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BPO放送人権委、『ニュース女子』による辛淑玉氏への人権侵害(名誉毀損)を認定!

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昨年1月2日に放送された『ニュース女子』「沖縄基地問題特集」については、既にBPO(放送倫理・番組向上機構)放送倫理検証委員会が「重大な放送倫理違反があった」と認定している[1]。そして今度は、同機構の放送人権委員会が、同番組が「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉氏に対する人権侵害(名誉毀損)をも行っていたことを認定した[2]。

■ BPOによる認定の根拠と論理

さっそく委員会決定の全文を読んでみたが、同委員会は次のような根拠と論理に基いて名誉毀損を認定している。以下、同決定の内容を一部流用・要約して説明する。

(1)申立人(辛淑玉氏)の名誉を毀損する事実の摘示があったか

(注:名誉毀損事案における「事実の摘示」とは、ある事柄が「事実であるとして示されたこと」を意味しており、示された内容自体の真実性とは関係がない。)

まず前提として、同番組では基地反対運動を、出演者のコメント、テロップ、ナレーションなどさまざまな形で、「過激デモで危険」、「警察でも手に負えない」、「犯罪行為を繰り返す」「テロリストと言っても全然大げさじゃない」などと表現しており、これは基地反対運動を「過激で犯罪行為を繰り返す」ものとして描いたものだと言える。

続いて、そのように描写した基地反対運動について、「誰が何のために反対運動をしているのか」、「煽動する黒幕の正体は?」を話題にし、「『のりこえねっと』“辛淑玉„は何者?」、「反原発、反ヘイトスピーチ、基地建設反対など…職業的に行っている!?」というテロップや、「職業的にずーっとやってきて」(須田慎一郎)、「スキマ産業です、いわゆるね。何でもいいんです、盛り上がれば」(上念司)、「『のりこえねっと』というところに書いてあって、お茶の水でやっているわけですよね」(井上和彦)、「『のりこえねっと』の辛さんの名前が書かれたビラがあったじゃないですか」(須田)といった発言によって、基地反対運動と辛淑玉氏を結びつけている。

一般視聴者は(TOKYO MX側主張とは異なり)場面ごとの発言やテロップを細切れに理解するのではなく、複数の場面の内容からなる一連の流れを番組のメッセージとして受け取るので、たとえ「黒幕」テロップの部分に辛淑玉氏の名前がなくても、氏を念頭に置いて「黒幕の正体」が論じられているものとして受け止める。

従って、同番組により、「申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動を職業的にやってきた人物でその『黒幕』である」との事実摘示がなされたと言える。(摘示事実A)

また、反対運動の「職業的」「黒幕」として辛淑玉氏に言及した上で、「5万円日当出すなんて。これは誰が出しているの」(長谷川幸洋)という質問があり、この質問に対して井上が「『のりこえねっと』というところに書いてあって…」と、これを辛淑玉氏に結びつけ、須田が「辛さんっていうのは在日韓国・朝鮮人の差別ということに関して闘ってきた中ではカリスマなんです。ピカイチなんですよ。お金がガンガンガンガン集まってくる」と応えている。これらの発言や「反対運動の日当は誰が出している?」「東京・お茶の水で集合、出発?」といったテロップによって、金銭で動機付けられた参加者を辛淑玉氏が日当を払って反対運動に動員している、という印象づけがなされている。

このような出演者の発言のやりとりやテロップが一連の流れとして視聴者にメッセージとして伝わることから、同番組により、「申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動の参加者に5万円の日当を出している」との事実摘示がなされたと言える。(摘示事実B)

(2)摘示事実によって申立人の社会的評価は低下したか

摘示事実Aについて: そもそも、同番組では基地反対運動を「過激で犯罪行為を繰り返すもの」として描いているのだから、そのような運動に辛淑玉氏が「職業的に」(金銭目的で)関わっているという表現を受け取った一般視聴者は、氏の基地反対運動との関わり方や姿勢に疑問を持ち、氏に対する非難の感情を抱くことになるから、氏の社会的評価を低下させる。

摘示事実Bについて: 加えて、辛淑玉氏が、「過激で犯罪行為を繰り返すもの」として描かれた基地反対運動の「黒幕」であり、日当を払って金銭目的の参加者を集めているとした同番組の表現は、当然基地反対運動に対する氏の関わり方に否定的な評価を生じさせることになり、氏の社会的評価を低下させる。

