読む・考える・書く

マスコミやネットにあふれる偏向情報に流されないためのオルタナティブな情報を届けます。

東シナ海ガス田に関する日本政府の言い分にはまったく正当性がない

 

7月22日、日本政府は中国が東シナ海で一方的にガス田開発を進めていると非難し、その「証拠」として中国側構造物の写真多数を公表した。もちろん、最近になってその存在に気がついたわけではなく、中国脅威論を煽り、違憲戦争法案を正当化するための材料として持ち出してきたのである。

御用マスコミはさっそくこのネタに食いついて政府の世論操作に協力しているが、果たしてこの件に関する日本政府の言い分には、どの程度の正当性があるのだろうか。まずは、外務省発表[1]の中身を見てみよう。

 

1 近年,中国は,東シナ海において資源開発を活発化させており,政府として,日中の地理的中間線の中国側で,これまでに計16基の構造物を確認している。
 

2 東シナ海排他的経済水域及び大陸棚は境界が未画定であり,日本は日中中間線を基にした境界画定を行うべきであるとの立場である。このように,未だ境界が画定していない状況において,日中中間線の中国側においてとは言え,中国側が一方的な開発行為を進めていることは極めて遺憾である。政府としては,中国側に対して,一方的な開発行為を中止するとともに,東シナ海の資源開発に関する日中間の協力について一致した「2008年6月合意」の実施に関する交渉再開に早期に応じるよう,改めて強く求めているところである。

 

まずこの冒頭部分を読んだだけで、唖然とするほかはない。「日中の地理的中間線」とは、日中間の排他的経済水域に関する、日本側の主張する境界線である。(中国側はそのはるか東の、沖縄トラフに沿った線を境界と主張している。)

日中の主張する境界線の間にある係争海域ならともかく、日中間で争いのない、日本側も中国の水域だと認めている場所で中国が資源開発を行って何が問題なのか? では逆に、日本が中国の主張する境界線よりさらに東の日本側水域で資源開発を行ったとして、中国側がそれに文句をつけてきたら、御説ごもっともと認めるのだろうか?

 

外務省発表の本文は上記の2段落だけで、残りは「参考」とされているのだが、そこには次のようなことが書いてある。

 

(参考)東シナ海における資源開発に関する我が国の法的立場

 

1 日中双方は、国連海洋法条約の関連規定に基づき、領海基線から200海里までの排他的経済水域及び大陸棚の権原を有している。東シナ海をはさんで向かい合っている日中それぞれの領海基線の間の距離は400海里未満であるので、双方の200海里までの排他的経済水域及び大陸棚が重なり合う部分について、日中間の合意により境界を画定する必要がある。国連海洋法条約の関連規定及び国際判例に照らせば、このような水域において境界を画定するに当たっては、中間線を基に境界を画定することが衡平な解決となるとされている。
(注:1海里=1.852キロメートル、200海里=370.4キロメートル)

 

2 (1)これに対し、中国側は、東シナ海における境界画定について、大陸棚の自然延長、大陸と島の対比などの東シナ海の特性を踏まえて行うべきであるとしており、中間線による境界画定は認められないとした上で、中国側が想定する具体的な境界線を示すことなく、大陸棚について沖縄トラフまで自然延長している旨主張している。
 

(2)他方、自然延長論は、1960年代に、隣り合う国の大陸棚の境界画定に関する判例で用いられる等、過去の国際法においてとられていた考え方である。1982年に採択された国連海洋法条約の関連規定とその後の国際判例に基づけば、向かい合う国同士の間の距離が400海里未満の水域において境界を画定するに当たっては、自然延長論が認められる余地はなく、また、沖縄トラフ(海底の溝)のような海底地形に法的な意味はない。したがって、大陸棚を沖縄トラフまで主張できるとの考えは、現在の国際法に照らせば根拠に欠ける。

 

3 このような前提に立ってこれまで、我が国は、境界が未画定の海域では少なくとも中間線から日本側の水域において我が国が主権的権利及び管轄権を行使できることは当然との立場をとってきた。これは中間線以遠の権原を放棄したということでは全くなく、あくまでも境界が画定されるまでの間はとりあえず中間線までの水域で主権的権利及び管轄権を行使するということである。したがって、東シナ海における日中間の境界画定がなされておらず、かつ、中国側が我が国の中間線にかかる主張を一切認めていない状況では、我が国が我が国の領海基線から200海里までの排他的経済水域及び大陸棚の権原を有しているとの事実に何ら変わりはない。

 

非常に分かりにくい言い方だが、どうやら日本政府は、まだ境界線が確定していない現時点では、国連海洋法条約で認められうる「領海基線から200カイリ」の線までは日本に潜在的な権利があるから、たとえ日中中間線より中国側でもその200カイリ線までの範囲については勝手な開発は許されない、と言いたいらしい。ちなみに、日中双方が主張する境界線と200カイリ線は、次のような位置関係にある[2]。

 

 

だが、これは果たしてまともに通用する理屈だろうか。

日本政府が、日中中間線を越えた200カイリ線まで自国の権利があると本当に思っているなら、その200カイリ線を境界線として主張すればいいのである。そうしないのは、そんな主張など通用するはずがないことを日本政府自身よく知っているからだ。仮に、将来東シナ海排他的経済水域問題が日本側に最も有利な形で決着したとしても、その境界線が日中中間線よりさらに中国側になることはない。だからどう転んでも、現在中国がガス田開発を行っている各地点は中国側の領域内なのである。

中国側領域内であることが明らかな場所での資源開発に文句をつけるのは、単なる言いがかりでしかない。

 

[1] 中国による東シナ海での一方的資源開発の現状 2015.7.22 外務省

[2] 猪間明俊 「世界中の石油探査40年―東シナ海ガス田開発問題の理解のために―」 2007.8.3(講演)

 

日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 (ちくま新書 905)

日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 (ちくま新書 905)

 
不愉快な現実  中国の大国化、米国の戦略転換 (講談社現代新書)

不愉快な現実 中国の大国化、米国の戦略転換 (講談社現代新書)

 
尖閣列島・釣魚島問題をどう見るか―試される二十一世紀に生きるわれわれの英知 (隣人新書 (07))

尖閣列島・釣魚島問題をどう見るか―試される二十一世紀に生きるわれわれの英知 (隣人新書 (07))

 
日中領土問題の起源―公文書が語る不都合な真実

日中領土問題の起源―公文書が語る不都合な真実

 
史料徹底検証 尖閣領有

史料徹底検証 尖閣領有