感染研による検査妨害疑惑
韓国などと比べて新型コロナウイルス検査が遅々として進まず、そのため国内での感染の広がりがまったく把握できないという異常な状況に苛立ちが募っているところに、厚労省が検査を意図的に妨害しているのではないかという疑惑が浮上してきた。
27日の衆院予算委員会で、立憲民主党の川内博史議員の質問で驚きの事実が発覚。25日に厚労省の研究機関「国立感染症研究所」から北海道庁に派遣された3人の専門家が「検査をさせないようにしている疑念がある」と指摘したのだ。
道の対策本部に派遣された3人は、政府が策定した基本方針に記載のある〈入院を要する肺炎患者の治療に必要な確定診断のためのPCR検査〉の実施を必要以上に強調。暗に、「軽症の患者は検査するな」との意向をにおわせ、道職員や保健所職員の間で「検査し過ぎてはいけないのか……」という空気が生まれているという。川内議員は道議会議員から聴取した内容だと明かした。
(略)川内議員に情報提供した立憲民主党の武田浩光道議がこう言う。
「北海道の対策本部に東京から3人が派遣されて以降、『感染疑い』の方がなかなか検査してもらえなくなってしまいました。医者を通じて検査の要望をしても、保健所に断られてしまうというのです。それまでは、37.5度以上の熱が4日以上続く、などといった条件に合致すれば、比較的スムーズに検査してもらえた。とにかく『重症者優先』を訴える3人が来たことで、状況が変わってしまいました」
安倍政権が専門家3人を北海道に送り込んだのは、検査件数を抑え、感染者数を増やさないようにするためだった疑いが強い。現在、北海道の感染者数は54人と全国最多となっている。理由は、重症化する前から検査を認めてきたからだとみられている。
しかし、検査件数を抑えることで感染者数を少なく見せかけようとしているのなら、本末転倒もいいところだ。(略)
感染研の声明は反論になっていない
この指摘を受けて、厚労省国立感染症研究所は3月1日、検査妨害は「事実誤認」だとして疑惑を否定する声明を発表した。
しかし、これは果たして反論と言えるものなのか。
市民の皆様へ
新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査に関する報道の事実誤認について
2020年3月1日
国立感染症研究所
所長 脇田 隆字
今般、北海道における新型コロナウイルス感染症に関する一部の報道において、国立感染症研究所(以下、本所)職員の発言趣旨に関して事実と異なる報道がございましたので、ここでご説明いたします。
1.前提:積極的疫学調査について
(略)
2.国立感染症研究所の職員による積極的疫学調査について
今般の新型コロナウイルス感染症への対応のため、新型コロナウイルス感染症厚生労働省対策本部クラスタ―対策班の指示により、国立感染症研究所等の職員7名が北海道に派遣され、積極的疫学調査に従事しています。今回の積極的疫学調査では、感染の拡がりを、集団感染単位(クラスター)ごとに封じ込め、地域や国全体の感染の抑制、収束に至らせることを目的として活動しています。具体的な活動は、以下の通りです。
- PCR検査によって感染が確定した人の接触者に何らかの症状が出た場合に、PCR検査によって感染の有無を確定すること
- 感染があることが確定すれば、次の感染伝播を防ぐために、その人の接触者に対して、行動の制限を依頼すること
3.一部報道による事実誤認について
一部の報道では、北海道に派遣された職員がPCR検査について「入院を要する肺炎患者に限定すべき」と発言し、「検査をさせないようにしている」との疑念が指摘されています。
しかし、積極的疫学調査では、医療機関において感染の疑いがある患者さんへのPCR検査の実施の必要性について言及することは一切ありません。
本所において、職員に対して聞き取り調査を行ったところ、
- 感染者の範囲を調査により特定し、対応を行っていく積極的疫学調査のあり方についてアドバイスを行った
- 検査に関する議論の中で、「軽症の方(あるいは無症状)を対象とした検査については、積極的疫学調査の観点からは、「PCR検査確定者の接触者であれば、軽症でも何らかの症状があれば(場合によっては無症状の方であっても)、PCR検査を行うことは必要である」と述べた
- 「一方、接触歴が無ければ、PCR検査の優先順位は下がる」と述べた
とのことでした。
職員が述べた考え方は、感染伝播の状況を把握することを目的とした、積極的疫学調査における一般的な考え方です。しかし、この考え方は、体調を崩して医療機関を受診する患者さんに対するPCR検査についての考え方ではありません。現在の政府の方針、すなわち、「医師が総合的に新型コロナウイルス感染症の疑いありとした患者に関しては検査が可能である」という考え方を否定する趣旨はなく、また、医療機関を受診する患者さんへのPCR検査の実施可否について、積極的疫学調査を担っている本所の職員には、一切、権限はございません。
よって、本所職員の発言の趣旨が誤った文脈に理解され、事実誤認が広がった可能性があるものと考えます。
4.積極的疫学調査にご協力いただいている皆様へ
(略)
5.報道に携わる皆様へのお願い
最近の各種報道では、上記の件以外でも、本所が「検査件数を抑えることで感染者数を少なく見せかけようとしている」、「実態を見えなくするために、検査拡大を拒んでいる」といった趣旨の、事実と異なる内容の記事が散見されます。
(略)
報道に携わる皆様におかれましては、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」とその運用、ならびに本所の役割をよくご理解いただき、新型コロナウイルス感染症の急速な感染拡大の防止にご協力くださるよう、お願いいたします。
以上
感染研はこう言うが、北海道に派遣された感染研職員が「積極的疫学調査」の観点からアドバイスを行い、感染確定者と接触のあった者の検査を優先すべきで接触歴のない患者は検査の優先順位が下がると指導したのなら、それまで行われていた軽症患者への積極的な検査を抑制する結果になるのは当然ではないか。また、感染研職員には検査の実施を左右する権限がないなどと言っても、国の研究所から派遣された専門家による「アドバイス」は強い心理的圧力として作用するだろう。
感染研職員の指導どおりに検査していたら発見数は数分の一以下
ではここで、具体的に事例を見てみよう。
北海道が公表している新型コロナウイルス感染症の発生状況によれば、3月6日時点で判明している90例の感染例のうち、既に感染していた患者の濃厚接触者だったと確認されているのは13例(12, 20, 25, 29, 32, 40, 41, 43, 54, 70, 72, 79, 84, 85例目)しかない。ちなみに、このうち既存感染者の濃厚接触者だったために検査を行ったと明記されているのは3例(20, 40, 41例目)だけだ。
つまり、北海道でのコロナウイルス検査が最初から感染研職員の「アドバイス」どおりに行われていれば、今でも道内での感染者はせいぜい数分の一しか見つかっていないはずなのだ。
これが検査妨害以外の何だというのか。
感染研の声明は、検査妨害疑惑の報道が「事実と異なる内容」どころか事実そのままだったことを、自ら白状したようなものだ。
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