読む・考える・書く

マスコミやネットにあふれる偏向情報に流されないためのオルタナティブな情報を届けます。

立憲民主党は辻元清美を守れ!

辻元清美衆議院議員(立憲民主党国会対策委員長)が、政治資金規正法で禁止されている外国人からの政治献金を受けていたというので、大騒ぎになっている。

しかしこの件、たかだか一万円程度である上、「外国籍の人は寄付できない」と明記された振込用紙を使って送金されたのだから、あくまで寄付した側のミスであって辻元氏側に瑕疵はない。問題が判明したら返金して終わり。ただそれだけの話だ。

石破幹事長、下村文科相、宮沢経産相など自民党議員の同様な事例(金額ははるかに大きい)でも単に返金して済ませており、辻元氏の場合だけ大問題であるかのように騒ぐのはおかしい。それに、この手のミスを「事前に」防ごうとすれば、献金しようとするすべての人に国籍を証明する公的書類の提出を義務付けるしかないだろう。重大なプライバシーの侵害であり、そんなことは許されない。

だいたい、「外国人」と言っても、これは何世代も日本で暮らしている在日コリアンからの献金なのだ。この国で生まれ、生活を営み、税金を収め、この国で死んでいく人々に国籍も与えず、そして国籍がないことを理由に一切の政治的権利から排除する。そのこと自体が理不尽かつ不当だ。

立憲民主党は間違っても辻元氏に国会対策委員長を辞めさせたりしてはならない。辻元氏を守り、この機をとらえて在日コリアンに対する差別的取り扱いの是正を訴えていくべきだ。


【関連記事】

 

 

在日外国人 第三版――法の壁,心の溝 (岩波新書)

在日外国人 第三版――法の壁,心の溝 (岩波新書)

 

 

関空お土産没収事件が象徴する陰湿いじめ大国ニッポン

■ 事件(これはまぎれもなく「事件」である)の概要

6月28日、北朝鮮への修学旅行から帰国した神戸朝鮮高校の生徒たちが、関西空港の税関で、親戚や友人からもらったお土産を大量に没収されるという事件が発生した[1]。

 62人の生徒たちは2台の飛行機に分乗して帰ってきた。許校長は1便目の生徒らを引率。税関では全員のスーツケースや鞄が開けられ、生徒6人のお土産・民芸品などが押収された。
 2便目は20時半に関空へ到着する予定だったが運航が遅れ、23時過ぎに到着した。しかし、ここでも税関は全員のスーツケースを検査し、お土産や民芸品を大量に押収。生徒たちは声を上げたり涙を流して説明や抗議をしたが、頑なに放棄書へのサインを要求したという。税関から最後の生徒が出てきたのが0時半。飛行機が遅れただけでも心配なのに、お土産まで没収され泣きじゃくる我が子を見て、迎えに来ていた保護者は怒りを禁じえなかったという。

こういう事件があると、お約束のように「制裁してるから没収は当然」とか「朝鮮学校側の対応が悪いからだ」とかいう人たちが湧いてくるのだが、神戸以外の朝鮮高校の修学旅行では問題なくお土産を持ち帰れていたし、そもそも日本人は普通に北朝鮮から土産を持ち帰っているので、今回は明らかに異常事態である。

■ 土産物の没収に法的根拠はない

以下のツイートで資料屋(@sir43k)さんが説明されているように、今回の没収には法的根拠がない。税関が個人の土産物も含め北朝鮮からの貨物は一切持ち込み禁止だと言うのなら、それは法の範囲を超えた拡大解釈ということになる。

だいたい、土産物の持ち込みが本当に違法なら、淡々と没収すればいいだけだ。それをせず、泣いて懇願する生徒たちに無理矢理同意書への署名をさせたのは、法的根拠がないからこそだろう。同意書を取っておけば、後で問題になっても生徒たちが任意に放棄したのだと言えるからだ。

■ 在日への理不尽ないじめは日本政府の伝統的行動パターン

このような恣意的で理不尽な取り扱いは、戦後日本政府が首尾一貫して在日コリアンに対して取ってきた態度だと言っていい。(恣意的な態度が首尾一貫しているというのも変な話だが。)

日本政府はなぜこんなやり方をするのか。社会学者の福岡安則氏(埼玉大学名誉教授)が、次のような思考実験を試みたことがある[2]。

 よく、“在日韓国・朝鮮人にたいして、戦後の日本政府は、一貫して「同化」政策を取ってきた”と言われる。私自身も、ついつい、深く考えもせずに、“植民地支配下のみならず、戦後の在日韓国・朝鮮人にたいする政策も、「同化かさもなくば排除」と言われてきたように、一貫して「同化」を強いるものであった”と書いたりしてきた。
 だが、はたして、そのように言えるのだろうか。
(略)
 在日韓国・朝鮮人にたいして取りうる政策モデルとして、次の四つのものを考えてみる。
 第一は、〈人権の論理〉にもとづく政策。(略)
 第二は、〈同化の論理〉にもとづく政策。(略)
 第三は、〈排除の論理〉にもとづく政策。(略)
 第四が、〈抑圧の論理〉にもとづく政策。(略)
(略)
 さて、かりに「私」が、在日韓国・朝鮮人にたいする政策決定の権限をもっていたとする。「私」は、目的合理的な思考に長けた有能なテクノクラートであるとする。そして、それぞれの論理に立脚した場合、「私」ならどんな政策を展開したかを、考えてみる。ただし、以下の思考実験では、国際的。国内的政治情勢によるさまざまな制約は度外視しておく。

