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『はだしのゲン』が嘘を書いている、という嘘

この国の右派は、彼らの正体を容赦なく暴き立てる『はだしのゲン』を、何としても教育現場から排除しようと常に画策している。

そのための口実として彼らがよく持ち出すのが、「はだしのゲンには嘘が書いてある」という主張だ。

先日も、広島市の教育委員会が『はだしのゲン』を平和学習教材から排除してしまったのを正当化する文脈で、こんなツイートがTLに流れてきた。(なぜか埋め込みができないのでスクショ)

引用されているのは日本軍の中国での様々な残虐行為を説明している場面だが、このネトウヨ氏も捕虜の斬首や銃剣刺突といった行為は証拠証言が多すぎて否定できないらしい。それでもなお、「女性の性器に一升ビンを突き込んで殺した」という話は嘘(日本兵ではなく中国人がやったこと)だと言いたいようだ。

だが、これは嘘ではない。日中戦争の最中に、当時まだ旧制中学の生徒だった歴史家の色川大吉氏(元東京経済大学名誉教授)が、直接中国帰りの兵隊から聞いた話である。[1]

 それにもかかわらず、若干の秘密は直接体験者の言葉を通してひろがるものだ。それから二、三年後のことであるが、その一端は田舎の一中学生であった私のような者の耳にまで、はっきりと届いている。

 Tという元陸軍伍長のトラック運転手がいた。私の家に仕事のことで出入りしていだが、ある日、私にこんなことを話した。その姑娘(中国娘)をみんなで手ごめにしたあと、気絶していた娘の膣に、そばに転がっていた一升ぴんを突っこみ、どこまで入るか銃底で叩きこんでみた。そしたら血を噴いて骨盤が割れて死んでしまった、と。

 それを一片の悔恨の気特もあらわさず、むしろ毒々しい笑いを頬に浮べて、自慢そうに話したときの態度を、私は一生忘れることができない。Tは日本に帰れば善良な労働者であり、平凡な家庭の父であり、礼儀正しい常識人であった。その人の表面の平静さの奥にかくされた恐しい人格の崩壊ぶりは、帝国主義戦争の結果だといってすますにはあまりにも無惨すぎる。こういう種類の日本人がこんどの戦争で何十万人も生れ、そして、今なお生き残っていることを私たちは片時も忘れてはならない。それが自分自身であるかもしれないからである。

こんなことは、日本軍が中国で際限なく繰り返した鬼畜のような残虐行為のほんの一例に過ぎない。

何かといえば「日本人の誇り」だのなんだのと言いたがる右派は、過去に自国の軍隊が犯した罪を否定し、その上相手のせいにする卑劣さを少しは恥じたらどうか。

[1] 色川大吉 『ある昭和史 ーー 自分史の試み』 中公文庫 2010年(初版1978年) P.73-74