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ホロコースト博物館長の警告

ホロコースト博物館が提供する警察官教育プログラム

今年1月27日はソ連軍によるアウシュヴィッツ強制収容所の解放から75年目の節目ということで、この日に合わせてホロコースト関連の新しい記事がいくつか出ている。

その中で、クーリエ・ジャポン掲載の、ホロコースト記念博物館(米ワシントン)館長サラ・ブルームフィールド氏へのインタビュー記事が興味深い内容だったので引用する。

ホロコースト博物館館長が“ファシズムの前兆”に警鐘を鳴らす
「ナチスは突然、空から降ってきたわけではない」

1/27(月) 11:30配信


2020年はアウシュヴィッツ強制収容所の解放から75年の節目にあたる。私たちはあのおぞましい歴史から何を学ぶべきなのか? いま再び世界のさまざまな場所で、特定の人種や属性に対する憎悪感情が表出していないだろうか?

米ワシントンにあるホロコースト記念博物館館長サラ・ブルームフィールド(69)は、「ナチスは降ってわいたのではない。大量虐殺には前兆があるし、ごく普通の人が残虐行為に手を染める可能性がある」と警鐘を鳴らす。

(略)

私たちは来館者から多くのことを学んでいます。それがよくわかるエピソードをお話しましょう。

開館初期に、博物館の可能性にスタッフの考えが及んでいなかったと気づかされた出来事があります。チャールズ・ラムジーがワシントンの警察署長だったときのことです。

ワシントンが“殺人の首都”と呼ばれていた頃、彼が新しい警察署長に就任しました。ラムジー署長が来館した際、彼は最後に自分自身に対して素晴らしい疑問を投げかけました。

「私と同じ職業の人々が、この博物館にある多くの写真に写っていた。警察は当時どんな役を担い、どう関与していたのか」と。

当館はラムジー署長と「名誉毀損防止同盟」(米最大のユダヤ人団体)と協力し、新人警官がホロコーストの歴史と治安維持の使命を学ぶためのプログラムを開発しました。平凡な警官が時間の経過とともに次第にナチスの政策に加わることになった経緯を、教えたのです。

これが成功し、いまでは法執行機関を対象にした大規模なプログラムへと発展しています。このように、一人の来館者が私たちには思いもよらなかった博物館の可能性を見出してくれたのです。

弁護士や裁判官も、ナチス主義とホロコーストにおいて重要な役目を担いました。そのため現在、同様のプログラムを裁判官にも実施しています。また、米軍にも専用プログラムを提供しています。

ブルームフィールド氏が指摘するとおり、警察など法執行機関の人々が過去の歴史を学び、自分たちの先輩世代がなぜ、どのような過ちを犯したのか、そうした過ちを繰り返さないためにはどうすればいいかを考えることは、とても重要なことだ。

日本の警察官教育はヘイトを植え付けるカルト教育

では、日本における警察官への教育はどうなのか。これが、まさに「期待を裏切らない」とでも言うべきか、まったくの逆なのだ。

lite-ra.com

(略)彼らは、基地反対派にかぎらず、共産党、解放同盟、朝鮮総連、さらには在日外国人などに対しても、聞くに堪えないような侮蔑語を平気で口にする。我々の前でもそうですからね。これにはもちろん理由があって、警察では内部の研修や勉強会、上司からの訓示など、さまざまな機会を通じて、警察官に市民運動やマイノリティの団体、在日外国人などを『社会の敵』とみなす教育が徹底的に行われるからです。その結果、警察官たちには、彼らに対する憎悪、差別意識が植え付けられていく。(略)

 実は、こうした警察の“差別思想養成教育”の存在を裏付けるような話をキャッチした。警察では「専門の雑誌を使って、極右ヘイト思想を警察官に植え付けている」というのだ。

 その専門の雑誌というのは「BAN」(株式会社教育システム)。聞きなれない名前だが、警察官しか読むことのできない警察官のための月刊誌だという。

(略)

 歴史認識に関しては、15年6月号から同年12月号にかけても複数執筆者による「戦後70年シリーズ~戦後史はここから始まった~」なる連載を行っているのだが、その執筆陣は、戦前の修身教育復活を提唱する小池松次氏、戦後日本や憲法への攻撃を繰り返す作家の吉本貞昭氏、そして保守系コミンテルン陰謀史観でおなじみの倉山満氏だ。

(略)

 他にも、「BAN」の過去3年間の寄稿者をあげていくと、一色正春氏(元海上保安官)、潮匡人氏(評論家)、加瀬英明氏(外交評論家)、河添恵子氏(作家)、黄文雄氏(評論家)、渡邉哲也氏(経済評論家)……などなど、タカ派国防論者から日本スゴイ本やヘイト本著者、日本会議代表委員、さらにはネトウヨツイッタラーまで勢揃い

 しかし、一番驚かされたのは、06年11月号の特集「外国人犯罪の現場」だ。なんとこの特集に、近年のヘイトデモの中心人物のひとりである瀬戸弘幸氏を登場させ、持論を展開させているのだ。

 瀬戸氏はネオナチ思想に傾倒し、在特会の桜井誠元会長や、主権回復を目指す会代表の西村修平氏らとともに、「行動する保守」を名乗る運動を牽引してきたキーパーソンで、「NPO外国人犯罪追放運動」なるヘイト団体の顧問も務めている。2010年代に各地のヘイトデモが社会問題化するなか、警察はなぜヘイトスピーチの被害者ではなくヘイトデモ隊を守るのかと批判が殺到していたが、ヘイトデモの代表的存在が警察専門誌に登場していたのだとすれば、それも納得がいく。

ネオナチやヘイト団体などの反社集団に対する警察の態度が、ドイツなどの真っ当な先進国と日本で真逆になるのも、これでは当然だろう。

反省なき国はまた過ちを繰り返す

お隣の韓国でも、かつての軍事政権時代の過ちを象徴する施設が、加害者である警察自身の手によって公開されている。しかし日本には、特高警察や憲兵隊の暴虐を伝える博物館など一つもない。

敗戦後、この国を破滅に追い込んだ責任者たちを根絶せず、それどころか易易とその復活を許した日本では、ブルームフィールド氏が指摘するファシズムの初期兆候がすべて揃っている。このままではいずれまた同じ過ちを繰り返すことになるだろう。

集団虐殺が起きる前兆とは?

ナチスは1933年1月に突然、空から降ってきたのではありません。その根源はドイツの歴史をさかのぼれば見えてきます。19世紀にはすでに後のナチスにつながる多くの要因が存在しました。

同様のことが、私たちが生きているこの瞬間にも当てはまります。今日の社会が抱える問題は、昨日あるいは昨年に端を発しているわけではありません。

人間は弱い生き物であることを、私たちは忘れてはいけません。

(略)

──集団虐殺を阻止する方法はありますか?

発生以前の初期兆候は確認できます。過去の事例を見れば、集団的な暴力が起きるまでの長い間に、政府が差別を合法化したり、対立を助長したりしています。国家によるメディア操作もあります。

これらの条件がすべてそろったとき、集団虐殺に発展するのです。