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「ホロコーストの記憶」の誤用を戒める公開書簡

国際アウシュヴィッツ評議会がイスラエルによるガザへの軍事侵攻を支持する決議を行い、アウシュヴィッツ博物館が公式アカウントでそれを世界に発信したその日に、世界の名だたるホロコースト研究者や歴史家たちが連名でホロコーストの記憶の誤用を戒める公開書簡を発出した。

 

 

 

広く読まれるべき文章だと思うので、訳してみた。(機械翻訳をベースに一部修正)

ホロコーストの記憶の誤用についての公開書簡

Omer Bartov, Christopher R. Browning, Jane Caplan, Debórah Dwork, Michael Rothberg 他

ホロコーストの記憶に訴えることは、ユダヤ人が今日直面している反ユダヤ主義についての私たちの理解を曖昧にし、またイスラエル・パレスチナにおける暴力の原因を危険なほど歪曲して伝える結果となる。

2023年11月20日

 

 私たち署名者は、さまざまな学術機関でホロコーストと反ユダヤ主義について研究している学者です。私たちは、ガザとイスラエルにおける現在の危機を説明するためにホロコーストの記憶を引き合いに出す政治指導者や著名人たちに対する落胆と失望を表明するためにこの手紙を書いています。

  具体的な例としては、イスラエルのギラッド・エルダン国連大使が国連総会での演説中に「Never Again(二度とあってはならない)」と書かれた黄色い星を身につけたり、米国のジョー・バイデン大統領が、ハマスは「ホロコーストと同じくらい重大な野蛮行為を行った」と発言したことなどがあげられます。その上、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はドイツのオラフ・ショルツ首相に「ハマスは新しいナチスだ」と語りました。フロリダ州選出のブライアン・マスト下院議員(共和党)は議会での演説で、「第2次世界大戦の最中に『無辜のナチス民間人』などという言葉を軽々しく使うべきではない」と主張して、「無辜のパレスチナ民間人」が存在するという考えに疑問を呈しました。

 イスラエル・パレスチナの危機が高まると、反ユダヤ主義は、イスラム嫌悪や反アラブ人種差別と同様に、しばしば高まります。10月7日の攻撃と今も続いているガザへの空爆と侵略における途方もない暴力は壊滅的であり、世界中のユダヤ人及びパレスチナ人のコミュニティに痛みと恐怖を生み出しています。私たちは、すべての人に、どこに住んでいようと安全だと感じる権利があり、また人種差別、反ユダヤ主義、イスラム嫌悪への対処が優先事項でなければならないことを改めて表明します。

 10月7日に何が起こったのかを理解しようとするとき、ユダヤ人コミュニティの多くの人々がホロコーストやその前のポグロムを思い起こすのは理解できます ― 虐殺と、その後に出てきた映像は、つい最近のユダヤ人の歴史に突き動かされて、ジェノサイド的な反ユダヤ主義についての根深い集団的記憶を呼び覚まします。

 しかし、ホロコーストの記憶に訴えることは、ユダヤ人が今日直面している反ユダヤ主義についての私たちの理解を曖昧にし、イスラエル・パレスチナにおける暴力の原因を危険なまでに誤って伝えるものです。ナチスによるジェノサイドは、国家とその市民社会がごく少数の人々を攻撃し、ついには大陸全体における大量虐殺にまでエスカレートしたというものでした。実際、イスラエル・パレスチナで起きつつある危機をナチズムやホロコーストと比較することは、とりわけ政治指導者やその他の影響力のある人々によって行われる場合、知的にも道徳的にも誤っています。感情が高ぶっている時こそ、政治指導者には冷静に行動し、苦悩と分断の炎を煽らないようにする責任があります。そして、学者である私たちには、私たちの職業の知的誠実さを維持し、世界中の人々がいま起きていることを理解できるよう支援する義務があります。

 イスラエルの指導者たちやその他の人々は、ホロコーストという枠組みを利用してイスラエルによるガザへの集団懲罰を野蛮に立ち向かう文明のための戦いとして描くことで、パレスチナ人に関する人種差別的な言説を助長しています。このレトリックは、いま起きている危機を、それが生じた背景から切り離そうとするものです。75年間に及ぶ強制移住、56年に渡る占領、そして16年間ものガザの封鎖が、政治的解決でしか止めることのできない暴力の連鎖を生み出したのです。イスラエル・パレスチナの問題を軍事的に解決することはできません。「悪」は力によって打倒しなければならないというホロコーストの物語を展開することは、既にあまりにも長く続いている抑圧的な状況を永続させるだけです。

