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いろいろ引っかかるところが多すぎる『インターステラー』

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最新作『TENET』の公開に合わせて、クリストファー・ノーラン監督の前作『インターステラー』がAmazon Primeで見られるようになっているので改めて見直したのだが、どうも科学考証的に引っかかるところが多すぎて素直に楽しめない。

一般的には、SF映画の設定が科学的におかしくても別に問題はない。例えばスター・ウォーズが非科学的だなどと文句を言うのは、まあ馬鹿げていると言えるだろう。

しかし『インターステラー』は、理論物理学者キップ・ソーン(2017年にノーベル物理学賞を受賞)が科学コンサルタント兼製作総指揮として製作に参加し、ブラックホールの描写をはじめ、その内容が科学的に正確だということを謳い文句にしていた映画だ。なので、他と同列には扱えない。

私も専門家ではないのでこちらが間違っているのかもしれないが、以下、見ていてどうしても気になったところを列挙してみる。(ネタバレ注意)

水の惑星の津波問題

ワームホールを抜けたクーパーたちが最初に目指したのが、全面を浅い海に覆われた水の惑星(ミラーの星)。ここで彼らは高さ1200mにも及ぶ巨大津波に襲われるのだが、この津波は近くにある超大質量ブラックホール「ガルガンチュア」の重力で海水が引っ張られているせいで発生するのだと説明される。

しかし、質量の大きな主星の近くを公転する惑星や衛星は、多くの場合、主星の潮汐力のせいで自転と公転の周期が同期し、常に同じ面を主星に向けているようになる(潮汐ロック)。典型的な例が地球の月である。他にも、木星のガリレオ衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)など、太陽系内の多くの衛星が潮汐ロック状態になっている。

潮汐力は重力源の質量に比例し、そこからの距離の3乗に反比例するので、ガルガンチュアのすぐ近くを公転しているミラーの星は強い潮汐力を受けて潮汐ロック状態にあるはずだ。となると、引っ張られて山のように隆起した海水は惑星表面に対しては静止しているはずで、津波にはならないと思うのだが。

そもそも水の惑星は存在しうるのか問題

津波以前の問題として、この水の惑星はそもそも存在しうるのか、という問題もある。

この惑星はガルガンチュアのすぐ近くを公転しているため、周囲の時空はその強烈な重力によって歪められ、惑星上での1時間が外部での7年間に相当するほど時間の流れが遅くなっているとされている。

時間の流れを6万分の1にするほどの重力というのがどれほどのものかちょっと想像もつかないが、これではこの水の惑星自体がガルガンチュアによる潮汐力のせいで破壊されてしまうのではないか。

ロミリーは23年間何を食べていたのか問題

クーパーたち4名のうち、水の惑星にはクーパー、アメリア、ドイルの3名だけが向かい、ロミリーは宇宙船エンデュランスに残る。そして、巨大津波のせいで想定外の時間がかかった調査からクーパーたちが戻ってきたときには、出発から23年あまりが経っていた。

水の惑星の調査の間、ロミリーはコールドスリープせずにブラックホールの分析を続けており、クーパーたちが帰ってきたときにはもう白髪まじりになっていて、「待ちくたびれたよ」と言う。

それはいいとして、では23年もの間、ロミリーは何を食べて生きていたのか。船に残ったのは一人だけとはいえ、その23年分をまかなえる食糧を積んでいたとはとても思えない。水や酸素についても同じだ。

最後に:この物語の因果律はどうなっているのか

物語の終盤、ブラックホール内部に突入したクーパーが観測した特異点のデータを過去の自宅(にいる娘のマーフ)に送信することで重力の秘密が解明され、人類は絶滅の運命から救われるのだが、そうしたことすべてを可能にしたのが、数十年前に土星近傍に突然出現したというワームホールだ。

このワームホールは自然に発生したものではなく、超絶した科学力を持つ何者かが設置したものだ。そしてその「何者か」とは、実は次元を超えて進化した未来の人類に他ならないことが明かされる。つまり、未来の人類が過去の人類を救うために手を差し伸べたわけだ。

しかしそうなると、物語の因果律が一周回って閉じてしまう。

人類が絶滅を回避できた《←結果》のはクーパーとマーフが重力の秘密を解明できたから《←原因》だが、彼らが重力の秘密を解明できた《←結果》のは人類が存続してブラックホールやワームホールを自在に操る進化した存在になれたから《←原因》だ。未来から過去に干渉すると発生するタイムパラドックスの一種と言える。

こんなふうに、科学的な整合性とかを考えていくとわけが分からなくなってしまうのだが、多分「科学的に正確」云々という謳い文句につられて、そんなことを期待して見てしまうのが間違いなのだろう。クリストファー・ノーランにとって科学的な装いは手段に過ぎず、描きたかったのは恐らくまったく別の何かなのだ。

 

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