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日中平和友好条約締結時にも尖閣棚上げは合意されている。

 

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 尖閣「棚上げ合意」は事実。日本政府はいい加減に詭弁を弄するのをやめよ。

 日中会談記録は本当に改竄されていた

 

上記記事で、私は1972年9月の日中国交正常化交渉の際、田中角栄首相と周恩来総理との間で尖閣問題の棚上げについて合意していること、おまけに当時の外務省アジア局中国課(橋本恕課長)が会談記録を改竄し、周恩来総理の「棚上げ」発言への田中首相の応答をカットしていたことを指摘した。

 

しかし、日中首脳間で尖閣問題棚上げへの合意がなされたのはこの時だけではない。1978年8月の、日中平和友好条約締結に向けた園田外相トウ小平副主席との会談でも、同様な合意がなされている。

 

孫崎享 『日本の国境問題』 P.77-79:

・当時の外務大臣園田直の説明(園田直 『世界 日本 愛』 三政経研究会)

 

「トウ副主席との会談で一番苦労したのは尖閣諸島の領有権の問題を何時のタイミングで言い出すかという一点だけでした。尖閣諸島については今度の話合いの中では持ち出すべきでないというのが、私の基本的な考えでした。

 何故かと言えば、尖閣諸島は昔から日本の領土で、すでに実行支配を行っている。それをあえて日本のものだと言えば、中国も体面上領有権を主張せざるをえない。

 勇を鼓して尖閣諸島は古来我が国のものでこの前のような“偶発事故”を起こしてもらっては困るとこう言ったんだ。

 トウ小平はにこにこ笑って“この前のは偶発事故だ。もう絶対やらん”とね。もう私はその時天に祈るような気持ちで気が気じゃない。万が一にもトウ小平の口から“日本のものだ”とか“中国のもんだ”なんて言葉が飛び出せばおしまいですからね。

 そしたら“今までどおり二○年でも三○年でも放っておけ”と言う。言葉を返せば、日本が実行支配しているのだから、そのままにしておけばいいというのです。でそれを淡々と言うからもう堪りかねてトウさんの両肩をグッと押さえて“閣下、もうそれ以上いわんで下さい”人が見ていなければトウさんに“有り難う”と言いたいところでした」

 

園田外務大臣は「尖閣諸島については今度の話合いの中では持ち出すべきでないというのが、私の基本的な考えでした」ということは、実質日本は「棚上げ」で会談に臨んだと言うことである。この会談ではトウ小平は「棚上げ」を提示した。園田外相は「この問題にひとこと言わなければならない。偶発事故が起こらないように希望している」とだけ述べている。このことは、基本的にトウ小平の「棚上げ」を認めているから、そういう発言になる。棚上げという言葉の合意は別として「これ(領有権問題)に触れない」という暗黙の合意が存在している。

 

さらに、翌1979年5月30日の衆院外務委員会において、園田外相は次のような答弁を行っている。

○園田国務大臣 …少し長くなりますけれども、尖閣列島は御承知のとおりに中国とわが方は立場が違っております。わが方は歴史的、伝統的に日本固有の領土である、こういうことで、これは係争の事件ではない、こういう態度、中国の方は、いやそれは歴史的に見て中国の領土である、日本と中国の間の係争中の問題であるという差があるわけであります。そこで北京の友好条約締結のときに、トウ小平副主席と私との間で、私の方から話をしまして、尖閣列島に対するわが国の主張、立場を申し述べ、この前の漁船のような事件があっては困る、こういうことを言ったところ、向こうからは私の主張に反論なしに、この前のような事件は起こさない、何十年でもいまのままの状態でよろしい、こういうことで終わったわけです。

 その後中国のトウ小平副主席が日本に来られたときに、共同会見のときにたな上げだという言葉を初めて使われ、わが方は依然としてわが方の領土であることは明白であるといういきさつがあるわけでありますけれども、少なくとも日本と中国の友好関係の現状からしまして、この前のような、漁船団のような事件は起こさない、二十年でも三十年でもいまのままでよろしいということは、わが方から言えば現在有効支配しているわけでありますから、ことさらに中国を刺激するような行動、これ見よがしに有効支配を誇示するようなことをやれば、やはり中国は国でありますから、自分の国であると言っているわけでありますから、これに対して異論を出さざるを得ないであろう。そうでない状態が続くことを私は念願しております。

 したがって尖閣列島についてはわが国の領土ではあるけれども、こういういきさつがあるから刺激しないように、付近の漁民または住民の避難のため、安全のためにやむを得ざるものをつくるならば構わぬけれども、やれ灯台をつくるとか何をつくるとか、これ見よがしに、これは日本のものだ、これでも中国は文句を言わぬか、これでも文句はないかというような態度は慎むべきであるということを終始一貫議論をしてきた経緯があるわけであります。