日本政府の在日政策が仮に〈人権の論理〉に基づくものなら、朝鮮植民地支配の結果として起きた強制連行・強制労働や日本軍性奴隷(従軍慰安婦)問題についての真摯な謝罪と賠償、在日への基本的人権の保障と民族教育への支援、当然の権利としての日本国籍と参政権の付与といったものになったはずだ。もちろん現実の在日政策はまったく異なる。

また、〈同化の論理〉に基づく政策なら、在日に日本社会にスムーズに「同化」してもらえるよう、希望者には日本国籍や参政権を与え、日本国籍を選択しなかった者にも、将来「帰化」しやすくする施策をとったはずである。しかし、これも現実とは異なる。

〈排除の論理〉に基づく政策なら、なにしろできるだけ速やかに出ていって欲しいのだから、韓国や北朝鮮に「帰国」しやすいよう、帰国希望者には資産の持ち出し制限を課さないなど、様々な便宜を図ったはずである。また、日本に在留し続ける者に対しても、将来子ども連れで帰ってもらえるよう、民族学校への財政援助など、朝鮮語に堪能になってもらうための施策を取ったはずだ。しかし、これも現実とは異なる。

結局、日本政府が現実に取ってきた在日政策は、これらのいずれでもない〈抑圧の論理〉に基づくものだったと結論するほかはない[3]。

 残るのは、〈抑圧の論理〉にもとづく政策の展開だ。
 戦後の日本政府が実際に取ってきた諸施策は、〈人権の論理〉にもとづく政策モデルとして記述したことすべての裏返しであった。在日韓国・朝鮮人には基本的人権を認めようとしない〈抑圧〉の政策であった。日本政府は、みずからの植民地支配政策によって生みだした在日韓国・朝鮮人という存在を、日本社会にとって“厄介な”存在として、単なる治安維持の“管理”対象としてのみ、見なしつづけてきたのだ。
 もちろん、先にも述べたように、日本政府は、部分的には〈同化の論理〉にもとづく施策や〈排除の論理〉にもとづく施策もおこなってきた。だが、それらは、あくまで〈抑圧の論理〉を基調としつつ、付随的もしくはご都合主義的に展開されてきたものにすぎない。
 日本政府が、在日韓国・朝鮮人の人権を尊重しようとする自発的な意図によって、積極的な処遇の改善をおこなったことは、一度もない、と言ってよいだろう。(略)
(略)
 在日韓国・朝鮮人にたいする処遇が、やっと、少しはまともになってきた。だが、これにしても、1980年代中葉における「指紋押捺拒否」の運動の高揚や、人権重視の国際世論の高まり、あるいは、韓国との外交問題上のかねあいを考慮してのもので、とうてい、日本政府の自発的な政策決定とはいいがたい。
 しかも、日本政府は、なお、公務員の一般職の採用にあたっては、明文化された法的根拠もないのに、“当然の法理”による“国籍条項”を固持しつづけ、在日外国人の積極的採用の動きをみせる地方自治体に足かせをはめつづけている。公立学校教員の採用でも、「教諭」としての採用を認めず、「常勤講師」というかたちで、日本人教員とのあいだの格差づけを押しつけているのだ。

戦後の日本政府は、そもそも朝鮮植民地支配という自らの過ちに、一度としてまともに向き合おうとしてこなかった。だから、その結果として日本に居住することになった在日コリアンを、過去の罪業の証拠を突きつけてくる都合の悪い存在として憎悪し、その存在を消し去ろうとするかのように抑圧し続けてきた。

関空お土産没収事件は、自らの過去に向き合えない日本のひ弱さが生んだ、卑劣な在日いじめの新たな一事例なのだ。

[1] 『総聯中央が関空税関当局の不当な押収に抗議する記者会見』 日刊イオ 2018/06/30
[2] 福岡安則 『在日韓国・朝鮮人 ― 若い世代のアイデンティティ』 中公新書 1993年 P.38-42
[3] 同 P.48-50

【関連記事】

 

在日韓国・朝鮮人―若い世代のアイデンティティ (中公新書)

在日韓国・朝鮮人―若い世代のアイデンティティ (中公新書)

 
在日外国人 第三版?法の壁,心の溝 (岩波新書)

在日外国人 第三版?法の壁,心の溝 (岩波新書)

 
鬼哭啾啾―「楽園」に帰還した私の家族

鬼哭啾啾―「楽園」に帰還した私の家族

 

高円寺阿波踊りから排除された「あっちの子」たち

先日、新聞を開くと、こんな広告が目に入ってきた。高円寺阿波踊り関連イベントのお知らせである。

阿波踊りといえばもちろん徳島県(阿波国)が本場だが、東京都杉並区の高円寺でも、毎夏盛大に阿波踊り大会が開催されている。1957年から続いている行事だという。

この広告を見て、思い出したことがある。

以下の文章は、今からおよそ50年前、当時小学校三年生だった女の子「せっちゃん」が、この高円寺阿波踊りで体験した出来事だ。[1]

