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玄海1号機の危険性について再度警告(2/2)

(前記事から続き)

では、井野名誉教授の批判に対して、「鋼材の組成に不均質な部分があったとしても、脆性遷移温度の急上昇の主な要因とは断定できない」「玄海1号機の脆性遷移温度上昇についての当社の見解は既にホームページで公表しており、井野名誉教授の分析に対して改めてコメントすることはない」と反論する九電の言い分はどうか?

九電のサイトには以下の文書が掲載されている。


玄海原子力発電所1号機原子炉容器の照射脆化に対する健全性について」では、

(1) 加圧熱衝撃事象に対する原子炉容器の健全性

万一の事故において冷却水が注入され、原子炉容器が急冷される事象に対する健全性を関連温度等に基づき評価した結果、基準値※4を上回っており、60年運転を想定しても原子炉容器の健全性に問題はないことを確認しています。


(2) 上部棚吸収エネルギー

上部棚吸収エネルギー(材料の粘り強さ)の測定結果は、基準値※4を満足していることから、60年運転を想定しても問題ないことを確認しています。


※4 電気技術規程 JEAC4206(「原子力発電所用機器に対する破壊靱性の確認試験方法」(社)日本電気協会)に記載。

と結論づけているが、そもそもこれは、九電が想定する事故シーケンスの通りに事態が進行するのであれば脆性遷移温度が98℃でもまだ余裕がある、と言っているだけであって、圧力容器の材質が不均一なのではないかという井野名誉教授の指摘に対する回答にはまったくなっていない。実際、この文書のどこを読んでも、「脆性遷移温度の急上昇の主な要因」など説明されていないし、井野氏が根拠としてあげた母材と熱影響部の脆性遷移温度の差異への言及もない。

それどころか、こんなグラフまで載っている。



明らかに、4つの実測値(黒丸)は「予測カーブ」にはうまく乗らない。つまり、この予測カーブの前提となる計算式が想定しているのとは異なる何らかの事態が、玄海1号機では起きているのだ。それが、井野名誉教授の言うとおり、本来均質でなければならない圧力容器材質のばらつきである可能性は非常に高いと私は思う。

自分たちの「想定」と現実とが異なることを示すデータを把握していながら、想定の通りならまだ安全、などと言って済ませている九電にはまともな安全思想はない。やらせメール事件への対応が示しているのと同じ、モラルハザードである。

玄海1号機はただちに運転を停止して徹底的に点検しなければならないし、そもそもこんな安全軽視企業に原発の運転など許してはらない。