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オスプレイの事故率を民間航空と比較した産経新聞の蛮勇

昨年4月、米軍と安倍政権は、熊本大震災後の被災地への物資輸送にわざわざ役にも立たないオスプレイを使ってみせるというパフォーマンスを行った。このとき、そのお先棒を担いで「安全で役に立つオスプレイ」の宣伝につとめていたのが産経新聞だが、記事中でオスプレイの事故率が民間航空と比べても低いという驚くべき主張をし、しかもその後、こっそりと問題の部分を削除していた。

幸い同記事の魚拓が残っていたので、削除部分とその前後を引用してみよう。現在Webに掲載されている記事では、下記の下線部分がそっくり削除されている。

産経ニュース(2016/4/20):

【熊本地震】一部メディアのオスプレイ叩きに被災者から批判の声 「露骨な政治的パフォーマンスでは…」 

 熊本地震で、輸送支援に当たっている在日米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの活動を、複数の日本メディアが批判的に報じたことに、被災者から怒りの声が上がった。「政治利用」や「パフォーマンス」などと断じる記事こそ、イデオロギーを背景とした政治利用ではないかという憤りだ。

(略)

 オスプレイは、ヘリコプターが持つ垂直離着陸やホバリング(空中停止)機能と、固定翼機の速度や長い航続距離といった双方の長所を併せ持つ。道路網が寸断されたなかでの支援活動には大きな力を発揮する。

 そうした利点に目をつぶった記事に、批判が噴出した。

(略)

 そもそも、日米同盟がある以上、被災地支援に利用できる米軍の航空機を使用するのは当たり前で、政治的な判断を必要とするのも当然だ。オスプレイ投入を政治利用と腐し、自衛隊の存在そのものに否定的な勢力の論法だと、自衛隊の災害派遣も、自衛隊を正当化する政治利用だということになりはしないか。

 こうしたメディアが振りかざすオスプレイの危険性も事実からは遠い。

 米軍は事故について、死者や200万ドル(約2.1億円)以上の損害が出た事故をクラスA、より軽微な事故を順番にクラスB、Cとランク付けしている。

 米当局が明らかにしたMV22のクラスA事故率は1.93で、海兵隊の平均事故率2.45を下回る。この数字は大韓航空や中華航空よりも低いという。

 これまでもオスプレイは沖縄県の普天間飛行場への配備時など、執拗な批判にさらされてきた。しかし、物資輸送をはじめ、災害発生間もない被災地のさまざまな需要に応じるため、オスプレイを活用しない理由はない。米軍の中型輸送ヘリCH46と比べ、速度は約2倍、航続距離は約4倍で、積載量も約3倍といずれの性能も上回るからだ。

 救援活動での活躍は、ことさらオスプレイの危険性を強調し、過剰ともいえる議論をリードしてきた一部メディアにとっては“不都合な真実”になりかねない。しかし、露骨な反対運動のアピールは、逆に被災者や関係者の怒りや失望を買うだけではないか。(九州総局 中村雅和)

さて、オスプレイMV22のクラスA事故率1.93(この数字も実際より低く偽装された値である)が民間航空の事故率より低いというのは本当だろうか。記事中で名前をあげられている大韓航空を例にとって実際に検証してみよう。なお、この産経記事では「1.93」という数字しか書かれていないのでこれが何をどう計算した結果か意味不明になっているが、これは「飛行10万時間あたりの事故件数」である。

大韓航空の全フライト一覧がここに掲載されている。この中から、韓国と日本の間の定期便(他社運行便は除く)について、飛行時間と便数から1年間の合計飛行時間を求めてみると、次のようになる。

飛行時間 便数 飛行時間/日 飛行時間/年

ソウル

沖縄

2.5

毎日x2

5

1825

ソウル

青森

2.5

週3x2

2.3

839.5

ソウル

福岡

1.5

毎日x8

12

4380

釜山

福岡

1

毎日x4

4

1460

ソウル

鹿児島

1.5

週3x2

1.3

474.5

ソウル

小松

1.7

週3x2

1.5

547.5

ソウル

名古屋

2

毎日x2

4

1460

釜山

名古屋

1.5

毎日x2

3

1095

ソウル

新潟

2

週3x2

1.7

620.5

ソウル

岡山

1.5

毎日x2

3

1095

ソウル

大阪

1.7

毎日x12

20.4

7446

釜山

大阪

1.5

毎日x4

6

2190

済州島

大阪

1.6

週4x2

1.8

657

ソウル

札幌

2.7

毎日x4

10.8

3942

釜山

札幌

2.5

毎日x2

5

1825

ソウル

東京

2.2

毎日x16

35.2

12848

釜山

東京

2.2

毎日x4

8.8

3212

済州島

東京

2.4

週3x2

2

730

ソウル

大分

1.5

週3x2

1.3

474.5

       

47121.5


飛行時間は年間で合計およそ4万7千時間となる。従って、大韓航空の事故率が10万飛行時間あたり1.93より高ければ、日本―韓国間の路線だけで、平均して毎年1件弱またはそれ以上の事故が起きているはずである。しかし実際には、昨年5月27日に羽田空港でエンジン火災事故(死傷者なし)を起こしたものの、それ以前は2000年以来、日本―韓国間だけでなく国内線や他の国との国際線すべてを含めても、一度も事故を起こしてはいない。

常識的に考えても、安全第一で設計され運用される民間航空機の事故率が軍用機のそれより高くなるはずがないのである。どこからネタを拾ってきたのか知らないが、産経新聞の信頼性がまとめサイト並であることをよく示した事例だった。

 

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