おねだり
(略)
 小学校三年生のとき、高円寺商店街で阿波踊りがあった。町の大きなイベントだ。
 各町内会が連をつくり、色とりどりの着物で踊りを競い合う。
 母が働いていたマージャン屋の前がメインの通りで、そこを踊り子さんが通る。
 出たかったが、着物がないと出られない。出たいなぁ、と口に出して言った。
 当時、子どもの浴衣は千円ほどした。家では、十円二十円のことで父と母がケンカしている。
 欲しいとは思っても、夢のまた夢だった。
 ところが数日後、母はどこでどう工面したのか、九百八十円もする浴衣を買ってくれた。
 小躍りするほど嬉しかった。
 学校から帰るとすぐその浴衣を持って銭湯に行き、入り口の鏡の前で着ては、何度もポーズをとった。
 我ながらかわいいと思った。
 祭の当日、早くから浴衣を着て受付に行くと、町内のえらいおじさんから、「あんたはあっちの子だから」と追い払われた。
 「あっち」とは、「朝鮮人」ということだった。連にも入れてくれなければ、町内会が子どもに配るお菓子袋もくれなかった。
 みんなは私を見た。そして遠巻きになった。
 いづらくなって、裏通りに出た。
 祭りが終わったら帰ろう、と思ってふらふらしていたが、もう一時間くらいたったかなと思っても、五分くらいしか過ぎていなかった。居場所もなくて、とうとう、店に帰った。
 すると母は、マージャン屋の二階の窓から体を乗り出して、娘がどこで踊っているのかと一生懸命探していた。
 母の後ろに立った。
 「あらっ、あんたどうしてここにいるの?」
 とっさに、「あんなのガキの遊びだから帰ってきた」と答えた。
 「朝鮮人だから入れてもらえなかった」とは、どんなことがあっても言うまいと決めていた。近所の人から朝鮮人だといって罵倒され、階段の踊り場で泣いていた母の姿を思い出していた。
 貧乏からは抜け出すこともできるが、「朝鮮人」は体から剥ぎ取ることができない。
 母は、「まったく、この子は!」といって私を殴った。
 母からすれば、あんな苦しい中から工面して浴衣を買ってやったのだ。たまらなかっただろう。
 以来、母にも、おねだりということは一切しなくなった。
 いや、そういう言葉は、私の頭の中には二度と生まれなかった。


今はさすがにこれほど露骨な差別は行われていないだろうが、この当時と比べて、日本社会は果たしてどの程度進歩したと言えるだろうか?

この「せっちゃん」とは、日本名「新山節子」の在日三世、辛淑玉さんのことだ。

その辛淑玉さんはいま、ドイツに「事実上の亡命」を余儀なくされている。

東京新聞(3/14):

「ニュース女子」問題で辛淑玉さん
ヘイト標的 拠点ドイツに

 沖縄県の米軍基地反対運動を扱った東京MXテレビの番組「ニュース女子」で、名誉を毅損されたと認められた団体代表の辛淑玉さん(59)が昨年11月からドイツに生活拠点を移した。本紙の取材に対し、昨年1月に番組が放送されてから民族差別に基づくヘイトクライム(憎悪犯罪)の標的にされかねない不安が高まったとして、「事実上の亡命です」と明かした。(辻渕智之)

 辛さんによると、番組放送後、注文していない物が自宅に届いた。近所で見知らぬ人が親指を下に向け批判するポーズをしたり、罵声を浴びたりもした。これまでも仕事先などへの脅迫や嫌がらせはあったが「私の身近な生活圏に踏込んできた」という。(略)
(略)
 最近は「スリーパーセル」(潜伏工作員)との中傷もある。先月、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部が銃撃されたことに触れ、「私が狙われてもおかしくなかった。国のリーダーは北朝鮮と敵対しても、『日本の中にいる朝鮮人たちは一緒に生きていく隣人です』と宣言してほしい」と訴える。


辛淑玉さんは、日米両政府から差別・迫害されるマイノリティ(沖縄)に連帯し、その自己解放運動を支援してきた。そんなマイノリティ(在日コリアン)女性の自宅を特定し、嫌がらせを繰り返して、ついには国内で生活できなくなるまで追い詰める。これが「愛国」だの「美しい国」だのを標榜している連中の正体なのだ。

一刻も早く、そんな不良日本人どもからこの国を取り返さなければならない。それは、間違いなく、この国のマジョリティである我々の責務である。

[1] 辛淑玉 『せっちゃんのごちそう』 NHK出版 2006年 P.64-65

【関連記事】

 

せっちゃんのごちそう

せっちゃんのごちそう

 
鬼哭啾啾―「楽園」に帰還した私の家族

鬼哭啾啾―「楽園」に帰還した私の家族

 
拉致と日本人

拉致と日本人

 

BPO放送人権委、『ニュース女子』による辛淑玉氏への人権侵害(名誉毀損)を認定!

昨年1月2日に放送された『ニュース女子』「沖縄基地問題特集」については、既にBPO(放送倫理・番組向上機構)放送倫理検証委員会が「重大な放送倫理違反があった」と認定している[1]。そして今度は、同機構の放送人権委員会が、同番組が「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉氏に対する人権侵害(名誉毀損)をも行っていたことを認定した[2]。

BPOによる認定の根拠と論理

さっそく委員会決定の全文を読んでみたが、同委員会は次のような根拠と論理に基いて名誉毀損を認定している。以下、同決定の内容を一部流用・要約して説明する。

(1)申立人(辛淑玉氏)の名誉を毀損する事実の摘示があったか

(注:名誉毀損事案における「事実の摘示」とは、ある事柄が「事実であるとして示されたこと」を意味しており、示された内容自体の真実性とは関係がない。)

まず前提として、同番組では基地反対運動を、出演者のコメント、テロップ、ナレーションなどさまざまな形で、「過激デモで危険」、「警察でも手に負えない」、「犯罪行為を繰り返す」「テロリストと言っても全然大げさじゃない」などと表現しており、これは基地反対運動を「過激で犯罪行為を繰り返す」ものとして描いたものだと言える。

