遅ればせながら、シン・ゴジラを観た。
もともと期待してはいなかったのだが、まあ予想以上の駄作だった。しかも、一回見ただけで、なぜこれが今の日本で大ヒットしたのか、またなぜ海外ではまったく相手にされなかったのかまで分かってしまった。その意味では大変分かりやすい映画だったと言える。
私がこう評価する理由は以下のとおり。ネタバレ満載なので、これから観るつもりの人は観終わった後で読んで欲しい。
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ドラマがない、人間がいない
なによりもまず、この映画には人間らしい人間が登場しない。主人公は一応矢口(内閣官房副長官)ということになるのだろうが、この矢口でさえ「頭の切れる理想主義者タイプの若手政治家」という設定をなぞっているだけで、それ以上の人間的な奥行きは感じられない。祖母が日本人だという米大統領特使のカヨコも、高圧的で耳障りな英語交じりの発言が聞いていてイライラさせられるだけ。主役級でもこれなのだから、その他大勢などまったく話にならない。要するに、この映画の登場人物たちは、単に話を進めるために割り振られた「役割」を演じているに過ぎない。
そして、全般にセリフが多すぎ、長すぎ、しかも平板な解説調で聞くに耐えない。これも、登場人物たちをストーリー(それもかなり無理のある)を進めるための道具として使っているからにほかならない。要するに、脚本の出来が壊滅的なのだ。
自衛隊兵器のカタログ展示のような戦闘シーン
最初の出現時の数倍の巨体となって再上陸してきた時点で初めてゴジラを自衛隊が迎え撃つわけだが、このときの戦闘シーンはほとんど兵器のカタログ展示に近い。順に、攻撃ヘリからの機関砲と誘導弾、10式戦車からの砲撃、さらには富士駐屯地からのロケット弾とエスカレートしていくのだが、いちいち兵器の名前が画面に表示され、ネトウヨ・ミリヲタに媚びたいという下心が丸見えだ。
この場面では、なにしろ動きの鈍い巨大な標的への「攻撃」なのだから全弾命中は当たり前。戦闘というより兵器のデモンストレーションと言ったほうがよく、緊張感などまるでない。もちろんゴジラにはどれも効かず、結局自衛隊は蹴散らされてしまう。しかし、ゴジラに通常兵器が効かないのは当たり前で、いわばこれはお約束の結果でしかない。自衛隊が勇ましく戦う様子とその兵器を見せられれば十分なのである。
その後、米軍からバンカーバスターによる攻撃を受けたゴジラは火炎放射とレーザーで都心部を焼き払う。絵的にはこのシーンがこの映画のハイライトだろう。しかし、はっきり言ってこれはナウシカの巨神兵シーンの焼き直しにしか見えない。別に、焼き直しでも元ネタを超えていれば問題はないのだが、シン・ゴジラのこれはナウシカには到底及ばない。
ご都合主義の極み「ヤシオリ作戦」
終盤、東京の中心部で停止したゴジラに対して国連が核攻撃を加えようとするのを受けて、これを避けうる唯一の選択肢として示されるのが矢口の立案による「ヤシオリ作戦」だ。この「ヤシオリ」という作戦名はもちろん、出雲神話でスサノオがヤマタノオロチを退治したエピソードから取られている。毎年一人ずつ若い娘を食いに来るオロチを倒すため、スサノオは「八塩折の酒」(何度も繰り返し醸した強い酒)を用意させ、酒好きのオロチがこれをたらふく飲んで泥酔し、寝込んだところを斬り殺した。
ゴジラに「血液凝固剤」を経口投与して凍結させようという「ヤシオリ作戦」はこのスサノオの策略とよく似てはいるが、一つ大きな違いがある。それは、ゴジラにはそれを積極的に飲む理由などないことだ。
作戦実行時の画像を見ると、東京駅の上に倒れたゴジラの身体はほぼ水平、むしろ頭はやや下がっている。この状態でゴジラの口に血液凝固剤をいくら注ぎ込んでも体内には入っていかない。エネルギー切れで倒れているゴジラがこれを飲み込むはずもなく、注いだ液体は単に口からダダ漏れになって終わりである。要するに、この作戦には実現性がまったくないのだ。
加えて、どれだけ攻撃されても倒れなかったゴジラが電車の車両に爆薬を詰め込んだだけの列車爆弾で転倒するとか、うまい具合にポンプ車のアームが口に届く位置に倒れてくれて、周囲には車両の接近を阻むガレキもないとか、この作戦はご都合主義の極みである。東電の原発事故対応マニュアルみたいだと思ったのは私だけだろうか。
日本で大ヒットした理由=海外で相手にされなかった理由
一言でまとめれば、この映画が主張しているのは、強大なゴジラを知恵と努力で倒した「日本スゴイ」、ということに過ぎない。今や毎日のようにテレビから垂れ流されている夜郎自大な自惚れメッセージと同じなのだ。おまけに、苦しいところでドイツがスパコンを貸してくれたり、核攻撃の期日を延期するようフランスがとりなしてくれたりと、「世界に愛されるニッポン」妄想までトッピングされている。
残念ながら、このような閉鎖的で自己愛的な内容だからこそ国内では大ヒットを記録したのだろう。そして、同じ理由で、一歩日本から外に出るとまったく相手にされなかったのだ。
石原さとみ“ガッズィーラ”も大爆死!「シン・ゴジラ」が欧州で売り上げ91万円
(略)しかし、フタを開ければ台湾、香港といったアジアで不発、北米では大規模ではない都市型興行だったが、ランキングで初登場19位も翌週から36位⇒59位と急降下。最終的に興収も約2億1000万円程度と、話題にすら上らなかった。さらにゴジラになじみの薄いヨーロッパではスペインで何とか公開にこぎつけたが、なんと約91万円という残念すぎる売り上げ。つまり、ほとんど話題になっていない。(略)
こんな幼稚な映画が熱狂的に支持されてしまう社会の劣化こそが、日本にとってゴジラ以上の脅威なのだと言わざるをえない。
【2017/6/10追記】TLから関連ツイートをご紹介。
おはようございます。あまりにシンゴジラが酷いから、海外の映画配給会社の人がこうなったのでしょう(笑) pic.twitter.com/M9dN7Ux2Kv
— 阿久津先生 (@die1248) 2017年6月10日
【追記終わり】
お口直しのためのお勧め映画
最後に、うっかり観てしまってうんざりしている人へのお勧め作品を紹介する。
同じ「ゴジラ映画」範疇の作品としては、これの一つ前にあたるギャレス・エドワーズ監督のハリウッド版「GODZILLA」がお勧め。「シン・ゴジラ」とは違い、こちらのゴジラは政治屋や軍人を引き立てるための道具などではない。いや、この「怪獣王」は、そもそも人間など眼中にない。
もう一本は、やはり宮崎駿の「風の谷のナウシカ」。こちらについては解説自体不要だろう。
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そして、映画版のナウシカを観たあとは、漫画版のほうもぜひ読んでみてほしい。映画版の内容が物語のイントロに過ぎなかったことに驚くだろう。
ワイド判 風の谷のナウシカ 全7巻函入りセット 「トルメキア戦役バージョン」 (アニメージュ・コミックス・ワイド版)
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