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関東大震災時の朝鮮人虐殺 -- 司法省発表による「朝鮮人犯罪」記事を朝鮮人暴動の証拠だと思ってしまう残念な愛国者様たち

在日 朝鮮人虐殺

 

関東大震災 朝鮮人暴動」といったキーワードでWebを検索すると、朝鮮人による暴動の実在を主張し、虐殺を否定するヘイトサイトがたくさん引っかかる。その大半は工藤・加藤夫妻による虐殺否定本「真実」「なかった」[1][2]などの引き写しに過ぎないが、これらの本では取り上げられていない、朝鮮人関連記事解禁(1923年10月20日)後の報道を「証拠」として挙げているものもある。

たとえば、こういう記事である。(10月21日付読売新聞)

 

192310021_Yomiuri

 

日本の危機を憂う自称愛国者様たちは、これも朝鮮人暴動の実在を証明する証拠の一つだと思っているらしい。

だが本当にそうか?

 

震災の混乱に乗じ 鮮人の行った凶暴

掠奪 ― 放火 ― 凶器 ― 爆弾毒薬携帯

中には婦人陵辱もある

但し一般鮮人は順良 ― 司法当局談

 

震災の混乱、人心恟々たる隙に乗じて行った不平鮮人の悪事は、誇大に報ぜられ人はその真相を知るに苦しんでゐた、しかも当局が新聞記事を差止めた為、当時記載することができなかったが、事件は二十日やうやく報導の自由を得た。之について司法当局は「今度の変災に際し、鮮人中不法行為をしたものありと盛に宣伝されたが今其筋の調査した所に依れば、一般鮮人は概して順良であったと認め得るが、一部不平の徒があって幾多の犯罪を敢行したのは事実であると語った

 

見出しだけは華々しいが、記事の本文を見てみると、司法当局は震災直後の大々的な「朝鮮人暴動」記事が実際には誇大宣伝だったことを認めている。そして、一般の朝鮮人は「概して順良」であり、犯罪行為を行ったのは「一部不平の徒」に過ぎないとも語っている。要するに、10月20日に司法省から発表された内容は、震災直後の新聞で盛んに書き立てられた「朝鮮人暴動」に更なる事例を追加するものではなく、「調査の結果、朝鮮人の犯罪はこれしかなかった」というものなのである。

 

で、この司法省発表の中に、否定派が証拠だと主張する「朝鮮人暴動」記事の裏付けはあるのか?

 

  • 目黒競馬場を目指す抜刀した二百名の不平鮮人が日本人男女十数名を斬殺し、警官隊と衝突したか?(9月3日東京日日新聞)― そんな事実はなかった。
  • 不逞鮮人三百名が爆弾を抱えて王子付近で近衛師団三個中隊と衝突したか?(9月3日荘内新報号外)― そんな事実はなかった。
  • 主義者と鮮人一味が川口付近で上水道に毒を撒いたか?(9月3日下越新報)― そんな事実はなかった。
  • 不逞鮮人と脱獄囚三百名の大集団が横浜山下町付近で強姦掠奪殺人をほしいままにしたか?(9月3日下越新報)― そんな事実はなかった。
  • 不逞鮮人一千名が横浜で軍隊と戦闘し歩兵一個小隊を全滅させたか?(9月4日新愛知新聞号外)― そんな事実はなかった。
  • 横浜方面から品川に朝鮮人三百名が押し寄せて掠奪したり爆弾を投げたりしたか?(9月6日北海タイムス)― そんな事実はなかった。
  • 鮮人団が三河島で花火工場を夜襲して火薬類を強奪したか?岩崎邸内の井戸に毒を入れたか?避難民でごった返す越中島の糧秣廠に爆弾を投げてこれを焼いたか?(9月6日河北新報)― そんな事実はなかった。

 

震災直後の「朝鮮人暴動」記事はどれもこれも全部嘘だった、というのが司法省発表が明らかにした事実なのだ。[3]

 

一、今回の変災に際し鮮人にして兇暴の行為を為すものあること宣伝せられ就中なかんずく大火の原因は鮮人の放火に基くものにして予て企図せる不逞計画の一部を此の機会に於て実現せむとしたるものなりと為す者あり又其の間社会主義者との連絡ありと為す者なきに非ず依て極力之が捜査を遂げたるも別表に記する犯行ありたることを認め得るに止まり一定の計画の下に脈絡ある非行を為したる事跡を認め難し但し過激思想を有する朴烈事こと朴準植等十余名が内地人数名と共に不逞の目的を以て秘密結社を組織せる事実あるを発見したるに因り之を起訴し尚ほ重大なる犯罪の嫌疑ありて目下之が取調中なり、然れども同人等は震災直後に検束を受けたるを以て震災後に於ける犯罪には直接の関係なきこと明なりとす。

 

さすがにまずいと思ったのか、「真実」「なかった」は、この司法省が発表した「朝鮮人犯罪」には一切触れていない。

そんなことも理解できずに、司法省発表を伝える記事を流言蜚語報道と一緒に並べて吹き上がってしまう残念な愛国者様たち。これもまたネトウヨクオリティーの一例と言うべきだろう。

 

[1] 工藤美代子 『関東大震災朝鮮人虐殺」の真実』 産経新聞出版 2009年

[2] 加藤康男 『関東大震災朝鮮人虐殺」はなかった!』 ワック 2014年

[3] 姜徳相・琴秉洞 『現代史資料6 関東大震災朝鮮人』 みすず書房 1963年 P.420

 

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