続いて、そのように描写した基地反対運動について、「誰が何のために反対運動をしているのか」、「煽動する黒幕の正体は?」を話題にし、「『のりこえねっと』“辛淑玉„は何者?」、「反原発、反ヘイトスピーチ、基地建設反対など…職業的に行っている!?」というテロップや、「職業的にずーっとやってきて」(須田慎一郎)、「スキマ産業です、いわゆるね。何でもいいんです、盛り上がれば」(上念司)、「『のりこえねっと』というところに書いてあって、お茶の水でやっているわけですよね」(井上和彦)、「『のりこえねっと』の辛さんの名前が書かれたビラがあったじゃないですか」(須田)といった発言によって、基地反対運動と辛淑玉氏を結びつけている。

一般視聴者は(TOKYO MX側主張とは異なり)場面ごとの発言やテロップを細切れに理解するのではなく、複数の場面の内容からなる一連の流れを番組のメッセージとして受け取るので、たとえ「黒幕」テロップの部分に辛淑玉氏の名前がなくても、氏を念頭に置いて「黒幕の正体」が論じられているものとして受け止める。

従って、同番組により、「申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動を職業的にやってきた人物でその『黒幕』である」との事実摘示がなされたと言える。(摘示事実A)

また、反対運動の「職業的」「黒幕」として辛淑玉氏に言及した上で、「5万円日当出すなんて。これは誰が出しているの」(長谷川幸洋)という質問があり、この質問に対して井上が「『のりこえねっと』というところに書いてあって…」と、これを辛淑玉氏に結びつけ、須田が「辛さんっていうのは在日韓国・朝鮮人の差別ということに関して闘ってきた中ではカリスマなんです。ピカイチなんですよ。お金がガンガンガンガン集まってくる」と応えている。これらの発言や「反対運動の日当は誰が出している?」「東京・お茶の水で集合、出発?」といったテロップによって、金銭で動機付けられた参加者を辛淑玉氏が日当を払って反対運動に動員している、という印象づけがなされている。

このような出演者の発言のやりとりやテロップが一連の流れとして視聴者にメッセージとして伝わることから、同番組により、「申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動の参加者に5万円の日当を出している」との事実摘示がなされたと言える。(摘示事実B)

(2)摘示事実によって申立人の社会的評価は低下したか

摘示事実Aについて: そもそも、同番組では基地反対運動を「過激で犯罪行為を繰り返すもの」として描いているのだから、そのような運動に辛淑玉氏が「職業的に」(金銭目的で)関わっているという表現を受け取った一般視聴者は、氏の基地反対運動との関わり方や姿勢に疑問を持ち、氏に対する非難の感情を抱くことになるから、氏の社会的評価を低下させる。

摘示事実Bについて: 加えて、辛淑玉氏が、「過激で犯罪行為を繰り返すもの」として描かれた基地反対運動の「黒幕」であり、日当を払って金銭目的の参加者を集めているとした同番組の表現は、当然基地反対運動に対する氏の関わり方に否定的な評価を生じさせることになり、氏の社会的評価を低下させる。

よって、摘示事実AおよびBは、いずれも辛淑玉氏の社会的評価を低下させる点で、氏の名誉を毀損する事実摘示にあたる

(3)番組内容に公共性・公益性はあったか

番組内容が申立人の社会的評価を低下させるものであっても、放送によって摘示された事実が公共の利害に関わり(公共性)、かつ主として公益目的によるものであって(公益性)、その事実の重要な部分が真実であるか(真実性)、または真実であると信じる相当の理由があること(真実相当性)が証明されれば、名誉毀損には当たらない。

(注:公共性、公益性については、表現の自由を保障するという観点から、その表現の実質的内容からではなく、外形的・客観的に判断すべきものとされている。)

(そのような観点からすると)沖縄における基地反対運動を取り上げた点で、番組の関係部分には公共性があると言える。また、「他のメディアで紹介されることが少なかった『声』を現地に赴いて取材し、伝えるという意図で制作された」というTOKYO MXの主張から、公益目的もあったと言える。

(4)番組内で摘示された「事実」は真実か

放送が公共性のあるテーマについて公益目的で行われたものであるなら、TOKYO MXが摘示事実AおよびBについて真実であると証明できれば名誉毀損は成立しない。(注:TOKYO MXは真実相当性については主張していない。)

まず、摘示事実AおよびBに共通する「過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動」については、基地反対運動が時に行き過ぎて警察による逮捕等の事態を生じることがあっても、それだけで基地反対運動そのものが過激で犯罪行為を繰り返すものであるということにはならない。(TOKYO MX側もこれは認めている。)また、辛淑玉氏が基地反対運動を「職業的に行う人物である」とする点(摘示事実A前半)についても、TOKYO MXは真実であるとの主張をしておらず、真実性の証明はなされていない

一方、辛淑玉氏が「過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動」の「黒幕である」との点(摘示事実A後半)について、TOKYO MXは2016年9月9日に連合会館で開催された集会での同氏による下記の発言を根拠として、これは「多数の反対運動支持者らに対して違法行為を伴う活動を促すものである」として、真実性があると主張している。(下線および[]内の補足はTOKYO MXによる)。

・・・だから、現場で彼ら二人が20何台も[工事関係車両を]止めた。それでも1日止められるのが15分。でも、あと3人行ったらね、16分止められるかもしれないんです。もう1人行ったら20分止められるかもしれないんです。だから[私は人をヘリパッド建設現場に]送りたいんです。そして私たちは、私もねぇ、はっきり言います。一生懸命これから稼ぎます。なぜならば私、もう体力無い。あとは若い子に死んでもらう。ね!いいですか?若い子にはお国のために頑張ってもらうっていうのは、稲田朋美も言っているわけですから。稲田が言うなら私も言おうじゃないかと。で、それから、爺さん婆さんたちはですね、向こうに行ったら、ただ座って止まって、何しろ嫌がらせをして、みんな捕まってください。でね、70[歳]以上がみんな捕まったら、そしたらもう刑務所入れませんから、若い子が次頑張ってくれますので。ですから、何しろ山城博治はもうボロボロです。申し訳ないけどね。山城博治に言いました。ね、病気で死ぬな!ね、それから米兵に殺されるな!日本の警察に殺されるな!ね。お前が死ぬときは私が殺してやるからって言ってますから。だから…、彼はあそこに、今、いるだけでいい・・・

