ウォーリー・フィスター監督(クリストファー・ノーラン製作総指揮)、ジョニー・デップ主演の映画『トランセンデンス』で、ちょうどこのテーマが扱われている。
人工知能PINNの開発研究に没頭するも、反テクノロジーを叫ぶ過激派グループRIFTに銃撃されて命を落としてしまった科学者ウィル(ジョニー・デップ)。だが、妻エヴリン(レベッカ・ホール)の手によって彼の頭脳と意識は、死の間際にPINNへとアップロードされていた。ウィルと融合したPINNは超高速の処理能力を見せ始め、軍事機密、金融、政治、個人情報など、ありとあらゆるデータを手に入れていくようになる。やがて、その進化は人類の想像を超えるレベルにまで達してしまう。
(↑画像は 「おすすめの洋画が一目でわかる名作視聴レビュー」さんより)
映画では人工知能と一体化した後のウィルの急激な進化と暴走のほうに重点が置かれていたが、それは純粋な人工知能による技術的特異点によっても発生しうることであり、むしろ興味を引くのは、果たしてこのような方法で肉体的な限界を超えて「永遠に生きる」ことが可能かどうかではないだろうか。
結論から言ってしまえば、残念ながらそれは不可能だろう。もう少し具体的に言うと、仮にあなたの人格や記憶のすべてをデータ化してアップロードし、コンピュータ内部であなたの意識を再現することが可能になったとしても、あなた自身が死を超越して電脳空間で生き続けることはできない。それは、次のような思考実験をしてみればわかる。
『トランセンデンス』では、ポロニウム入りの銃弾で撃たれてゆっくりと死につつあるウィルから人工知能への意識の転送が行われ、ウィルと一体化したPINNが活動を始めたときには既に彼は死んでいた。しかし、こうした意識の転送が可能になったとしたら、それは別に死の間際にしかできないことではなく、普通に元気な人間からでもできるだろう。
そこで、健康な状態のあなたから、映画と同じような方法でコンピューターに意識をアップロードすることを想像してみよう。そこでは何が起こるか。当然あなたは、アップロードされた意識が活動を始めるのを、目の前で目撃することになる。「それ」がどれほどあなたとそっくりだったとしても、自分自身ではないことは、あなたにとっては自明だろう。
そしてあなたはその後も生き続け、やがて死ぬのだから、やはり死から逃れることはできない。もちろん、世界を認識する主体としての自分自身ではなく、自分のコピーが生き続けるだけで満足だというのであれば話は別だが。