■ 小林批判の必要性
今さら感はあるが、やはり小林よしのりはきっちり批判しておく必要があるだろう。
なんといっても、小林には結果としてネトウヨだの在特会だのといった、現代日本社会における最悪の反動層を生み出した製造物責任がある。もちろん小林一人のせいではないが、読みやすく印象操作のやりやすいマンガという手段を駆使した小林の影響力は非常に大きかった[1][2]。
日本をナメる中国。そして日本を貶める在日。いつか日本はやられてしまう。そうした思いから、荒巻※は「強い日本を目指すため」に活動を始めるのである。小林よしのりの本を読み、産経新聞に目を通した。そしてネットで在特会を知った。
※京都朝鮮学校妨害事件、徳島県教職員組合事務所乱入事件での逮捕者の一人
(略)一九九八年には小林の『戦争論』が発売され、漫画という手法で歴史修正主義の主張が堂々とまかり通るようになった。ネット右翼の活動家を取材した石橋英昭は「取材相手の多くが、小林よしのり氏の漫画『ゴーマニズム宣言』に影響を受けたと話したのが、印象的だ」と述べている。
小林の『戦争論」は、「日本会議」の主張をそのまま漫画にしたような内容で、目新しいものではないが、漫画という表現手法や「大東亜戦争肯定論」を「公共心」の問題と関連付けた点は「新しさ」「面白さ」「痛快さ」があった。(略)
最近の小林はネトウヨを批判しているという。つまり、彼らを生み出した自分の責任にはまったく無自覚なのだ。自己批判が期待できないとなれば、外部から逐一問題点を指摘してやるしかない。
批判の対象としては、やはりまず『戦争論』を取り上げることにする。
■ 戦争論=「大東亜戦争」正当化論
小林の『戦争論』は、一言で言ってしまえば、アジア諸国民の死者二千万、日本人にも三百万という惨禍をもたらした先の大戦を正当化し、旧帝国政府・軍部を免責するために書かれた歴史修正主義マンガである。この歴史の歪曲・修正を始めるにあたって、まず小林は先の大戦を「大東亜戦争」と呼ぶべきだという主張から始める[3]。
今から50数年前 日本は東アジア全域で戦争をした
相手は支那(中国)大陸の毛沢東率いる中共軍 蒋介石率いる国民党軍 アメリカ・オランダ・イギリス・フランスなどである
教科書に載っているように太平洋戦争っていったらアメリカとだけ戦ったような気がするが…
日本はアジアに大東亜共栄圏を作ろうという とんでもない構想を後づけにせよ掲げて戦ったので 大東亜戦争 と呼んだほうが わかりやすい
中には「大東亜戦争」と聞いただけで右翼とレッテル貼りしてくる人もいるが 知ったこっちゃない
「大東亜」のほうが 大・東アジアだから 戦場がわかりやすいのだ
小林はこう言うが、では最初にアメリカに喧嘩をふっかけたハワイの真珠湾は東アジアなのか? 米軍相手にロクな補給もなく「餓島」と呼ばれるほどの凄惨な戦いを繰り広げたガダルカナル島も東アジアなのか? 水木しげる氏が左腕を失ったニューブリテン島(パプアニューギニア東部)は?
「戦場がわかりやすい」というなら、もちろん現在の標準的な呼称である「アジア太平洋戦争」のほうがはるかにわかりやすい。にもかかわらずこれを「大東亜戦争」と呼びたがるのは、戦争当時政府がこの呼称を使ったのと同じ意図、つまり、アジア諸国への侵略を欧米植民地主義からのアジアの解放(「大東亜共栄圏」建設)に見せかけたいという意図があるからだ。
「「大東亜戦争」と聞いただけで右翼とレッテル貼りしてくる」人の判断はまったく正しい。小林も含め、この呼称を使いたがる者たちは、戦争責任を否定し、日本の侵略戦争を正当化しようとする者たちなのだ。
[1] 安田浩一 『ネットと愛国』 講談社 2012年 P.124
[2] 田中彰 『ネット右翼と歴史修正主義』 戦争責任研究 No.85(2015年冬季号)
[3] 小林よしのり 『新ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論』 幻冬舎 1998年 P.27-28