しかし、辛淑玉氏の上記発言は、反対運動に参加する人が増えれば増えるほど基地の建設を遅らせることができるという考えから広く参加を呼びかけるものではあるが、基地反対運動を「計画」し、「指図」しているとまでは言えないから、TOKYO MX自身が採用した「黒幕」の定義(大辞林:「自分は表面に出ず、かげにいて、計画したり人に指図したりして、影響力を行使する人」)には当らない。また、運動への参加の呼びかけは共感や連帯感に基くものもあるから、それだけで「黒幕」とする裏付けにはならない。

氏の発言には、「みんな捕まってください」といった一部不穏当な表現もあるが、全体の流れからすると、集会参加者を奮起させる目的でこのような表現になったという面もあり、その部分だけを取り上げて、氏の発言の主旨が「過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動に参加して違法行為を行うよう促したもの」とまでは言えない。

よって、この集会における辛淑玉氏の発言が、氏が「過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動」の「黒幕である」という摘示事実A後半部の真実性を証明するものとは言えない

次に、TOKYO MXは、上記集会で辛淑玉氏が「私もねぇ、はっきり言います。一生懸命これから稼ぎます」と発言している部分をとらえて、「多数の反対運動支持者らに対して違法行為を伴う活動を促すもの」で、「そのような活動への資金を申立人自ら工面して提供する旨の表明」だと主張している。

しかし、辛淑玉氏が「一生懸命これから稼ぐこと」=「反対運動に日当5万円を出すこと」ではないから、氏の発言が、基地反対運動に「資金を申立人自ら工面して提供する旨」の表明とは言えない。確かに「のりこえねっと」は沖縄への交通費5万円を支給しているが、これは全て「のりこえねっと」への寄付で賄われているとのことであり、会計記録によれば寄付金の総額は約80万円、それを利用して沖縄に向かった者は16名となっている。つまり、チラシに「交通費」支給を記載したのも、実際に交通費を支給したのも「のりこえねっと」であって、団体としての「のりこえねっと」と辛淑玉氏個人を同一視することはできないから、これを氏が負担したものとは言えない。さらに、チラシには「往復の飛行機代相当5万円を支援します。あとは自力でがんばってください!」と記載されているのであって、日当5万円を支給して金銭的な動機で基地反対運動に参加させようとしているとは言えない。

基地反対運動が時に行き過ぎて警察による逮捕等の事態が生じることがあったとしても、それだけで基地反対運動そのものが過激で犯罪行為を繰り返すものであるということにはならない点も併せて考えれば、チラシや申立人の発言は、摘示事実B(「申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動の参加者に5万円の日当を出している」)の真実性を証明するものとは言えない

よって、摘示事実AおよびBのいずれについても、TOKYO MXによる真実性の証明はなく、名誉毀損が成立する。

番組内容が人種差別・民族差別である点にも言及

BPO放送人権委は、この番組が辛淑玉氏への人権侵害(名誉毀損)であることを認定したのに加えて、放送倫理上も(1)辛淑玉氏本人への取材がなされていないことが明らかだったにもかかわらず、TOKYO MXが考査においてこれを問題にしていない、(2)考査において、人種や民族を扱う際に必要な配慮がなされていない、という二つの点でTOKYO MXに放送倫理上の問題があったことを認定している。

特に(2)については、以下のように明確に、番組内容の差別性と、それを見過ごしたまま放送したTOKYO MXの責任を認めている。

1月2日に放送された『ニュース女子』では 、過激で犯罪行為を繰り返すものと描かれた反対運動と結びつけて、「朝鮮人はいるわ、中国人はいるわ」、「親北派ですから」などと特定の国籍や民族的出自を論じ、申立人が在日韓国人であることに関連して、人種や民族を取り扱う際に必要な配慮を欠いていたと言わざるを得ないものであった。さらに1月9日に放送された『ニ ュース女子』では、冒頭で「『ヘイト』『捏造だ』と抗議殺到」、「大炎上」などとして、人種や民族の取扱に配慮を欠いた前回の放送を取り上げたにもかかわらず、そのような配慮を欠いた点について触れることもなく、「まあ、盛り上がっているという事ですよ」とMCの長谷川氏が総括して冒頭部分を終えるなど、 上記の「日本民間放送連盟放送基準」を守ろうとする姿勢が欠けていたと言わざるを得ないものであった。このような放送内容について問題としなかったTOKYO MXの考査のあり方は、放送倫理上問題があった。

放送人の最後の良心を示したBPO

正直、BPO放送人権委がどの程度の勧告を出してくれるかには不安があった。前回の放送倫理検証委の決定に加えて、今回放送人権委が「ニュース女子」による人権侵害を明確に認める決定を行ったことは、メディアの崩壊をぎりぎりで食い止める、放送人の最後の良心を示してくれたものとして感謝したい。

今回BPO放送人権委が名誉毀損を認定する過程で用いた論理は、公平・公正で反論の余地がほとんどないものだ。同様な事案で裁判になっても、これを覆すことは難しいだろう。

今回の決定を受けて、神原元弁護士は次のように警告している。

神奈川新聞(3/10)

