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沖縄は切り刻んで好きなように利用できるというヤマトゥの本音

石垣・宮古は東京都に所属させればいい?

自称「国際問題アナリスト」の藤井厳喜が、ニッポン放送のラジオ番組で、一応冗談だと断りつつ、先島諸島(宮古・八重山)を沖縄県から切り離して東京都に所属させたらどうか、という趣旨の発言をした。

沖縄タイムス(10/6)

「宮古・八重山は東京に編入を」 沖縄知事選を受け、ニッポン放送番組でコメンテーター

 5日朝に放送されたニッポン放送のラジオ番組「飯田浩司のOK! Cozy up!」で、9月30日に投開票された沖縄県知事選で玉城デニーさんが当選したことについて、コメンテーターが「沖縄本島は仕方がないので、本島以南の島は東京都に所属するようにしたらどうかと思う。東京都石垣市、宮古島にして、米軍基地もそちらの方に移動してもらってしっかり守る」などと発言した。
(略)
 番組では、コメンテーターで国際問題アナリストの藤井厳喜氏が「冗談」とした上で「小笠原諸島だって東京都。東京都石垣市、宮古島にして、南西諸島も守り固める。自衛隊ももとよりですね。沖縄のことは沖縄の人に任せればいいのではないですか」とした。

藤井は冗談だと言っているが、こういう冗談とか酒の上でのヨタ話みたいなものにこそ人間の本音が出るものだ。藤井個人というより本土の日本人、とりわけ権力に近い場にいる者たちの本音が、沖縄など、その時々の都合に合わせて切り刻んで帰属先を変えても構わない、というものなのだろう。

実際、日本政府はそのようなものとして沖縄を扱ってきた。

宮古・八重山を中国に売ろうとした明治政府

これは、1879(明治12)年の琉球処分により琉球王国が潰され、沖縄が完全に日本の一部として組み込まれた、そのわずか1年後のことである。[1]

 一つは、琉球処分の翌年に表面化した分島問題である。これは清国に対して、西欧なみの最恵国条項と引き替えに、宮古・八重山をゆずる案であった清国側の不承認で、結局立ち消えとなったが、中央政府にとって、日本の国益のためには、辺境沖縄は、都合しだいで切り捨てることのできるトカゲの尻尾のごとき存在であることを証明した事件であった。これが明治政府の沖縄に対する基本的思想であったこの悪しき思想は、潜流して戦後のサンフランシスコ条約にまで流れつながっていく。

「西欧なみの最恵国条項」とは、日本人が清国内で事業を行う際には欧米人と同様の特権を認めよということだ。要するに、日本の資本家が得る利益の代価として、宮古・八重山諸島をその住民ごと清国に売り払うという提案である。[2]

 清との交渉にあたった天津領事の竹添進一郎が中国側の交渉責任者である李鴻章に対して行った次の提案は、問題のありかを浮き彫りにするものである。つまり、「中国の大臣におかれましては、もしも大局にたってお考えであれば、我が日本の商民が中国の内地で貿易を行う際に、一律西洋人と同じ扱いをすべきであります。また、そうなれば、我が国も琉球の宮古島と八重山島を中国の領土と定めて、両国の国境線を引いても構いません」と(羽根次郎「尖閣問題に内在する法理的矛盾――「固有の領土」論の克服のために」『世界』二◯一二年二月号)。

もちろん、この身売り交渉は当の沖縄住民には一言の相談もなく進められた。[3]

 もちろんこのような経緯を経て、日本側提案の分島改約案で双方の意見が一致し、効力発生の期限まできめられたことは当の宮古・八重山の住民はもちろん沖縄の一般住民はだれ一人知るよしもなかった。「日清政府間にこういう問題がおこり、交渉が行なわれているということは、沖縄側では尚泰(注:最後の琉球国王)と極めて少数の親近者がおぼろげに感知して希望的観測をなすの外、廃藩置県の現実を見ている一般住民はもちろん、当の宮古・八重山島民のだれ一人自分らに近づきつつある運命について何一つ知らなかった。また改約によって利益を得るはずのものは、そのころの沖縄人はだれ一人もいなかった」(前掲書)ということだからあたかも第二次大戦後の昭和二十六年、日本の独立と交換に結ばれた対日講和条約によって沖縄全住民の意思と無関係に沖縄をアメリカに「身売り」させた日本政府のあり方と軌を同じくするものであり、歴史の皮肉を感じさせるところだ。

仮に、この日本側提案を清国が飲んでいたら、今ごろ宮古・八重山は台湾の一部になっていただろう。日本政府の沖縄に対する態度は、明治以来、徹頭徹尾、冷淡・蔑視・道具扱いで首尾一貫している。

[1] 外間守善 『沖縄の歴史と文化』 中公文庫 1986年 P.83-84
[2] 豊下楢彦 『尖閣問題とは何か』 岩波現代文庫 2012年 P.143-144
[3] 新川明 『新南島風土記』 朝日文庫 1992年 P.207-208

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