よって、摘示事実AおよびBは、いずれも辛淑玉氏の社会的評価を低下させる点で、氏の名誉を毀損する事実摘示にあたる

(3)番組内容に公共性・公益性はあったか

番組内容が申立人の社会的評価を低下させるものであっても、放送によって摘示された事実が公共の利害に関わり(公共性)、かつ主として公益目的によるものであって(公益性)、その事実の重要な部分が真実であるか(真実性)、または真実であると信じる相当の理由があること(真実相当性)が証明されれば、名誉毀損には当たらない。

(注:公共性、公益性については、表現の自由を保障するという観点から、その表現の実質的内容からではなく、外形的・客観的に判断すべきものとされている。)

(そのような観点からすると)沖縄における基地反対運動を取り上げた点で、番組の関係部分には公共性があると言える。また、「他のメディアで紹介されることが少なかった『声』を現地に赴いて取材し、伝えるという意図で制作された」というTOKYO MXの主張から、公益目的もあったと言える。

(4)番組内で摘示された「事実」は真実か

放送が公共性のあるテーマについて公益目的で行われたものであるなら、TOKYO MXが摘示事実AおよびBについて真実であると証明できれば名誉毀損は成立しない。(注:TOKYO MXは真実相当性については主張していない。)

まず、摘示事実AおよびBに共通する「過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動」については、基地反対運動が時に行き過ぎて警察による逮捕等の事態を生じることがあっても、それだけで基地反対運動そのものが過激で犯罪行為を繰り返すものであるということにはならない。(TOKYO MX側もこれは認めている。)また、辛淑玉氏が基地反対運動を「職業的に行う人物である」とする点(摘示事実A前半)についても、TOKYO MXは真実であるとの主張をしておらず、真実性の証明はなされていない

一方、辛淑玉氏が「過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動」の「黒幕である」との点(摘示事実A後半)について、TOKYO MXは2016年9月9日に連合会館で開催された集会での同氏による下記の発言を根拠として、これは「多数の反対運動支持者らに対して違法行為を伴う活動を促すものである」として、真実性があると主張している。(下線および[]内の補足はTOKYO MXによる)。

・・・だから、現場で彼ら二人が20何台も[工事関係車両を]止めた。それでも1日止められるのが15分。でも、あと3人行ったらね、16分止められるかもしれないんです。もう1人行ったら20分止められるかもしれないんです。だから[私は人をヘリパッド建設現場に]送りたいんです。そして私たちは、私もねぇ、はっきり言います。一生懸命これから稼ぎます。なぜならば私、もう体力無い。あとは若い子に死んでもらう。ね!いいですか?若い子にはお国のために頑張ってもらうっていうのは、稲田朋美も言っているわけですから。稲田が言うなら私も言おうじゃないかと。で、それから、爺さん婆さんたちはですね、向こうに行ったら、ただ座って止まって、何しろ嫌がらせをして、みんな捕まってください。でね、70[歳]以上がみんな捕まったら、そしたらもう刑務所入れませんから、若い子が次頑張ってくれますので。ですから、何しろ山城博治はもうボロボロです。申し訳ないけどね。山城博治に言いました。ね、病気で死ぬな!ね、それから米兵に殺されるな!日本の警察に殺されるな!ね。お前が死ぬときは私が殺してやるからって言ってますから。だから…、彼はあそこに、今、いるだけでいい・・・

しかし、辛淑玉氏の上記発言は、反対運動に参加する人が増えれば増えるほど基地の建設を遅らせることができるという考えから広く参加を呼びかけるものではあるが、基地反対運動を「計画」し、「指図」しているとまでは言えないから、TOKYO MX自身が採用した「黒幕」の定義(大辞林:「自分は表面に出ず、かげにいて、計画したり人に指図したりして、影響力を行使する人」)には当らない。また、運動への参加の呼びかけは共感や連帯感に基くものもあるから、それだけで「黒幕」とする裏付けにはならない。

氏の発言には、「みんな捕まってください」といった一部不穏当な表現もあるが、全体の流れからすると、集会参加者を奮起させる目的でこのような表現になったという面もあり、その部分だけを取り上げて、氏の発言の主旨が「過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動に参加して違法行為を行うよう促したもの」とまでは言えない。

よって、この集会における辛淑玉氏の発言が、氏が「過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動」の「黒幕である」という摘示事実A後半部の真実性を証明するものとは言えない

次に、TOKYO MXは、上記集会で辛淑玉氏が「私もねぇ、はっきり言います。一生懸命これから稼ぎます」と発言している部分をとらえて、「多数の反対運動支持者らに対して違法行為を伴う活動を促すもの」で、「そのような活動への資金を申立人自ら工面して提供する旨の表明」だと主張している。