弁護団の一人、神原元弁護士は警告した。

「放送内容はデマであり、悪質な名誉毀損、人権侵害だと確定した。蒸し返す言動が繰り返されるなら、今回の決定に基づき積極的に法的措置を取っていく。デマも脅迫も、今日以降は絶対に許さない」


ネトウヨ諸君も、まとめサイトの管理人も、ジャーナリストや評論家を自称する右派も、自分がどのような汚物を社会に吐き出してきたか振り返ってみたほうがいい。差別は無料で楽しめる娯楽ではないのだ。

[1] 「東京メトロポリタンテレビジョン『ニュース女子』沖縄基地問題の特集に関する意見」 BPO放送倫理検証委員会 2017/12/14
[2] 「「沖縄の基地反対運動特集に対する申立て」に関する委員会決定」 BPO放送人権委員会 2018/3/8

【関連記事】

 

鬼哭啾啾―「楽園」に帰還した私の家族

鬼哭啾啾―「楽園」に帰還した私の家族

 
沖縄現代史 (岩波新書)

沖縄現代史 (岩波新書)

 
本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること―沖縄・米軍基地観光ガイド

本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること―沖縄・米軍基地観光ガイド

 

祝・TOKYO MXテレビ『ニュース女子』放送打ち切り!しかしまだ終わりではない。

取材もせずに沖縄・在日ヘイトを垂れ流していたフェイクニュース番組「ニュース女子」が、ついにTOKYO MXテレビで放送打ち切りとなった。

昨年1月2日放送の「沖縄基地問題特集」は、既にBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会から、「重大な放送倫理違反があった」との決定を出されている[1]。

(略)当該番組はTOKYO MXが制作に関与していない“持ち込み番組”のため、放送責任のあるTOKYO MXが番組を適正に考査したかどうかを中心に審議した。
委員会は、(1)抗議活動を行う側に対する取材の欠如を問題としなかった、(2)「救急車を止めた」との放送内容の裏付けを制作会社に確認しなかった、(3)「日当」という表現の裏付けの確認をしなかった、(4)「基地の外の」とのスーパーを放置した、(5)侮蔑的表現のチェックを怠った、(6)完パケでの考査を行わなかった、の6点を挙げ、TOKYO MXの考査が適正に行われたとは言えないと指摘した。そして、複数の放送倫理上の問題が含まれた番組を、適正な考査を行うことなく放送した点において、TOKYO MXには重大な放送倫理違反があったと判断した。

この放送打ち切りは、MX社屋前でのスタンディングをはじめ、粘り強く抗議を続けてきた多くの人々が勝ち取った成果であり、この点は素直に喜びたい。


しかし、まだまだこの問題は終わりではない。TOKYO MXでの放送が打ち切られても「ニュース女子」の制作自体がなくなったわけではないし、地方での放送も続いている。またTOKYO MXはこの件について謝罪もしておらず、今後この手の悪質な番組を放送しないという保証もない。何より、問題番組は「ニュース女子」だけではない。


とはいえ、このようなメディアを使った暴力をやめさせることができたこと、闘いが無駄ではなかったことを示せたことは大きい。このうねりを、さらに大きなものにしていかなければならない。


[1] 「東京メトロポリタンテレビジョン『ニュース女子』沖縄基地問題の特集に関する意見」 BPO 2017/12/14

【関連記事】

 

沖縄現代史 (岩波新書)

沖縄現代史 (岩波新書)

 
本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること―沖縄・米軍基地観光ガイド

本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること―沖縄・米軍基地観光ガイド

 

朝鮮総連への銃撃事件自体より、このヘイトクライムへの日本社会の無関心さのほうが恐ろしい

NHKニュース(2/23)

朝鮮総連中央本部に発砲 男2人逮捕

23日午前4時前、東京・千代田区にある朝鮮総連=在日本朝鮮人総連合会の中央本部の前に右翼団体の関係者と見られる2人組の男が車で乗りつけ、拳銃の弾を数発撃ち込みました。警戒に当たっていた警察官が建造物損壊の疑いで男2人を逮捕し、詳しい状況を調べています。

捜査関係者によりますと、23日午前4時前、東京・千代田区にある朝鮮総連の中央本部の前に2人組の男が車で乗りつけ、門の扉に向けて拳銃数発を撃ち込んだということです。弾は門の扉に当たりましたが、けが人はいないということです。(略)

この事件は、在日コリアンを標的とした明白なヘイトクライムである。しかもこの犯罪の実行犯の一人が、5年前には在日の集住地域である大阪・鶴橋で自分の娘(当時中学生)に「鶴橋大虐殺を実行しますよ!」と叫ばせていた極右活動家であることを考えると、この社会がヘイト暴力のピラミッドを着実に登りつつあることに戦慄を覚えざるを得ない。

画像出典:[1]


そして、この銃撃事件そのものより恐ろしいのは、朝鮮総連に対してならこのような犯罪行為でも許されるかのような「空気」や、事態の深刻さをまったく理解していない無関心さがこの社会に蔓延していることだ。

ハンギョレ新聞(2/24)

総連なら銃で攻撃しても許されるのか

(略)
 朝鮮総連が事態を深刻に受け止めているのは、日本政府が北朝鮮の脅威を強調し、社会的排外主義が強まる中、朝鮮総連は攻撃してもいいという雰囲気が感じられるからだ。今回の事件を報道した記事には「気持ちは分かる」や「自作自演ではないか」などの書き込みが少なくない。南副議長は「今回の事件の背景には、日本政府の朝鮮総連に対する敵視政策が存在する」と述べた。

