが何だろうが、そこには子どもたちがいるのだ。どうしてそんな差別をするのか?

だいたい、なぜ朝鮮学校は一般の日本の学校とは異なる「各種学校」なのか?


それを理解するには、在日の民族教育をめぐる戦後史を知らなければならない。


日中韓共同編集 『未来をひらく歴史―日本・中国・韓国=共同編集 東アジア3国の近現代史』 (高文研 2005) P.196:

在日朝鮮人の権利獲得のたたかい


 戦後の在日朝鮮人は、民族教育などの権利を守り、差別を撤廃する運動にねばり強く取り組みました。日本の敗戦直後に在日朝鮮人が真っ先にしたことは、植民地時代に奪われた朝鮮の言葉や文化・歴史を取り戻す民族教育の学校をつくることでした。しかし1948年、日本政府はGHQの後押しを受けて「日本国籍なので日本の教育を受ける必要が ある」と通達を出し、民族学校を閉鎖しようとしました。


 これに対し、各地の在日朝鮮人が学校を守ろうと激しく抵抗するなかで、日本の警官の発砲により16歳の在日少年の命が奪われ(阪神教育闘争)、ほとんどの学校は閉鎖・廃校に追い込まれました。しかし、その後も民族教育を守るたたかいは続き、民族学校は自主再建されました。2000年7月現在、朝鮮学校は小学校から大学まで131校あり、約2万人の児童・生徒・学生が学んでいます。


自らの民族の言葉を学べること、またその言葉で、自分たち自身の歴史をはじめとする教育を受けられることは、誰にでも認められるべき権利であり、基本的人権の一部だ。植民地時代には日本人の中に同化して消えていくべきものとされていた朝鮮人が、解放を機に自らの言葉や民族性を取り戻そうとしたのは当然のことだ。

しかし日本政府は、敗戦後も一貫して執拗にそれを妨害し続けてきた。


田中宏 『在日外国人―法の壁、心の溝』 (岩波新書 1995) P.179:

 1965年、日韓条約が締結されたとき、フリー・ハンドを得たかのように文部省は「朝鮮人のみを収容する教育施設の取り扱いについて」(65年12月28日次官通達)で、こう述べた。


 「(1)朝鮮人学校については、学校教育法第一条に規定する学校の目的にかんがみ、これを同法第一条の学校として認可すべきではないこと、(2)朝鮮人としての民族性または国民性を涵養することを目的とする朝鮮人学校は、わが国の社会にとって、各種学校の地位を与える積極的意義を有するものとは認められないので、これを各種学校として認可すべきではないこと」


 まるで、かつて朝鮮語を奪い、皇民化を強要した植民地時代そのものの同化思想といえないだろうか。現在では、各民族学校は、少なくとも「各種学校」としては認可されているが、それは、認可権を持つ知事が、この次官通達に反して独自に認可したものである。


文部省は、各種学校としてさえ朝鮮学校の存在を認めようとしなかったのだ。

いま、福島朝鮮初中級学校が、「各種学校」としてではあっても、ともかく学校教育法に基づく学校として存在し得ているのは、文部省の意向に逆らって人道的見地から認可した知事がいたからだ。先達の見識も知らずに「各種学校」だからと除染対象から排除している福島県郡山市は恥を知るべきだ。


では、なぜ朝鮮学校は普通の小中高校とは異なる「各種学校」なのか?


仲尾宏 『Q&A 在日韓国・朝鮮人問題の基礎知識』 (明石書店 1997)P77-80:

 日本の学校民族学校のどこが違うのでしょうか。日本の学校は、学校教育法の第一条で、小、中、高校、大学、高専、盲学校、聾学校養護学校及び幼稚園とする、とのべられており、これによりこれらの学校は「一条校」とよばれています。


 これに対して民族学校は同法八三条の①において「第一条に掲げるもの以外のもので、学校教育に類する教育を行うものは、これを各種学校とする」とあります。民族学校はこの条文でいえば「八三条校」ということになります…。

 では一条校と八三条校とは法令上、どこに相違点があるかといえば、一条校にあって八三条校に準用されない条項はまず同法第八条の校長及び教員の資格です。一条校の教員は原則的に教育職員免許法の適用を受けた者を教員にすることとなっていますが、八三条校についてこの条項は適用されません。したがって民族学校の場合は日本の教育職資格免許をもたない人でも教員になることができます。…また各種学校である民族学校は第二一一条、二九条によって就学義務を課せられている日本の小・中学校でありませんから、その入学は保護者の義務とはされません。…また、行政が各種学校である民族学校に対して、外国人居住者の学齢に達した子どものリストを公表することもありませんから、民族学校は同胞社会のあらゆるコミュニティをかけまわり、情報を集めて学齢者をさがし出し、入学を勧誘しなければならない、ということになります。