しかし、辛淑玉氏が「一生懸命これから稼ぐこと」=「反対運動に日当5万円を出すこと」ではないから、氏の発言が、基地反対運動に「資金を申立人自ら工面して提供する旨」の表明とは言えない。確かに「のりこえねっと」は沖縄への交通費5万円を支給しているが、これは全て「のりこえねっと」への寄付で賄われているとのことであり、会計記録によれば寄付金の総額は約80万円、それを利用して沖縄に向かった者は16名となっている。つまり、チラシに「交通費」支給を記載したのも、実際に交通費を支給したのも「のりこえねっと」であって、団体としての「のりこえねっと」と辛淑玉氏個人を同一視することはできないから、これを氏が負担したものとは言えない。さらに、チラシには「往復の飛行機代相当5万円を支援します。あとは自力でがんばってください!」と記載されているのであって、日当5万円を支給して金銭的な動機で基地反対運動に参加させようとしているとは言えない。

基地反対運動が時に行き過ぎて警察による逮捕等の事態が生じることがあったとしても、それだけで基地反対運動そのものが過激で犯罪行為を繰り返すものであるということにはならない点も併せて考えれば、チラシや申立人の発言は、摘示事実B(「申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動の参加者に5万円の日当を出している」)の真実性を証明するものとは言えない

よって、摘示事実AおよびBのいずれについても、TOKYO MXによる真実性の証明はなく、名誉毀損が成立する。

■ 番組内容が人種差別・民族差別である点にも言及

BPO放送人権委は、この番組が辛淑玉氏への人権侵害(名誉毀損)であることを認定したのに加えて、放送倫理上も(1)辛淑玉氏本人への取材がなされていないことが明らかだったにもかかわらず、TOKYO MXが考査においてこれを問題にしていない、(2)考査において、人種や民族を扱う際に必要な配慮がなされていない、という二つの点でTOKYO MXに放送倫理上の問題があったことを認定している。

特に(2)については、以下のように明確に、番組内容の差別性と、それを見過ごしたまま放送したTOKYO MXの責任を認めている。

1月2日に放送された『ニュース女子』では 、過激で犯罪行為を繰り返すものと描かれた反対運動と結びつけて、「朝鮮人はいるわ、中国人はいるわ」、「親北派ですから」などと特定の国籍や民族的出自を論じ、申立人が在日韓国人であることに関連して、人種や民族を取り扱う際に必要な配慮を欠いていたと言わざるを得ないものであった。さらに1月9日に放送された『ニ ュース女子』では、冒頭で「『ヘイト』『捏造だ』と抗議殺到」、「大炎上」などとして、人種や民族の取扱に配慮を欠いた前回の放送を取り上げたにもかかわらず、そのような配慮を欠いた点について触れることもなく、「まあ、盛り上がっているという事ですよ」とMCの長谷川氏が総括して冒頭部分を終えるなど、 上記の「日本民間放送連盟放送基準」を守ろうとする姿勢が欠けていたと言わざるを得ないものであった。このような放送内容について問題としなかったTOKYO MXの考査のあり方は、放送倫理上問題があった。

■ 放送人の最後の良心を示したBPO

正直、BPO放送人権委がどの程度の勧告を出してくれるかには不安があった。前回の放送倫理検証委の決定に加えて、今回放送人権委が「ニュース女子」による人権侵害を明確に認める決定を行ったことは、メディアの崩壊をぎりぎりで食い止める、放送人の最後の良心を示してくれたものとして感謝したい。

今回BPO放送人権委が名誉毀損を認定する過程で用いた論理は、公平・公正で反論の余地がほとんどないものだ。同様な事案で裁判になっても、これを覆すことは難しいだろう。

今回の決定を受けて、神原元弁護士は次のように警告している。

神奈川新聞(3/10)

弁護団の一人、神原元弁護士は警告した。

「放送内容はデマであり、悪質な名誉毀損、人権侵害だと確定した。蒸し返す言動が繰り返されるなら、今回の決定に基づき積極的に法的措置を取っていく。デマも脅迫も、今日以降は絶対に許さない」


ネトウヨ諸君も、まとめサイトの管理人も、ジャーナリストや評論家を自称する右派も、自分がどのような汚物を社会に吐き出してきたか振り返ってみたほうがいい。差別は無料で楽しめる娯楽ではないのだ。

[1] 「東京メトロポリタンテレビジョン『ニュース女子』沖縄基地問題の特集に関する意見」 BPO放送倫理検証委員会 2017/12/14
[2] 「「沖縄の基地反対運動特集に対する申立て」に関する委員会決定」 BPO放送人権委員会 2018/3/8

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