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疑問氷解 なぜ財務省は消費税を上げたがるのか

 

財務省のパペットである野田首相が、今年も年頭から前のめりに消費税増税をぶち上げている。

財務省はどうしても消費税を上げたいらしい。

 

しかし、ここで大きな疑問がある。

財務省の悲願は危機的状態にある(と財務省が主張する)財政赤字の削減であるはずだ。

しかし、不況下の増税で財政再建をしようとするのは、土台無理な話だ。

 

今のような経済状況で税金、それももっぱら一般消費者に負担を強いる消費税を上げれば、消費が手控えられて景気は更に悪化し、税収は逆に減る。その上消費税を価格に転嫁できない中小零細企業の倒産が増え、失業率も上がる。悪循環である。

実際、バブル崩壊以来の日本経済の歴史は、増税・緊縮財政→不況深刻化→税収減・財政悪化の繰り返しだった。

一例として、村山政権下で徐々に進みつつあった経済回復を台無しにし、今に続くデフレ不況に陥れた、1997年の橋本改革を見てみよう。

 

紺屋典子 『平成経済20年史』:

橋本改革

 

 さて、住専処理であらかた片がつくはずだった不良債権処理、バブル破綻の処理が、さらに10年にわたる年月を必要とすることになったのは、なぜか。


 最初の障害は、「橋本改革」である。改革をめざした橋本政権は、経済が必要とする政策を行わなかっただけではなく、逆に、経済を悪化させるような政策を行った。「細川改革」も失敗だったが、「橋本改革」は、経済に大きな痛手を与えて、デフレ経済へと突入させ、金融危機を引き起こす事態を招くことになった。

 

財政危機宣言と財政構造改革

 

 橋本改革の最大の失敗は、「財政構造改革」である。名前は構造改革だが、中身は単なる「緊縮財政」、歳出の削減である。日本経済や国民生活のニーズに合わせて、歳出の構造を変えるという意味での、財政構造改革ではなかった。


 たしかに財政は赤字だ。ムダも多い。ムダの解消は立派な財政構造改革だとの見方もあろう。しかし、財政のどこにどんなムダがあるかの分析も、国民のために優先すべきは何かの議論も、行われなかった。


 公共事業と社会保障を大幅に削減、消費税の増税、特別減税の廃止など、かなり強烈な緊縮財政を行った。まだ介助が必要な病み上がりの病人に、健康体でも応えるような重い荷物を背負わせたのである。


 消費税の増税で5兆円、特別減税の廃止で2兆円、いきなり7兆円の増税である。医療保険が削減され、サラリーマンの自己負担が1割から2割にアップ、薬剤費に一部自己負担を導入した。2兆円の社会保障費を国民負担に転嫁したのである。計9兆円の国民負担増である。公共事業費の4兆円削減と合わせれば、13兆円のマイナスの景気対策が打たれたことになる。


 病気がぶり返して、以前よりも重くなったとしても当然だったのである。日本経済は、まさしく逆噴射をかけられて、一気にデフレ経済と金融危機へ向かって落下し始めた。


 問題は、こうした誤った政策をとらせる原因となった「財政危機」が、ほとんど嘘と言っても良いほど、きわめて誇大に喧伝されており、実際には、緊急でも深刻でもなかったことである。橋本政権は、「財政危機」を大げさに演出する大蔵省の情報戦略にのって、最もとってはならない政策を実行してしまったのである。その結果、橋本首相は、緊縮財政で大恐慌をひきおこした米国のフーバー大統領になぞらえられることになる。

 

橋本元首相は、財務官僚の言いなりになったことを亡くなる間際まで悔いていたという。

 

橋本氏は要するに官僚に騙されたわけだが、では当の財務官僚たちはどう考えていたのか?

ど素人じゃあるまいし、こういう結果になることは分かっていたはずだ。

いや、仮に彼らがそんなことも分からないほど無能だったとしても、何度も失敗を繰り返した結果、少なくとも今は学習しているはずだ。それなのに、また同じ過ちを繰り返そうとするのはなぜなのか。

 

実際、紺屋氏も次のように疑問を呈している。

 大蔵省一家の、この財政再建にかける熱意、頭脳的な伏線の配置、用意周到な目配りには心底頭が下がる思いがする。しかし、どうせなら、その熱意と頭脳と目配りを、財政再建だけでなく、日本経済再生、国民生活の再建にも向けてほしい、と思わずにはいられない。


 それにしても、これほど優秀な方たちが、不況下の増税・歳出削減が、財政悪化の原因だということに、なぜ気がつかないのだろう。あるエコノミスト仲間は、気がついているが無視しているだけ、と論評したが……。

 

この大きな疑問が、自分自身が財務官僚だった嘉悦大学の高橋洋一教授のおかげで氷解した。

 

高橋清隆 『「増税できれば税収減ってもいい」が財務省、高橋洋一氏が暴露』

 高橋氏は野田政権を「増税一直線内閣」と断定。「財務省内の増税好き官僚は、デフレ好きで円高好きが普通だ」と分析した。景気が低迷している限り、税率引き上げの口実がつくれるからだ。

 

 一般国民には本末転倒に映る。増税すれば景気が低迷し、税収が減るからだ。しかし、財務官僚の最大の関心事は権限の拡大だという。最も好むのは消費税だが、この標準税率を上げれば例外措置が出てくる。どの業界に軽減税率の恩典を与えるかどうかは財務省の胸三寸というわけである。

 

 「この方式では例外扱いを受けたい産業界が陳情に来て業界への権限が強まるし、他省庁も裁量が増えて喜ぶ。だから財務官僚は、増税できれば税収なんか減ってもいいと思っている」と高橋氏は明かす。

 

なるほど、そういうことだったのか。

財務省は財政を健全化したがっているということ自体が思い込み、財務官僚たちがそう思わせようと宣伝してきた結果に過ぎなかったのだ。

彼らがやりたいのは自らの権限拡大だけ。もちろんそこには天下り先の増加など様々な旨みが伴う。

こんな利権亡者たちはまさに有害無益。こんな連中が一日そこにいればいるだけ経済と財政を損なう。とっととクビにして財務省など解体すべきだ。


平成経済20年史 (幻冬舎新書 こ 9-1)

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