■ 「移設」は新基地を作りたい側の言葉
「ご飯論法」の上西充子法政大教授が、次のような興味深いツイートをしている。
例えば「辺野古移設」という言葉。何の意識もなく翁長知事追悼の場でこの言葉を口にした後、集会参加者の方から穏やかに、翁長知事は「辺野古移設」ではなく「辺野古新基地建設」と表現していたことを教えていただいた。「移設」か「新基地建設」か。言葉一つで、ものの見方は変わる。#厚顔無恥話法
— 上西充子 (@mu0283) 2018年9月2日
「辺野古移設」という言葉からは、私たちは、「辺野古に基地が移設されれば普天間基地は返還されるのだろう」と考える。いや、考えるまでもなく、それを意識せずに前提としている。しかし辺野古に基地ができても普天間が返還される保証はないのだという。だからこそ「辺野古新基地建設」なのだと。
— 上西充子 (@mu0283) 2018年9月2日
つまり、「辺野古移設」という言葉は、見方を変えれば、辺野古に新基地を作りたい側の言葉なのだ。中立的な言葉ではない。「辺野古新基地建設」の方が、むしろ中立的な言葉だ。辺野古に新基地が建設されたとして、では普天間はどうなるのか、という問いは、「辺野古移設」という言葉からは生まれない。
— 上西充子 (@mu0283) 2018年9月2日
「辺野古移設」という言葉を無前提に受け入れていると、「移設に反対するなら、危険な普天間はそのままでいいのか」という考えに誘導される。しかし、「辺野古新基地建設」という言葉が対置されると、「普天間をそのままにしてさらに辺野古に基地が建設されるのか?」という疑問が生まれる。
— 上西充子 (@mu0283) 2018年9月2日
日本政府は常に、「普天間基地の危険性除去が急務」だと言い、そのためには普天間基地の「辺野古への移設が唯一の選択肢」だと言う。本土の大手マスコミも「移設」「移設」と報道し続け、辺野古に代替施設ができさえすれば普天間は返ってくるかのように印象づけてきた。
だが、実は辺野古に新基地が完成しても、普天間が返ってくる保証はまったくないのだ。
■ 最初から基地の更新・強化が目的だったSACO合意
戦後50年という節目の年だった1995年の9月4日、3名の米兵※が沖縄本島北部でわずか12歳の少女を拉致し、レイプするという凶悪事件が発生した。敗戦から50年が経ってもまだ沖縄が事実上米軍の占領下にあることをまざまざと示したこの事件に県民の怒りは燃え上がり、米軍、とりわけ海兵隊の撤退を求める声が沖縄中に広がった。10月21日には宜野湾市海浜公園で8万5千人の大抗議集会(県民総決起大会)が開かれ、冒頭の県知事挨拶で大田昌秀知事は「行政の責任者として、少女の尊厳を守れなかったことを心の底からおわびしたい」と県民にわびている。 (※ 海兵隊員2名と海軍軍人1名)
こうした声を受けて、11月には日米両政府による「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO-The Special Action Committee On Okinawa)が発足、翌96年4月12日には橋本龍太郎首相とモンデール駐日米大使が緊急記者会見を行い、「普天間基地を5ないし7年以内に日本に返還する」ことで合意に達したと発表した。
本土のマスコミではこの合意によって米軍基地の整理縮小が大幅に進展するかのように大々的に宣伝されたが、実際の合意内容を見れば、その目的は基地の整理縮小などではなく老朽施設の更新と機能強化だったことがわかる。[1]
日米両政府は1996年12月の「沖縄に関する日米特別委員会」(SACO)最終報告で、北部訓練場の過半(約3987ヘクタール)の返還に合意した。ただし、返還される区域にあるヘリパッド7カ所を訓練場内に移設すること、海への出入りを確保するため土地と水域を新たに追加提供すること、が条件だった。
これによって沖縄の米軍専用施設の約17.6%が返還されることになり、全国の米軍専用施設に占める沖縄の割合は約74.4%から約70.6%に低下する、と防衛省は胸を張った。
(略)沖縄県の基地返還要求に応え、誠意を示す必要から、政府は返還面積の数字にもこだわった。北部訓練場の過半が返還されることになったのは、実は返還面積の数字を大きくするためでもあった。
