自民党が最近、「もやウィン」とかいうゆるキャラ?を使った改憲プロパガンダマンガを拡散している。
1話目では、ダーウィンが言ったと称するセリフを引用して、「生き残るには変化が必要」→「だから改憲が必要」と、強引すぎる滅茶苦茶な論理を展開。
しかし、まずダーウィンはそんなことなど言っていない。また、そもそも生物進化のあり方を人間社会に当てはめて政治的に利用しようとすること自体、悪質な進化論の誤用である。
この点については、日本人間行動進化学会がこのような進化論の悪用を憂慮し、反対する声明を出すに至っている。[1]
歴史を振り返るとダーウィンの進化論には、思想家や時の為政者によって誤用されてきた苦い歴史があります。生物進化がどのように進むのかという事実の記述を踏まえて、「人間社会も同様の進み方をするべきである」もしくは「そのように進むのが望ましい」とする議論は「自然主義」と呼ばれてきました。これは「自然の状態」を、「あるべき状態だ」もしくは「望ましい状態だ」とする自然主義的誤謬と呼ばれる「間違い」です。論理的には成立しないはずの議論であるにもかかわらず、進化論と自然主義が結びつくことによって、肌の色、⺠族、性別、能力の有無などによる差別や抑圧が正当化されてきた歴史が厳然と存在します。(略)科学という権威を利用して政治的な主張を展開しようとする中で、そもそもダーウィンが主張したことのない言説が編み出され流布されるような事態まで起きています。
ダーウィン的進化とはランダムに生じた変異の中から、環境に適さないものが淘汰されていくプロセスです。(略)私たちの先人たる科学者たちは、ダーウィンの進化論が誤用され、政治的に利用されることに警鐘を鳴らし、その問題を解決しようと努力してきました。しかし現代においてもなお、特定の政治的主張に権威を与えるために、進化を含む科学的知識が誤用される事例がしばしばみられます。(略)
インターネット上の自由⺠主党の広報ページ「憲法改正ってなあに 身近に感じる憲法のおはなし」内における4コママンガ「教えて!もやウィン」第1話「進化論」(引用1)は、こうした誤用の一例です。
(略)
(略)しかしダーウィンの著した文献にこのような記述はなく、メギンソン(LeonC.Megginson)が自身の解釈として述べた文章が、あたかもダーウィンが主張したかのように誤って流布したものだと指摘されています(引用2、3)。また、進化論は変化できる者のみが生存できるとは主張していないのです。進化は「集団中の遺伝子頻度の変化」のことであり、個体の変容に関する言及ではありません。さらに、すでに述べたように、生物の進化のありようから、人間の行動や社会がいかにあるべきかを主張することは、論理的な誤りです。
生物進化のあり方から「弱肉強食」や「適者生存」のような概念を恣意的に抽出して人間社会における格差や差別の存在を正当化しようとする似非科学、いわゆる社会ダーウィニズムは、自民党的精神の持ち主にとってはまさに「我が意を得たり」なのだろう。
だが、生物進化の舞台である自然には、人間社会を構成する枠組みとしての法も政府も存在せず、ましてや他者の労働から利潤を得る資本のメカニズムなどあり得ない。自民党が本気で自然のままのあり方を社会に適用すべきと考えているなら、まず人工的メカニズムの極致である資本主義の解体でも主張したらどうか。
[1] 『「ダーウィンの進化論」に関して流布する言説についての声明』 日本人間行動進化学会 2020/6/27