前回記事↑で取り上げた事例は奈良県警桜井署でのものだったが、今度は警視庁新宿署での話だ。2017年、手足や腰を拘束具できつく締め上げられた状態で数時間放置された被疑者(ネパール人アルジュンさん)が、検察での取調べ中に拘束具を外された直後に意識を失い、死亡した。
これも、長時間の圧迫により壊死した筋肉から放出されたカリウム等が引き起こすクラッシュ症候群(挫滅症候群)による死だろう。
この事件については、ジャーナリストの小島寛明氏が詳細にレポートされているので引用する。
2017年3月、ネパール人のシン・アルジュン・バハドゥールさん(当時39)が東京地方検察庁の取り調べ中に意識を失い、病院搬送後に死亡した事件で、当日の朝、警察官に取り押さえられ、特殊な拘束具で手足を拘束された経緯の詳細が明らかになった。
関係者から、警視庁新宿警察署の留置施設内のビデオの映像を入手した。
アルジュンさんの妻は、国と東京都を相手に約6935万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴している。
留置施設の映像は、裁判の手続きの中で東京都側が裁判所に提出した。
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アルジュンさんは取り調べ中に拘束具を外された直後、急に意識を失ったという。原告側の鑑定結果によれば、身体を強く拘束すると筋肉が壊死を起こし、身体には毒となるカリウムなどの成分が生じる。不用意に拘束を解いたため、毒となる成分が一気に全身に回って死亡したと指摘。
(略)
その後、留置課員らは非常ベルを鳴らし、アルジュンさんを保護室に連行した。連行の際には、「反抗」と周囲に伝えていると考えられる署員の声がビデオには記録されていた。
(略)
保護室に連行されたアルジュンさんは、最も多い時点で16人ほどの新宿署員らに取り押さえられ、拘束具を装着された。
拘束後は、保護室で1人になったアルジュンさんが、何度も体の向きを変える様子が記録されている。
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原告側は、検察庁内で拘束具を取り外す前に医師に相談するなど、検察官らが必要な措置を取っていれば、アルジュンさんの死亡は回避できたと主張している。
映像には「ちゃんと入ってろ!」といった警官の怒号や、押さえ込まれたアルジュンさんの苦しげな呻き声、狭い保護房の中で16人もの警官が床に転がされたアルジュンさんを取り囲む一種異様な光景などが記録されている。
そしてこの事件も、検察は不起訴処分としてしまった。(その後遺族が告訴)
警察が実施した司法解剖では、死因は外から力が加わったことによる多発性外傷とされた。警察側は、新宿署内で起きた事件として捜査し、アルジュンさんの死亡から約1年後の2018年2月24日に被疑者不詳のまま、送検した。検察は、同年3月14日に不起訴処分とした。
これも、アルジュンさんを拘束具で締め上げた警官、長時間そのままの状態で放置した新宿署の管理責任者、不用意に拘束を解いた検察官の刑事責任を問うべき過失致死案件だろう。しかし、やはり検察は身内を起訴しない。
調べれば同じようなケースがまだまだ出てくるのではないか。
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