いらなくなった士地を返還し、代わりに日本政府の予算で施設の移設・新設を進め、機能を維持・強化していくーそれが米側の狙いだった。米海兵隊は、基地運用計画などについてまとめた「戦略展望2025」の中でこう強調している。
「最大で51%もの使用不可能な北部訓練場を日本政府に返還し、新たな訓練場の新設などで土地の最大限の活用が可能になる」。
ここで〈辺野古〉と〈高江〉のつながりが鮮明に浮かび上がる。
普天間飛行場の代替施設を辺野古沖に建設するにあたって米軍は、普天間飛行場にはない新たな機能を付与し、キャンプ・シュワブの高度化を進めるとともに、隣接する基地との一体的利用を図った。米軍自身が指摘するように、北部訓練場もそうだ。基地のリニューアルであり、リセットである。
■ 政府は普天間の危険性を除去するための努力などしていない
政府が本当に「普天間基地の危険性除去が急務」だと思っているのなら、辺野古への「移設」を待つまでもなく、やれることはいくらでもあるはずだ。
普天間は海兵隊のヘリ部隊がもっぱら訓練に用いている基地なのだから、危険を除去するには運用の即時停止、最低でも訓練回数の削減や時間制限、ヘリ部隊の他の基地への一時移行などを求めていけばいい。だが、日本政府は米側へのそうした当然の要求すらせず、今も市街地の真上を米軍機が我が物顔で飛び回っている。
5年前、安倍首相は仲井真知事に「普天間飛行場の5年以内運用停止」と「できることは全て行う」と約束したが、騒音被害や危険性は、逆に倍増している。毎日のように騒音等の苦情が宜野湾市に寄せられている。平成25年度240件から平成30年度は半年で300件以上に。苦情内容も深刻だ。 pic.twitter.com/wcxPo2QGcm
— 伊波 洋一 (いは よういち) (@ihayoichi) 2018年11月21日
この件、国は一度も答えてない。 pic.twitter.com/vTF9VbQWJC
— YUTAKA #ANTIFA (@yutakatheblues) 2018年12月21日
だいたい、「危険性の除去」がどうこうと言いながら、繰り返しその危険性が指摘されているオスプレイの追加配備すら認めている時点で、まともに取り組む気などないことは明白だろう。
というか、普天間「移設」論、そもそも普天間にオスプレイを追加配備して負担増やしてる時点で破綻してんじゃん。
— モン=モジモジ (@mojimoji_x) 2018年12月17日
■ 辺野古に新基地を建設しても普天間が返還される保証はない
普天間の「移設」に話を戻すと、辺野古新基地は普天間基地の全機能を包含するものではないため、それだけでは普天間返還の条件を満たさない。
仮に辺野古新基地が完成しても、普天間の即時返還にはつながらない。米政府は、辺野古新基地の滑走路の短さなどを理由に、那覇空港滑走路の使用など八つの条件をつけている。満たさなければ普天間飛行場は返還されないと、稲田朋美防衛相(当時)も国会で明言しているのだ。
その稲田防衛相の国会答弁がこれである。
参院外交防衛委員会(2017/6/15):
◯藤田幸久君 ありがとうございます。
まず、資料の一ページ目を御覧いただきたいと思います。
前回質問させていただいたことの継続でございますけれども、下の五行目からです。沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画において、普天間飛行場代替施設では確保されない長い滑走路を用いた活動のための緊急時における民間施設の使用の改善が普天間飛行場の返還条件とされておりますが、現時点で、この点について具体的に決まったものがあるわけではございません、これは五月に防衛省からいただいた文書による回答でございます。
続きまして、二ページ目、御覧いただきたいと思います。
この関係で、六月六日の当委員会における稲田防衛大臣の答弁でございます。ラインを引いてあるところ、読み上げます。この具体的な内容に関してでございますが、緊急時における民間施設の使用の改善について、現時点で具体的な内容に決まったものがないため、米側との間で協議、調整をしていくこととしておりますと。次に、二段目の右の線のところでございます。そのことに関して、今後アメリカ側との具体的な協議やその内容に基づく調整が整わない、このようなことがあれば、返還条件が整わず、普天間飛行場の返還がなされないことになりますと。
