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マスコミは歴史上の事実を「とされる」などとぼかすな

朝日新聞が、関東大震災時の朝鮮人虐殺について「殺害された事件が起きたとされる」などとぼかした表現をしている。

この記事は、先日の大阪北部地震の発生後、ツイッター上で「外国人」による犯罪が多発しているかのようなデマが流布されている事態に警鐘を鳴らしているものだ。

それなのに、関東大震災時に同じようなデマによって多数の朝鮮人が虐殺された事件について、「起きたとされる」などとぼかして書いている。

過去には、2016年の熊本地震の際に「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」といったデマがネット上で出回った。95年前の関東大震災でも、同様のデマにより朝鮮人らが殺害される事件が起きたとされる。

そもそも関東大震災の際、デマに踊らされた自警団による朝鮮人数千人の虐殺という悲惨事が起きたからこそ同様な事態の再来を戒めなければならないのに、その肝心の事実をあいまいにぼかしてどうするのか。

この件に限らず、日本のマスコミは、右派にとって都合の悪い歴史的事実はいつもぼかして表現する。例えば朝日新聞が南京大虐殺に言及する際のテンプレがこれだ[1]。

 〈南京事件〉 1937年12月、旧日本軍が国民政府の首都だった南京を攻略した際、市民や捕虜の殺害、暴行に及んだとされる。中国側は、戦後の軍事法廷の判決などから「犠牲者は30万人」と主張。日本の研究者の間では「約4万人」や「十数万~20万人」の説が有力な一方、「虐殺はなかった」との主張もある。外務省は「非戦闘員の殺害や略奪行為は否定できない」とした上で「被害者数は諸説あり、どれが正しいか認定は困難」としている。

朝日のようなリベラルと目されるメディアでさえこうなのだ。事実を異論のあり得る説であるかのように書くこうしたマスコミのヘタレな態度が、史実を否定する歴史改竄派を勢いづかせている。

いいかげん、明白な事実を「とされる」などとぼかすのはやめるべきだ。

[1] 岩崎生之助 『南京陥落から80年 子ども世代が継承する「記憶」』 朝日新聞 2017/12/13

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