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死刑廃止国は代わりに現場で射殺(簡易処刑)しているというトンデモ説

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死刑執行と現場射殺では意味がまったく異なる

日本で死刑が執行され、EUや死刑廃止国から批判されると、死刑廃止国では死刑にする代わりに現場で射殺しているだけだ(だから日本を批判する資格はない)、という主張がウヨ方面から流れてくる。

言うまでもないことだが、武装し、抵抗をやめない犯人をやむなく現場で射殺する行為と、既に逮捕・拘禁され、一切の抵抗手段を奪われている死刑囚を刑罰として処刑する行為では、意味がまったく異なる。

この二つの区別がつかないネトウヨの思考回路というのは、いったいどうなっているのだろうか?

アメリカの死刑存置州でも現場射殺は行われており、これは銃まみれ社会アメリカの当然の帰結だろう。

ちなみに、「犯人」がまだ誰も殺していなくても、状況によっては射殺する他ない場合もありうる。この点からも、現場射殺と死刑執行は全く性質が異なることは明らかだ。

また、少数ながら日本でも警官による現場射殺は行われている。先日も、刃物を持って向かってきた(銃は持っていない)男を警官が射殺するという事案が発生している

「死刑廃止国は代わりに現場で簡易処刑」説を言い出したのは誰か?

このトンデモ説の始まりはどこなのだろうか?

Webで調べた限り[1]では、東京地検検事、参議院議員(自民党)という経歴を持ち、現在は弁護士の佐々木知子氏が元ネタのようだ。「『死刑廃止』には反対」と題された氏のHPに次の記述がある。(Internet Archiveを見ると、この記事の最古のログが2006年8月28日に記録されているので、少なくともそれ以前から存在していたことが分かる。)

 ?A諸外国では犯人検挙の際の簡易死刑執行(summary execution)がなされている事実を 見逃している。

 死刑は野蛮だから断固廃止すべきだと主張するいわゆる先進国でも、逮捕に抵抗する犯人の射殺は容易に行われていることを廃止推進派は看過しています。簡易死刑執行は人権感覚の希薄な発展途上国ではさらに容易に行われており、こうした統計数値を調べようとしたことがありますが、見つかりませんでした。それほど当たり前に行われているからではないかと思っています。
 アジア極東犯罪防止研修所に勤務していたとき、先進国・発展途上国を問わず多くの国々の司法関係者と話をした際、日本ではほとんど意識されない刑事司法「コスト」が容易かつ当然に語られるのに驚いたものです。
つまり危険な犯人をその場で殺害してしまえば、将来の危険性は永久に除去され、その後の司法手続きも不要になる。刑務所に収容して税金で養う必要もない(犯行現場にいたのだから犯人性にもまず間違いはないでしょう)。日本のように、警察官自らは負傷をしても犯人は必ず無傷で捕まえることが至上命令であり、かつその後は丁寧に捜査をして実体解明をしない限り、国民の非難を受けるということは彼らの理解を超えたことでした。もちろんその背景には、国民の、司法機関に対する真相解明へのあくなき要求が存在します。神の存在しない日本では真相解明をできるのは司法機関しかないのです。

佐々木氏の主張は、既に死刑を廃止した先進国の話と「人権感覚の希薄な発展途上国」(当然死刑もやっている)の話をごっちゃにし、しかもその統計が見つからないことを理由に「それほど当たり前に行われているからではないか」と結論付けるなど、論理が無茶苦茶である。こんな人物が検事として被疑者を起訴していたのかと思うと恐怖を覚える。

「あの事件」の後でもこのトンデモ説を唱えるのはいくらなんでもダメだろう

この佐々木説は、法務省が2010年から2011年にかけて開催した「死刑の在り方についての勉強会」でも、岡村勲氏(全国犯罪被害者の会代表幹事:当時)が死刑廃止に反対する根拠の一つとして使っており[2]、この説がネトウヨの寝言にとどまらない大きな社会的影響力を持っていることが分かる。

 また,国家といえども人の命を奪うことはできない,職務として人を殺すことは何事であるか,こういうことを言います。この人たちに私は聞きます。それならば,街頭で発砲して殺人をしている加害者がいる,これを射殺できないのですか。射殺するということは,国家が殺すことでしょう。それができないのですか,こう言うのです。そうすると,また黙ってしまいます。反論できない。
 ヨーロッパなんかでは,もう現場射殺ということは多く行われていると言われています。これまた後で申し上げますが,EUだって現場射殺は行っているのです。人質犯についてはSATが飛びかかっていく。日本もそういうことをまねてSATをつくりました。国家が人命を奪ってはいけないのなら凶悪な人質犯を射殺することはできないはずです。死刑廃止国の方が一段と進んでサマリーエクスキューションをやっているわけでございます。
(略)
 先ほど言いましたように,これらの国々においては現場射殺ということが多く行われている。これは元参議院議員であり,今は弁護士,その前は検察官であった佐々木知子さんが 「死刑廃止に反対する」という論文をインターネットに載せておられますが,この現場射殺の問題について,どれだけ外国で行われているかということを一生懸命アジ研の教官時代に調べたそうです。ところが統計が見つかりません。私も調べてみましたがありませんでした。佐々木さんは,余りにも当然なことなので統計にとるまでもないということではないかと,こういうことをおっしゃっておられました。イギリスの警察官は丸腰である,だから現場射殺するはずはないと言いますが,私は信用できない。丸腰でピストルを持って凶悪行為をしている犯人を捕まえられますか。凶悪犯人が来たら警察官は逃げてしまうのでしょうか。こういうのがイギリスであるとは思われません。

ところで、岡村氏がこのように語った第3回勉強会(2010年9月9日)から1年も経たないうちに、あの事件が起きている。

「あの事件」とは、ノルウェーで2011年7月22日に発生した、極右テロリスト アンネシュ・ブレイビクによる連続テロ事件[3][4]だ。この事件でブレイビクは、首都オスロの政府庁舎を爆破して8人を殺し、さらにオスロ近郊のウトヤ島で開催されていたノルウェー労働党青年部の集会に侵入して10代の青年69人を射殺した。合計77人殺害という、単独犯による犯行としては史上最大規模の大量殺人事件である。

しかし、この究極の凶悪犯ブレイビクは現場で射殺されることもなく逮捕され、裁判を受けて、今も刑務所で服役している。

この事件を経てなお死刑廃止国ではその代わりに現場射殺しているなどという説を唱えるのは、ノルウェーをはじめとする人権先進国への侮辱と言っていいだろう。

ちなみに、同じ岡村氏が最近東京高裁で行った講演[5]には、この現場射殺の話は見当たらない。

[1] togetter「死刑廃止と死刑存置の考察/現場射殺について(2)
[2] 法務省「死刑の在り方についての勉強会 (第3回)」岡村勲氏ヒアリング結果 2010/9/9
[3] Wikipedia「ノルウェー連続テロ事件
[4] Wikipedia「アンネシュ・ベーリング・ブレイビク
[5] 岡村勲 講演「被害者と裁判官」 2018/2/6

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