つまり、これは、辺野古の新基地が建設されても、アメリカ側との調整が整わなければ普天間基地は返還されないということで間違いございませんですね。◯国務大臣(稲田朋美君) 六月六日の当委員会でも申し上げましたように、米側との具体的な協議、またその内容の調整が整わない、このようなことがあれば、返還条件が整わず、返還がなされないということになりますけれども、そういったことがないようにしっかりと対応をしていくということでございます。
しかも、普天間基地では今年、滑走路や建物の大規模な補修工事が行われたばかりだ。近々返す場所でこんなことをするはずがない。米軍には普天間を返還するつもりなどまったくないと思うべきだろう。[2]
日米両政府は「普天間の危険性除去のため、辺野古移設が唯一の解決策」と言い続けているが、それはウソだ。
普天間飛行場では今年、滑走路や建物の大補修工事が実施されたばかりなのだ。普天間飛行場に隣接する沖縄国際大学の前泊博盛教授がこう話す。
「研究室の窓から工事の様子がよく見えます。滑走路を厚く嵩上げして、補強工事をしていました。新たな隊舎の建築もしたようです。工事は今年初めに始まって、夏過ぎには終わりました。日米どちらの負担になるのかは現在調査中ですが、300億~400億円くらいかけていますから、返還するつもりはありませんね。以前から、米軍の司令官たちは『辺野古が完成しても普天間は返さない』と言っていました。日本には、米国に対して正面から返還を求める腹の座った政治家はいませんね」
辺野古を埋め立てて新基地を建設してアメリカに渡す段階になった時点で、アメリカが辺野古の活断層の危険性を指摘して使用を「一部」拒み、辺野古も「一部」使いつつ普天間も今まで通り使い続けるという最悪の状況も想定しています。
— TORITOIRO/鳥と色 (@yuntaku16bird) 2018年12月14日
夢も希望も持てない政府ですから。#辺野古の海を埋め立てないで
ほら、やっぱり。辺野古の工事が始まった矢先にこれだ→ 2022年度の普天間返還、達成困難と防衛相 | 2018/12/14 - 共同通信 https://t.co/vOBPlohvXw
— 住友陽文 (@akisumitomo) 2018年12月14日
■ 新基地建設の本当の理由はメンツと利権
米軍側から見れば、滑走路に加えて普天間基地にはない軍港(強襲揚陸艦の接岸が可能)や弾薬庫まで備えた新鋭基地をタダで作ってくれるというのだから、こんなに美味しい話はない。当然ウェルカムだろう。しかも、日本側との「調整」で合意を与えなければ、普天間基地を返す必要もないのだ。
問題は、既に総額2兆5千億かかるとまで言われている新基地の建設を、なぜ日本政府は数々の違法行為を重ねてまで強行するのかだ。
その真の理由は、一度決めた方針は絶対に変えず、何があっても過ちを認めないという高給官僚たちのメンツと、莫大な税金を費やす建設工事に伴う利権だろう。[3]
普天間閉鎖に伴う移設先は、いつの間にか辺野古沿岸、それも埋め立て基地となった。橋本内閣で辺野古移転作業を進めていた元キャリア官僚によれば、「辺野古埋立ては日本側の都合だった」。巨大公共工事で金儲けしたいゼネコンと政治家が背後にいる、というのだ。
普通なら、完成までにかかる費用が当初想定額の10倍と分かった時点で計画は見直しとなるはずだ。そうならないのは、いくら金がかかろうと税金だから自分らの懐は痛まず、むしろ金額が大きくなればなるほど利権も大きくなるからだ。
なんのことはない、原発から捕鯨に至るまで、何度となく見せつけられてきたこの国の腐った構図がここにも当てはまっているのだ。
[1] 長元朝浩 「<辺野古・高江>が危ない 政権の暴走を全国に向けて可視化せよ」 月刊マスコミ市民 2016年9月号 P.30
[2] 亀井洋志 「辺野古へ土砂投入を強行 「住民らの激しい抗議に警察と米兵がライフル銃で威嚇」と住民」 AERA.dot 2018/12/14
[3] 「【沖縄県知事選挙】「辺野古埋立て」は「普天間閉鎖」の条件ではない 自民党のトリックに騙されるな」 田中龍作ジャーナル 2018/9/27
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