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危険過ぎる玄海原発1号機

 

2号機、3号機の運転再開について、「国が責任を持つ(海江田経産相)」だの「安全性の確認はクリアできた(古川佐賀県知事)」だのとバカげた馴れ合い茶番劇が繰り広げられている玄海原発だが、現に稼働中の1号機の状態は「安全」どころではない。

 

東京新聞こちら特報部(7/2)」:

玄海1号機 危険度最悪

緊急冷却で破損の恐れ 専門家「検査し危険なら廃炉に」

 

 「日本で一番危険な原子炉は、九州電力玄海原発1号機(佐賀県玄海町)です」。こう断言するのは、井野博満・東大名誉教授(73)=金属材料学=だ。

 原発地震や事故など異常が起こると運転が停止し、緊急炉心冷却装置(ECCS)が働いて、原子炉を急速に冷やす仕組みになっている。福島第一では、電源を喪失してこのECCSがうまく作動せず、事故に至った。ところが玄海1号機でECCSが働いた場合、逆に大きな事故が起きる可能性があるという。

 

 玄海1号機の運転開始は36年前の1975年で、九州電力原発の中では最も古い。

 

 井野氏は言う。

 

 「1号機の原子炉容器の鋼の壁は老朽化でもろくなっている。急速に冷やした場合、破損する恐れがあるのです」

 

◆ガラスのコップが壊れるイメージ

 

 井野氏が例えるのは、ガラスのコップだ。熱いコップに冷たい水を急に入れると、内側と外側の急激な温度変化に耐えられずバリンと割れてしまうことがある。同じような現象が圧力容器にも起こり得るという。

 

 圧力容器の内壁は、核分裂で発生する中性子線にさらされている。鋼は中性子線を浴びるほどもろくなっていく。柔軟性を損ない、人の血管が動脈硬化で破れやすくなってしまうのと同じことが起きる。

 

 通常、鋼はある程度の力を加えても変形するだけで割れることはない。しかし、ある温度を下回ると、陶器のようにバカンと割れてしまう。この温度を脆性遷移温度という。もろくなればなるほどこの温度は上がる。

 

 井野氏によると、北太平洋を航行中に沈没したタイタニック号は、質の悪い鋼材が使われていて脆性遷移温度は27度だったという。そして氷山に衝突した衝撃で船体は割れてしまった。

 

 電力会社は、原発の耐用年数を推測するため、この脆性遷移温度を調べている。圧力容器の内壁のさらに内側の位置に圧力容器と同じ材質の試験片を四〜六組ほど設置。数年から十数年ごとに取り出して検査する。内壁より炉心に近い位置に設置してあるため、中性子の照射量が大きくなり、脆性が早く進む。試験片を調べ、将来のもろくなった状態を予測するのだ。

 

 玄海1号機の圧力容器の脆性遷移温度はどうなのか。75年の運転開始時はマイナス16度だったのが、76年に35度、80年に37度、93年に56度と徐々に上昇してきた。「ここまでは、ほぽ予想通りでした。衝撃的だったのは昨年十月に九州電力が公表した2009年4月時点の温度です」。何と98度に跳ね上がっていたのだ。

 

 玄海1号機のような加圧水型軽水炉では、圧力容器内を150気圧、300度以上の高温高圧で運転している。容器に亀裂が入れば、爆発的な破壊に発展し、大量の放射性物質を放出することになる。想像を絶する惨事が引き起こされる。

 

 

                原子炉圧力容器脆性ワースト7

順位

原子炉名

運転開始

分類

脆性遷移温度

試験(取り出し)時期

玄海1号

1975年10月15日

母材

98℃

2009年 4月

美浜1号

1970年11月28日

母材

溶接金属

74℃

81℃

2001年 5月

美浜2号

1972年 7月25日

母材

78℃

2003年 9月

大飯2号

1979年12月 5日

母材

70℃

2000年 3月

高浜1号

1974年11月14日

母材

68℃

2002年11月

敦賀1号

1970年 3月14日

母材

溶接金属

51℃

43℃

2003年 6月

福島第一1号

1971年 3月26日

母材

50℃

1999年 8月

原子力資料情報室作成の資料から

 

 

保安院に九州電 調査結果伝えず

 

 井野氏らは、昨年12月、経産省原子力安全・保安院に説明を求めたところ、「驚いたことに、保安院はその時点で何の情報も持っていなかった。九州電力は『報告する義務はない』として知らせていなかったのです」。

 

 なぜ、玄海1号機の数値は急激に上がったのか。

 

 井野氏は「鋼の中の銅の含有率が高かった可能性がある。部分によって材質にむらのある欠陥炉の疑いもある」とみる。

 

 「原因を調べるために、試験片を大学などに提供し、ミクロ組織の検査を行うべきです。少なくともその結果が分かるまで原子炉は止めるべきです」

 

 九州電力が03年に提出した報告書の予測曲線によると、玄海1号機の脆性遷移温度は65度程度、誤差を入れても75度前後のはずだった。98度は、修正した予測曲線からも大きくはずれている。

 

 九州電力広報部は「試験片の98度というのは、66年運転した場合の想定温度。容器本体は80度と推定している。60年運転想定では91度になる。日本電気協会の定めた新設炉の業界基準93度を下回っている」と説明。「安全上の問題はない」と主張する。

 

 しかし、井野氏は「予測曲線からあまりにもはずれている。予想式はあてにならなくなっている。根本的に見直し、安全検査を徹底すべきだ」と訴える。

 

 玄海1号機と同じ問題を抱える老朽原発は、ほかにもある可能性が高い。井野氏はこの点を強く危惧している。

 

◆「無理な運転は傷みもひどく」

 

 井野氏は「老朽化すれば、故障やトラブルが増え、メンテナンスが大変になるのが普通。無理な運転をすれば傷みもひどくなる」と指摘する。

 

 玄海1号の98度はワーストで、50度以上の原発は7基ある。ただ、試験片を10年以上検査していない原発もある。

 

 「検査をすれば、玄海1号と同じように脆性遷移温度が跳ね上がる圧力容器はほかにもある可能性は否定できない」

 

 井野氏はあらためて警告する。「全国の老朽化した原発を早急に総点検し、予測以上の脆化を示した原子炉はすぐに廃炉にすべきだ」

 

要するに、玄海1号機では中性子による圧力容器の劣化が予想以上に急速に進み、鋼材が脆くなっている。だから、この状態で地震に遭遇するなどしてECCSが作動すると、急激な冷却による熱衝撃で圧力容器が脆性破壊を起こす恐れがあるというのだ。

そんなことになれば、150気圧もある内圧によって圧力容器は完全に吹き飛び、格納容器も破壊されて、核燃料はすべて周囲に撒き散らされることになる。この場合、軽水炉で考えられる最悪の事故である、冷却剤喪失→メルトダウン→溶けた核燃料が地下水に接触して水蒸気爆発、というケースと大差のない事態となる。

いまの福島第一原発事故どころの騒ぎではない。風下では急性放射線障害によって人がばたばた死んでいくという地獄絵図になりかねない。

 

そんな危険が潜んでいる可能性が万分の一でもあるのなら、少なくともただちに運転をやめて徹底的な点検を行うというのが、まともなリスク感覚と責任感を持った大人のすることだろう。

しかし、九電保安院も、そんなものは持ちあわせていないらしい。

 

原発という技術それ自体の危険性も大きな問題だが、そうした危険な技術を扱う資格のない無責任な連中が運用や監督をしていることのほうが、より重大な問題だ。