○園田国務大臣 …これは単に日本と中国との関係ということばかりでなく、日本の国益ということを考えた場合に、じっとしていまの状態を続けていった方が国益なのか、あるいはここに問題をいろいろ起こした方が国益なのか。私は、じっとして、トウ小平副主席が言われた、この前の漁船団のような事件はしない、二十年、三十年、いまのままでもいいじゃないかというような状態で通すことが日本独自の利益からいってもありがたいことではないかと考えることだけで、あとの答弁はお許しを願いたいと存じます。

○園田国務大臣 ただいま申し上げました申し入れに対してわが方がどのような態度をとるか、これは非常に微妙な問題であると考えております。理屈どおりにわが方の領土であるということを私が言った方がいいのか。うかつにいたしますと、理屈を抜きにしてわが方も友好関係はさらに深めていきたいと思っているし、中国もまたその考えは間違いないところでありますけれども、一つの問題をめぐって両方がうかつなことをやりますと、お互いに国としての面目があるわけでありますから、それが抜き差しならぬようなことになっては大変だ、こう考えておりますので、これに対する対応の処置は慎重に検討したいと思いますので、いましばらくお許しを願いたいと思います。

○園田国務大臣 この際原則的な理屈は言わない方が得であると考えておりますが、私は有効支配は現在でも日本の国は十分やっておる、こういう解釈でありまして、これ以上有効支配を誇示することは、実力で来いと言わぬばかりのことでありますから、そのようなことは日本の国益のためにもやるべきでない、こういう考え方でありまして、井上先生と同じ意見であると考えております。

 

園田外相が言っているのは、日本は現に尖閣実効支配しているのだから、声高に「固有の領土」を主張したり、構造物を作ったりして中国を刺激するべきではない、せっかくトウ小平尖閣は今のままの状態でいいと言ってくれているのだから、今後も波風立てずにやっていくことが国益にかなう、ということである。これは要するに、棚上げにしていこう、ということにほかならない。

 

1990年、日本の右翼団体尖閣に上陸して「灯台」を設置した際、中国政府は駐中国日本大使を呼び出して厳重抗議した

[文書名] 釣魚島、国連平和協力法案についての斉懐遠外交部副部長の橋本駐中国大使に対する談話

[場所] 北京

[年月日] 1990年10月27日

[全文]

 斉懐遠中国外交部副部長は十月二十七日午後、橋本駐中国日本大使を緊急に招いて会見し、釣魚島問題について厳正な交渉を行うとともに、日本政府が海外に派兵しようとしている問題について中国政府の立場を次のように伝えた。

  釣魚島問題について

 釣魚島は昔から中国の領土であり、中国はそれに対し争う余地のない主権を持っている。日本がこの問題について見解を異にしていることを、われわれも知っている。このため、中日国交正常化交渉のとき、われわれ双方は問題を「後日に棚上げ」することに同意した。中国側は、われわれ双方がそのときこの問題について到達した了解事項は非常に重要なもので、両国の友好協力関係の発展に有利であると認めている。

 残念ながら、日本政府は双方の了解事項に違反し、こともあろうに日本の一部の右翼団体が設置した標識灯に無関心の態度をとり、それを容認する用意のあることを明らかにし、甚だしきは艦艇を釣魚島海域に繰り出して中国台湾省の漁民を追い払った。中国政府は、日本政府が双方のこれまでに達成した了解事項を守り、釣魚島とその海域でとっている一方的な行動を直ちに停止するよう強く要求する。

 中国政府は、双方が主権を棚上げして、共同で釣魚島海域の資源を開発し、同海域の漁業資源を開放するなどの問題についてできるだけ早く交渉するよう提案する。

 

この談話で中国側は、日中国交正常化交渉の際に双方が尖閣問題を「後日に棚上げ」することに同意した、と述べている。もし、現在の日本政府が主張するように日本は棚上げに同意していないというのなら、この中国側主張に対して、はっきり「それは違う」と言わなければならないはずである。

橋本大使は中国側に反論したのだろうか?

このとき橋本が何と言ったかは不明である。(少なくとも、公表されていない。)しかし、彼にはそんな反論ができるわけがないのだ。なぜなら、このとき呼び出された橋本大使とは、1972年の日中国交正常化交渉当時外務省アジア局中国課長であり、田中・周会談に同席して、彼らが棚上げに合意するのをその耳で聞いていた、あの橋本恕なのだから。


日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 (ちくま新書 905)

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