 ハマスの行動の責任をパレスチナ人全体に負わせながら「ハマスは新たなナチスである」と主張することは、パレスチナ人の権利を擁護する人々には強固な反ユダヤ的動機があるのだとレッテルを貼るものです。それはまた、国際的な人権や法の遵守に逆らってユダヤ人の保護を位置づけ、現在のガザへの襲撃は必要なことなのだと示唆するものです。そして、「パレスチナに自由を」と叫ぶデモ参加者を排除するためにホロコーストを引き合いに出すことは、パレスチナ人の人権擁護に対する弾圧を煽り、反ユダヤ主義とイスラエル批判の混同を助長することになります。

 このような不安の高まりの中で、反ユダヤ主義を適切に特定しそれと闘うためには、反ユダヤ主義とは何かを明確にしておく必要があります。また、ガザとヨルダン川西岸で起きていることに取り組み、対応していくには、明晰な思考も必要です。そして、反ユダヤ主義の復活やガザでの殺戮の拡大、ヨルダン川西岸での追放のエスカレートといった同時進行している現実に率直に対処し、公の場での議論に参加する必要があります。

 私たちは、安易に(ハマスと)ナチスドイツとの比較を持ち出す人々には、イスラエルの政治指導者たちが何を言っているかよく聞いてほしいと思います。ベンヤミン・ネタニヤフ首相はイスラエル議会で「これは光の子らと闇の子らの闘いだ」と語りました(同じ言い回しを使った彼の事務所からのツイートは後に削除されました)。ヨアヴ・ギャラント国防相は「我々は人間動物(human animals)と戦っているのであり、だから相手に応じた行動をとるのだ」と宣言しました。このような発言は、「ガザに無辜のパレスチナ人などいない」という、広く蔓延しており頻繁に持ち出される主張とともに、確かに歴史上の集団暴力を思い起こさせるものです。しかし、こうした記憶は、大規模な殺戮を続けさせるためではなく、それをやめさせるために使われるべきです。

 学者として、私たちには判断力と気配りをもって自分の言葉と専門知識を使う責任があります。さらなる不和を引き起こす可能性のある扇動的な言葉をできるだけ抑え、さらなる命の損失を防ぐために発言し行動しなければなりません。だから、過去を想起する際には、現在を正しく照らし出し、それを歪めないやり方で行わなければならないのです。これはパレスチナとイスラエルに平和と正義を確立するために必要となる基礎なのです。だからこそ、私たちは著名人たちやメディアに、この種の比較をやめるよう強く求めているのです。

 

Karyn Ball
アルバータ大学教授(英語および映画研究)

Omer Bartov
ブラウン大学教授( ホロコーストおよび大量虐殺研究)

Christopher R. Browning
UNCチャペルヒル名誉教授(歴史学)

Jane Caplan
オックスフォード大学名誉教授(近代ヨーロッパ史)

Alon Confino
マサチューセッツ大学アマースト校教授(歴史およびユダヤ研究)

Debórah Dwork
ニューヨーク市立大学大学院 ホロコースト、大量虐殺、および人道に対する犯罪研究センター所長

David Feldman
ロンドン大学バークベック反ユダヤ主義研究所所長

Amos Goldberg
エルサレム・ヘブライ大学教授(ホロコースト研究)

Atina Grossmann
ニューヨーク・クーパー・ユニオン教授(歴史学)

John-Paul Himka
アルバータ大学名誉教授

Marianne Hirsch
コロンビア大学名誉教授(比較文学およびジェンダー研究)

A. Dirk Moses
ニューヨーク市立大学教授(国際関係)

Michael Rothberg
カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授(英語、比較文学、ホロコースト研究)

Raz Segal
ストックトン大学准教授(ホロコーストおよび大量虐殺研究)

Stefanie Schüler-Springorum
ベルリン工科大学反ユダヤ主義研究センター長

Barry Trachtenberg
ウェイクフォレスト大学ユダヤ史学長