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仲哀といえばヤマトタケル

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息長帯日売と建内宿禰に謀殺されて血脈を絶たれてしまった可哀想な仲哀天皇。この人、実はヤマトタケル(古事記では倭建命、日本書紀では日本武尊と表記)の息子である。

ヤマトタケルは日本神話最大のヒーローと言ってもいい存在だが、彼を主人公とした創作物の中で、私が個人的に最高傑作だと思っているのが、ゆうきまさみの『ヤマトタケルの冒険』だ。

このマンガ、冒頭の扉にいきなり「(注)とてもインモラルなマンガです。親の目のとどかないところで読みましょう」と書いてあるくらいアブない内容(笑)なのだが、古事記と読み比べてみるとわかるように、意外なほど原典に忠実に描かれている。余計なストーリーを付け加えたり、勝手な空想で登場人物の過去を創作したりしていない。何より、もともとの物語の持つ哀切な悲劇性を、お涙頂戴にならずに描き切っているところが良い。

そして、改めて読み返してみて気がついたのだが、小碓の命(ヲウスノミコト=ヤマトタケル)の死後を描いたエピローグの末尾に、ゆうきはこう書いている。

ヲウスの死と相前後して、ヤマトの国内ではオオウス(注:疫病)が猛威をふるい、大王の重臣たちがバタバタと倒れた後、翌年大王が倒れ、ワカタラシヒコが大王の座を継いだ。

が、ワカタラシヒコも短命におわり、後継にはヲウスの子供の一人である、タラシナカツヒコ(=仲哀)が指名された。この大王にいたっては、その一生を対クマソ戦の中で後継者もないまま終わってしまい、血筋はついに絶えた。

まことに悲劇の一家というほかない――


さすがはゆうきまさみ、記紀では暗殺したクマソタケルから「献上」されたことになっている「ヤマトタケル」の名を、「下賜」された形で描いていることもそうだが、ちゃんと見抜いている。

ぜひ一度読んでいただきたい作品である。