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そもそも「Constitution」を「憲法」と訳したのが間違いだったような気がしてきた

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幕末から明治初期にかけて、西洋から入ってくる様々な新しい概念に対して、新たな訳語が作られ、あるいは本来意味の異なる既存の語への当てはめが行われた。たとえば「自然」「社会」「権利」「自由」「個人」「芸術」など。

「憲法」もその一つだ。

英語の「Constitution」の訳として「憲法」を当てたのは、1873(明治5)年の林正明や箕作麟祥の著作が最初だと言われているが、その後、1880年代にはほぼこの語が定着した[1]。

しかし、もともと日本語の「憲法」という語には、近代的な立憲主義に対応する意味合いはなく、単なる「規則」「決まり」程度の意味しかなかった[2]。

 「憲」を訓読みすると「のり」ですね。「法」も「のり」でしょう。この二つの漢字はだいたい同じような意味で、もともと単なる法、ルールを意味する。

内山 ノリノリ。

 そういうことです。漢字の熟語には、このように同じ意味の字を2個つなげたものがけっこうある。

内山 意義とか。

 そうですね。「意」「義」は両方とも「意味」という意味です。理解が早い。十七条の憲法以来の日本語の「憲法」には、もともとルールという意味しかなかったのです。

これに対して、常識ある社会人なら誰でも知っているはずのことだが、近代憲法の基礎である立憲主義とは、憲法という枠をはめることによって国家権力の恣意的な行使を防ぎ、個人の自由・人権を守ろうとする考え方のことだ[3]。

立憲主義 国家の役割は個人の権利や自由の保障にあると定義した上で、憲法によって国家権力の行動を厳格に制約するという考え。日本国憲法の基本原理と位置付けられている。

憲法は単なる法律の親玉ではない。一般の法律が、国家が人民に守らせようとするものであるのに対して、憲法は逆に人民が国家に命令し、守らせるものだ。だから法律と憲法とでは「そもそも名宛人が違う」と言われる。

残念なことに、この国ではこの基本が十分理解されてない。その上「憲法」という語を「Constitution」に当ててしまったものだから、「聖徳太子の十七条憲法こそ世界最初の憲法だ」などと、日本スゴイ病丸出しの頓珍漢なことを言い出す者まで出てくる始末だ。(言い出しっぺは渡部昇一か?

ところで、福沢諭吉は「Constitution」についても様々な訳語を検討しているが、その中の一つに「国律」というのがあった[4]。欧米諸国歴訪の経験をもとに西洋近代の制度や技術を紹介した『西洋事情』(1868~1870年)に出てくる。

(略)『西洋事情』は以下のようにはじまる。

 政治に三樣あり。曰く立君モナルキ、礼楽征伐一君より出づ。曰く貴族合議アリストカラシ、国内の貴族名家相集て国政を行ふ。曰く共和政治レポブリック、門地貴賤を論ぜず人望の属する者を立てて主長となし国民一般と協議して政を爲す。又立君の政治に二樣の区別あり。唯国君一人の意に随て事を行ふものを立君独裁デスポットと云ふ。魯西亜、支那等の如き政治、是なり。国に二王なしと雖ども一定の国律ありて君の権威を抑制する者を立君定律コンスチチューショナル・モナルキと云ふ。現今欧羅巴の諸国此制度を用ゆるもの多し。27)

 これは政治制度から見た国家の説明であるが、この書き出しにConstitutionが登場する。ここでは「一定の国律ありて君の権威を抑制する者」として、君主権を制限する「国律」としてConstitutionが紹介されている。同時に「立君定律」という表現もなされているが、これは君主が「定律(立法)権」をもつのでなく、法によって立てられている、定められていることを意味すると考えられるから、この「国律」は「憲法」のことであると理解される。

「国律」(国を律するもの)なら、もともと「決まり」程度の意味しかなかった「憲法」より、はるかに立憲主義との親和性が高いし、その意味を説明するのも楽だろう。こちらの訳語を採用しておけば、立憲主義への理解度も今よりちょっとはましだったかもしれない。

[1] 浦部法穂 『「憲法の言葉」シリーズ① 「憲法」』 法学館憲法研究所 2012/11/5
[2] 内山奈月・南野森 『憲法主義:条文には書かれていない本質』 PHP研究所 2014年 P.67
[3] 『「解釈改憲 最高責任者は私」 首相、立憲主義を否定』 東京新聞 2014/2/13
[4] 石川愛世 『Constitution と日本語「憲法」 ―明治期啓蒙思想家の西欧文化受容―』 大阪総合保育大学紀要第10号 2016年3月 P.71

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