 もう一つの大きな相違点はカリキュラム、すなわち教科編成の問題です。一条校の場合、小・中・高校とも学校教育法で学校の目的と教育の目標がそれぞれ定められています。また第二一条などにおいて「文部大臣の検定を経た教科用図書又は文部省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない」とあります。各種学校にこの条文は準用されませんから民族学校民族学校の教員や教育関係者などが作成した教科書、副読本その他の教材などを自由に用いて「在日」の子どもたちを教えることができます。このように民族学校一条校にくらべてはるかに自由な学校運営ができます。


 …もし、いま、民族学校一条校への移行を申請し、受理されるとどうなるでしょうか。いまみてきた条項がすべて適用されるのです。まず日本の教育職資格免許をもった人しか教壇に立てません。その教育職資格免許を取るには日本の大学・短大などを卒業し、教職課程科目の単位を取得していなければなりません。「在日」の若い人も最近は大学へ進む人が増えました。しかし国立大学は、民族学校出身者の受験資格を認めていませんから、国立大学へ入学する「在日」の学生は、大検を受けて受験資格をとった人を除いていません。つまり朝鮮語を教えられる在日で日本の大学卒業者はきわめてわずかですから、教員を確保することが非常に困難になります。もちろん各種学校である朝鮮大学校の卒業生の卒業生は資格なし、として教えることができず、現に教えている多くの民族学校の教員が欠格となり失職します。


 カリキュラム(教科編成)と教科書は根本的な問題です。

 日本の検定教科書を用い、ほとんどすべての教科を日本語で教えるのであれば、民族科目―つまり朝鮮・韓国の言語や歴史、地理、社会などを教えることはできなくなります。これらの民族科目が民族学校の核心をなしているわけで、またそのことゆえに民族学校の子どもたちがいきいきと学び、日本に生きる朝鮮民族としての自信と誇りを獲得していくのですから、これらをとりやめることは民族学校の意義をゼロにすることとなります。


つまり、朝鮮学校が在日のための民族教育を行っていくためには、さまざまな財政的不利や行政サービスからの排除(就学通知など)を我慢しつつ、各種学校として運営していくしかないのだ。

これは民族教育の権利を保障した「人種差別撤廃条約」や「子どもの権利条約」への違反であり、実際、日本は国連から繰り返し是正勧告を受けている。


『人権クイズ 問題と回答集』 (人材育成技術研究所 2003):

  • 委員会は、高等教育機関へのアクセスにおける不平等がコリアンの子どもたちに影響を与えていることに、とりわけ懸念する(子どもの権利委員会 1998年)
  • 朝鮮学校などの外国人学校を卒業したマイノリティの生徒が、日本の大学に入学する上での制度的な障害のいくつかを取り除くための努力が行われているものの、委員会は特に、韓国・朝鮮語による学習が認可されていないこと、および在日韓国・朝鮮人の生徒が高等教育へのアクセスにおいて不平等な取り扱いを受けていることを懸念している。締約国が、この点における韓国・朝鮮人をはじめとするマイノリティの差別的な取り扱いを撤廃するための適切な手段を講じ、また日本の公立学校において、マイノリティ言語による教育へのアクセスを確保するよう勧告する (人種差別撤廃委員会 2001年)
  • 委員会は、マイノリティの子どもにとって、自己の言語による教育および自己の文化に関する教育を公立学校で享受する可能性がきわめて限られていることに、懸念を表明する。また、朝鮮学校のようなマイノリティの学校が、たとえ国の教育カリキュラムを遵守している場合でも正式に認可されておらず、したがって中央政府補助金を受けることも、大学入学試験の受験資格を与えることもできないことについて、懸念する (社会権規約委員会 2001年)
  • 委員会は、言語的マイノリティに属する生徒が相当数就学している公立学校の正規のカリキュラムに、 母国語による教育を導入するよう強く勧告する。委員会はさらに、締約国がマイノリティの学校、とくに朝鮮学校が国の教育カリキュラムにしたがっている状況においては、当該学校を正式に認可し、それによって当該学校が補助金その他の財政援助を得られるようにすること、および、当該学校の卒業資格を大学入学試験の受験資格として承認することを勧告する (社会権規約委員会 2001年)


公教育において韓国・朝鮮語による教育サービスを提供しないことはもちろん、在日が自分たちの努力で運営している民族学校に対しても、あらゆる局面で不利を押し付け、差別を行う。

朝鮮学校除染問題は、この国の人権後進国ぶりを象徴する最新の事例の一つと言えるだろう。


未来をひらく歴史―日本・中国・韓国=共同編集 東アジア3国の近現代史

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在日外国人 新版―法の壁、心の溝 (岩波新書)

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Q&A 在日韓国・朝鮮人問題の基礎知識【第2版】

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