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朝鮮人虐殺被害者への追悼文を送らない小池都知事の詭弁は白人至上主義者の「オール・ライブズ・マター」と同じ

関東大震災時の朝鮮人虐殺被害者を慰霊する式典に、東京都は1970年代から毎年追悼文を送付してきたが、2017年以来、小池都知事はこの追悼文送付を取りやめている。都知事は今年も送らず、送付なしはもう5年目となった。

なぜ追悼文を送らないのか。その理由を小池都知事は「(朝鮮人虐殺は)いろいろ歴史の書の中で述べられている。さまざまな見方がある」[1]、「(大震災で犠牲になった)全ての方々への法要を行っていきたいとの意味から、特別な形での追悼文の提出は控えた」[2]などと述べている。

しかし、関東大震災時に大規模な朝鮮人虐殺があったことは歴史的事実として確定しており、これに疑問をさしはさむ近現代史研究者はいない。「なかった」などと言っているのはトンデモ本の類だけだ。

2点目の言い訳については、9月3日の東京新聞でジャーナリストの北丸雄二氏がこんな指摘をしていた。

 「全ての犠牲者に哀悼の意を示しており、個別の追悼文は控える」という物言いは「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命だって大切だ)」に対して「オール・ライブズ・マター(誰の命だって大切だ)」という言い方をぶつけて前者を相対化し無化しようとする米国の白人至上主義者と同じ論理です。関東大震災に虐殺された朝鮮人犠牲者の追悼式典に五年続きで今年も追悼文を送らなかった小池都知事は、この排除主義者たちの物言いを先取りしていました。震災直後の「朝鮮人暴動」の流言報道によって“仕返し”のように虐殺された人々は一般の震災犠牲者とはまったく違う存在ですし、それは「全ての犠牲者」との表現で消される歴史でもない。

まさにそのとおりで、世界中どこでも、差別主義者・歴史修正主義者の使う詭弁は似通っている。

朝鮮人虐殺の被害者たちは震災で死んだのではない。彼らはせっかく震災を生き延びたのに、差別心ゆえの憎悪に駆られた日本人によって無残に殺されたのだ。大地震は天災だが、虐殺は人間が手を下した犯罪行為である。

殺人の被害者を自然災害による犠牲者と一緒くたにして「全ての犠牲者に哀悼」などと言うのは、憎悪殺人という行為の悪質さを隠蔽し、災害に伴う「不幸な犠牲」だったかのように見せかけようとするものだ。

差別主義者小池百合子による悪質な歴史修正である。

過去の虐殺はもちろん恥ずべき犯罪行為だが、その事実をなかったことにしようとするのは、現在進行形のさらに恥ずべき行為だ。


[1] 『朝鮮人追悼文送付取りやめ 小池氏虐殺の認識語らず』 東京新聞 2017/9/2
[2] 『都知事の朝鮮人追悼文取りやめ「排外主義的な面出た」式典実行委が訴え』 東京新聞 2017/12/7

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