そんな人間のクズどもが大手を振ってまかり通ってしまうのは、重大なヘイトクライムに対して政府が非難声明も出さず、マスコミが糾弾することもない、日本社会の根深い差別体質のせいである。関東大震災時の朝鮮人虐殺や朝鮮人強制連行・強制労働、軍用性奴隷(いわゆる「従軍慰安婦」)制度など、数々の非人道的犯罪行為への反省を怠ってきた結果が、こうした差別排外主義につながっている。

このままでは、この国はまたかつてのような破滅的過ちを繰り返すことになる。

[1] 冨増四季 『ヘイト暴力のピラミッドに照らした分析』 京都事件から見えるもの―被害者代理人弁護士の視点から― 2014/1/20

【関連記事】

 

増補新版 ヘイト・クライム 憎悪犯罪が日本を壊す

増補新版 ヘイト・クライム 憎悪犯罪が日本を壊す

 
相模原事件とヘイトクライム (岩波ブックレット)

相模原事件とヘイトクライム (岩波ブックレット)

 
ヘイト・スピーチとは何か (岩波新書)

ヘイト・スピーチとは何か (岩波新書)

 

最低最悪の麻生太郎「武装難民射殺」暴言

難民の保護策より先に「武装難民」対策を考える異常

まずは麻生の発言内容を確認する。これがこの国の現副総理(元首相でもある)の発言だというのだから、あまりにも酷く、情けない。

読売新聞(9/23)

 麻生副総理兼財務相は23日、宇都宮市内のホテルで講演し、朝鮮半島有事で難民が日本に押し寄せた場合の対応について、「武装難民かもしれない。警察で対応できるか、自衛隊の防衛出動か、射殺ですか。真剣に考えた方がいい」と述べた

 難民が武装していた場合に国民の安全を確保する重要性を強調した発言だが、防衛出動や「難民の射殺」に言及したことは不適切だと指摘を受ける可能性もある。防衛出動は、自衛隊法により、日本が外国から武力攻撃を受けるか、武力攻撃の明白な危険が切迫している「武力攻撃事態」などの場合に認められており、難民に対する発動は想定していない。

朝日新聞(9/24)

 麻生太郎副総理は23日、宇都宮市内での講演で、朝鮮半島から大量の難民が日本に押し寄せる可能性に触れたうえで、「武装難民かもしれない。警察で対応するのか。自衛隊、防衛出動か。射殺ですか。真剣に考えなければならない」と語った

 麻生氏はシリアやイラクの難民の事例を挙げ、「向こうから日本に難民が押し寄せてくる。動力のないボートだって潮流に乗って間違いなく漂着する。10万人単位をどこに収容するのか」と指摘。さらに「向こうは武装しているかもしれない」としたうえで「防衛出動」に言及した。(略)

共同通信(9/24)

 麻生太郎副総理兼財務相は23日、宇都宮市で講演し、北朝鮮で有事が発生すれば日本に武装難民が押し寄せる可能性に言及し「警察で対応できるか。自衛隊、防衛出動か。じゃあ射殺か。真剣に考えた方がいい」と問題提起した

 北朝鮮有事について「今の時代、結構やばくなった時のことを考えておかないと」と指摘。「難民が船に乗って新潟、山形、青森の方には間違いなく漂着する。不法入国で10万人単位。どこに収容するのか」と強調した。その上で「対応を考えるのは政治の仕事だ。遠い話ではない」と述べた。

各社の報道から共通して読み取れるのは、麻生が、北朝鮮から難民が来る場合、それは「武装難民かも知れない」とし、だから自衛隊を防衛出動させて射殺することも選択肢として考えるべき、と主張していることだ。

迫害を逃れ、あるいは崩壊した祖国から生き延びるために保護を求めてやってくる難民に対して、どうすれば効果的に助けることができるかと考えるのではなく、まず武器を持った敵ではないかと疑い、場合によっては射殺もあり得るという。

難民条約加入国の対応としてあり得ないとかいう以前に、およそ文明国の政治家として許される発言ではない。麻生は即刻罷免されるべきだし、閣僚はもちろん議員も辞職すべきだ。このような馬鹿者を政治に関わらせてはならない。

難民が武器を持っていたら捨てさせればいいだけ

一般論として、難民が武器を携帯している可能性はある。いつ襲撃されるかもしれない環境の中を逃げてくるのだから、できれば護身用の武器を持ちたいと考えるのは当然とも言える。しかし、難民が武器を所持していたなら、保護する時点で放棄させればいいだけの話だ。通常の難民受け入れプロセスの一環として処理できる問題である。

万一彼らがその武器を使って攻撃してくる場合でも(そんなことをしてくる段階で既に「難民」ではないが)警職法の範囲内で対処することが可能だ。[1]

(略)日本政府の各機関は警職法(警察官職務執行法)の範囲で武器使用が可能である。さらにその実施についてもROE(Rules of Engagement:交戦規定)を定めることで混乱なく実施できる仕組みが揃っているからだ。

なによりも承知しなければならない点は、武器携行そのものは違法ではないという点だ。そして、携行しての脱出も大した問題とはならない。仮に難民が武器を持っていても日本領域内への侵入あるいは上陸時に放棄させればよいからだ。

(略)仮に難民が武器を使用しても対処可能となる。何もできないということはない。相手が鉄砲で射撃をしてきた場合、正当防衛および緊急避難の範囲でこちらも射撃が可能となる。また、相手が凶悪な犯罪を犯したと考えられる難民(例えば、漁船に対する海賊行為といったものだろう)が抵抗、逃走を試みようとした場合、やはり射撃可能となるからだ。

