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公文書を改ざんする国の外交記録は信用できるか? -- できるわけがない。日本は恐らく尖閣問題でもそれをやっている。

公文書改ざん事件の甚大な悪影響

森友問題で、ついに財務省が決裁文書の改ざんを認めた。国有財産を不当に値引きして売り払った上、政権のデタラメな答弁に合わせるために売却経緯を記録した公文書を改ざんしたというのだから、重大な犯罪行為である。

公文書改ざんというこの事件の影響は、単に森友問題や安倍政権の範囲内にとどまるものではない。国家としての意思決定の経緯・内容とその実践の記録を正確に文書に残すこと、それは近代国家を成り立たせる必須の前提条件の一つだ。その前提が破られたということは、日本という国の信用自体が毀損されたことになる。

もちろん、日本政府が戦後も一貫して重要文書の隠蔽や廃棄を続けてきた常習犯であることは周知のとおりだ。しかしそれでも、現に公文書が残っていれば、少なくともそこに書かれていることは嘘ではない、という最低限の信憑性は維持していた。今回、その最低限の信用さえもが失われてしまったのだ。

すると、どういうことになるか。

そしてこの問題は国内だけにとどまるものでもない。公文書に信憑性がないとなれば、対外的な信用も失われ、まともな外交が成り立たなくなる。

尖閣問題でも公文書改ざんの濃厚な疑い

この話の流れで思い出したのだが、日中国交正常化交渉における田中角栄・周恩来会談の会談記録についても、改ざんされたのではないかという濃厚な疑いがある。

詳細についてはこの二つの記事を読んでほしいが、要約すると以下のようになる。

  • 日中両国が領有権を主張する尖閣諸島について、中国側は、1972年の田中角栄と周恩来による日中国交正常化交渉の際、この問題を当面棚上げとすることで日中間の合意があったと主張している。
     
  • 一方日本側は、そのような合意はなかったとし、尖閣諸島は日本の「固有の領土」で日中間に領土問題は存在しないと主張している。
     
  • 2013年、野中広務元官房長官が、交渉直後に田中角栄本人から、「棚上げすることで(周恩来と)共通認識に達した」と聞いたと発言。これに対して日本政府(岸田外相(当時)と菅官房長官)は、「わが国の外交記録」を根拠に、そのような事実はないと否定した。
     
  • 外務省が情報開示した会談記録を見ると、田中の方から尖閣問題をどうしようかと周に問いかけ、周が「今回は話したくない」「今、これを話すのはよくない」(棚上げにしよう)と応じた後、田中の応答を待たずに別の話題を始めている。この記録では確かに田中は棚上げに明示的な合意を与えていないが、文脈上田中も合意するのが当然の流れである上、話題の切り替えが唐突で不自然であり、記録に何らかの欠落(削除?)があった可能性がある。
     
  • 一方、会談に同席した橋本恕外務省アジア局中国課長(当時)は後に、周の棚上げ発言に対して田中も「それはそうだ、じゃ、これは別の機会に」と応じたと証言している。また同じく会談に同席していた張香山中国外交部顧問の回想でも、田中は「よし!これ以上話す必要はなくなった。またにしよう」と応じており、明らかに田中も棚上げに合意している。

交渉直後に田中角栄本人から聞いたという野中氏の発言、会談に同席していた日中両国の実務担当者の発言がすべて一致していることから、この会談で田中と周が尖閣問題について「棚上げ」で合意したことはまず間違いない。ということは、外務省が情報開示した会談記録に欠落があったことになる。

情報開示に至るどこかの段階で記録を削除したのか、あるいは最初から問題の部分を記載しなかったのかは不明だが、両国首脳の会談内容を誠実に記録していないという点で、いずれにせよこれは改ざんである。

公文書の改ざんは財務省だけでなく、外務省もやっていたということだ。外交記録を時の政府の都合に合わせて改ざんするようでは、日本外交が信用されないのは当然のことだろう。

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