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見た目よりはるかに危険な憲法9条への自衛隊追記

安倍晋三は最近、憲法9条の1項2項は残したまま、3項を新設して自衛隊保持を書き込むという、従来の自民党改憲草案とも異なる奇妙な案を主張しだしている。一見、既成事実を追認するだけで大したことではないように見えるこの改憲案がどれほど危険か、福島雅典氏(京大名誉教授)の指摘が重要なポイントを突いていたのでメモ。

東京新聞(7/30):

(略)
 事実上の軍隊である自衛隊を明記すると、国に憲法上の義務が生ずる。すなわち、国は紛争を抑止するに足る兵力と装備に責任を持たねばならない。自衛隊はすでに集団的自衛と称し、海外で米軍と行動を共にしている。9条に自衛隊を明記することで、この先、どれだけの兵力・装備が要るようになるのだろうか。そもそも自衛隊の人員は足りるのか。それどころか、志願者はほとんどいなくなることが想定される。
 となれば、憲法13条の「公共の福祉」に基づいて国民に応分の負担が求められることになるだろう。徴兵制だ。高等教育までの無償化を憲法に盛り込むこととセットで考えれば、自衛隊員として国を守るのは国民の当然の義務になる
 政府は集団的自衛権の行使を可能にし、武器輸出も解禁。特定秘密保護法に加え「共謀罪」法を成立させ、恣意的な捜査を可能にして治安維持を図ろうとしている。軍民両用研究という名の下に武器開発に大学を動員し始めた。残るは徴兵制だけだ。こうして官産軍学複合体ができあがる
 憲法前文と9条は高き理念であるがゆえに価値がある。この理念を失った瞬間に日本は大きく変質する。9条と自衛隊との矛盾をどうすべきか、護憲派は悩んでいるが、矛盾があるからこそ、政府は平和のための絶え間ない努力を続けねばならない。この矛盾をバネに世界に実効性ある平和的手段を提案、実践し続けることこそ、日本がすべきことだ。

福島氏の言うとおり、戦争放棄と戦力不保持を謳う9条の下で違憲の疑いが濃厚な(私に言わせれば「疑い」どころか明白に違憲な)自衛隊が「正当性のない既成事実」として存在している現状と、晴れて憲法上に根拠を得た後では、状況はまったく違う。自衛隊保持が憲法の要請する義務となれば、今でさえ膨張に歯止めのかからない自衛隊は、戦前の軍部並みに暴走していくだろう。

いかなる形であろうと、9条をいじることなど決して許してはならない。

ちなみに、この福島氏の見解のうち、「矛盾があるからこそ」以下の部分には、私は同意できない。護憲派が自信を持って9条の理念そのものである戦力不保持を主張できないようでは、説得力のある平和的手段の提案・実践など到底無理な話だ。

こちらの記事でも書いたとおり、「この矛盾」は、自衛隊を武器を持たない災害救助隊に改組することによって解消すべきなのだ。そうしてこそ日本は世界に「実効性ある平和的手段」を提供できるようになるし、また自らの安全をも真に確実なものとすることができる。

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