現に海保や海自はこの警職法で海賊対処をしている。アデン湾海賊対策での武器使用はこの警職法に依拠したものだ。

北朝鮮からの難民はほとんど日本には来ない

仮に北朝鮮が米国との戦争により崩壊状態となった場合、難民はどこを目指して逃げるだろうか。

第一の目的地は、もちろん同胞の国である韓国だろう。次は、中朝国境地帯に多くの朝鮮系住民が暮らしている中国だ。現実的には、38度線に近い南半部の住民は韓国、北側の住民は中国を目指すと予想される。

そもそも日本は北朝鮮とは国境を接していない。わざわざ日本海の荒波を越えて異国である日本に逃げてくることは物理的にも困難だし、そうする理由もない。麻生が言うような、十万単位の難民が押し寄せてくることなど、実際にはほぼあり得ない妄想だ。

日本を目指して逃げてくるのは「帰国者」たち

しかし、日本を目指して逃げてくる難民がいないわけではない。それは恐らく、1959年から始まった「帰還事業」で北に渡った人々とその子孫たちだろう。

今の状態からはほとんど考えられないが、当時は軍事独裁政権下の韓国より北朝鮮のほうがむしろ豊かだった。そして、敵対する韓国に対して経済的・人道主義的優位性をアピールしたい北朝鮮と、厳しい差別により困窮する大量の朝鮮人を厄介払いしたい日本政府の思惑が一致したことから、この一大事業が始められた。

朝鮮総連だけでなく一般のマスコミも右から左まで北朝鮮は「地上の楽園」だと宣伝し、その宣伝を信じた約9万人の在日朝鮮人とその日本人配偶者、子どもたちが北朝鮮に「帰国」した。日本に在住する朝鮮人ほぼすべての出身地は北朝鮮ではなく韓国の領域内だったにもかかわらずだ。

しかし、宣伝とは異なり、「帰国」した人々が直面した北朝鮮の現実は極めて過酷なものだった。北朝鮮という国自体の貧しさに加え、彼らは資本主義思想に染まった者として成分(社会的身分)で最低の位置に置かれ、日本に残った親族から送られてくる物資に頼ってかろうじて命をつなぐ生活を強いられた。

実際、既に脱北に成功した元「帰国者」とその家族が、200人ほど日本に戻ってきている[2]。

北朝鮮崩壊となれば、彼らの多くが難民となって日本を目指してくるだろう。麻生太郎は、かつて日本が北朝鮮に棄民した在日やその子孫たちを、「武装難民」かもしれないとし、射殺してもよいと示唆しているのだ。

ネトウヨは自分が難民になることを心配しろ

麻生太郎のこの最悪の暴言を、産経などの右派メディアやネトウヨは必死に擁護している。

産経新聞(9/24)

 麻生太郎副総理兼財務相が23日に宇都宮市の講演で、北朝鮮有事に関して「警察で対応できるか。自衛隊、防衛出動か。じゃあ射殺か。真剣に考えた方がいい」と発言したことについて、24日、左派系団体を中心にツイッターで麻生氏を非難する声が相次いだ。
(略)
 コラムニストの小田嶋隆氏は「これまでの何度かの失言とはレベルが違う。軽率さだとか、サービス過剰の結果だとか、考えの浅さだとか、見通しの甘さだとか、反省の軽さだとか、そういう問題ではない。根本的にあり得ない。全方向的にまったく弁護の余地がない。まるで救いがない」と投稿した。
(略)
 麻生氏を批判する人のツイッターには「どー聞いても、治安維持に見識のある政治家の発言としか思えんが? これのどこがヘイトと関係するのかもさっぱりわからん」「最悪の事態を想定している麻生さんがおおむね正しいわけですな」「武装難民のことですよ。テロリストを放置することが客観的に正しいとお考えですか」「あくまで最悪までちゃんと考えなければいけない旨を伝えたに過ぎないと思うのですが」などというリプライがあった。(WEB編集チーム)

彼らは、自分たちこそ冷静に「最悪の事態」を想定できているなどと思っているのだろうが、笑うしかないお花畑ぶりである。

本当に北朝鮮が崩壊するとしたら、それはどのような事態か。彼らの望みどおりアメリカ(日本も?)と北朝鮮との全面戦争になり、破滅の淵に立たされた金正恩政権が一人でも多くの敵を道連れにしようとありったけの核を使ってくるのが本当の「最悪の事態」だろう。そのとき、日本の核施設を狙わないという保証がどこにあるのか。

たとえば稼働中の原発に核ミサイルが撃ち込まれたらどうなるか。圧力容器内の核燃料はもちろん、敷地内の燃料プールに保管されているものも含め、すべての放射性物質が一気にばら撒かれることになる。その総量は核弾頭に搭載できる量などとは比較にならない。

国土の大半が重度に汚染され、急性障害での死を免れても、日本人は難民として流出するしかなくなるだろう。

ネトウヨは、北朝鮮からの「武装難民」の心配などする前に、漁船やゴムボートにすし詰めになって流れ着いた外国で自分たち自身が「武装難民」と見なされ、射殺されることの心配でもしたらどうか。

[1] 文谷数重 『非常識な麻生氏武装難民射殺発言』 BLOGOS 2017/9/25
[2] 石丸次郎 『日本に暮らす脱北者200人、身元明かせず孤独募らせる』 Yahoo!ニュース 2015/12/14

【関連記事】

 

鬼哭啾啾―「楽園」に帰還した私の家族

鬼哭啾啾―「楽園」に帰還した私の家族

 
在日外国人 第三版――法の壁,心の溝 (岩波新書)

在日外国人 第三版――法の壁,心の溝 (岩波新書)