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犠牲者を美談に仕立ててはいけない

 

3.11の大震災による大津波に襲われた宮城県南三陸町で、防災放送で避難を呼びかけながら、自身は津波の犠牲となった女性職員がいた。彼女の声は何度もテレビで流されたから、聞いた人も多いだろう。

この女性職員の話が、埼玉県で使われる道徳の教材に載るのだという。

 

「遠藤未希さん、学校の道徳教材に 津波避難呼び掛け犠牲」(産経新聞 1/26)

 宮城県南三陸町の防災対策庁舎から防災無線で町民に避難を呼び掛け続け、津波の犠牲になった町職員、遠藤未希さん=当時(24)=が、埼玉県の公立学校で4月から使われる道徳の教材に載ることが26日、分かった。埼玉県教育局によると、教材は東日本大震災を受けて同県が独自に作成。公立の小中高約1250校で使われる。

 同教育局生徒指導課の浅見哲也指導主事は「遠藤さんの使命感や責任感には素晴らしいものがある。人への思いやりや社会へ貢献する心を伝えたい」としている。

 

なんという愚かさか。埼玉県教育局は、子どもたちに向かって、「公務員は危機的状況において死ぬまで持ち場を離れるな、命を投げ出して職務を全うせよ」と説教するつもりなのだ。

この女性職員のような尊い犠牲から教訓を学ぶとは、二度と同じ悲劇を繰り返さないよう、災害対応の手順を整備し、訓練を繰り返して、住民も職員も安全に避難できるようにしていくことだ。

犠牲者を美談に仕立てて特攻隊精神を鼓舞するようなやり方は、教育からも道徳からも、最も遠い。