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福一事故はとっくに人を殺している

関連記事:一枚の恐ろしいグラフ

 

名古屋で開催されたエネルギー・環境政策に関する意見聴取会で、中部電力の現役社員が、「福一事故で亡くなった人は一人もいない」旨の意見を述べた。

 

中国新聞(7/17)

名古屋では中部電社員が推進発言 政府聴取会また怒声

 

 政府は16日、将来のエネルギー・環境政策に関する国民からの第3回意見聴取会を名古屋市で開いた。浜岡原発(静岡県御前崎市)を抱える中部電力の現職課長が発言者9人の1人として原発推進の意見を述べたため、立場の違う傍聴者から強い反発があった。

 原発推進の立場で意見を述べたのは、中部電の原発部門で課長を務める岡本道明おかもと・みちあき氏。「個人として来た」と前置きし「福島第1原発事故で、放射能の直接的影響で亡くなった人は一人もいない。今後5年、10年で変わらない」と持論を展開、会場からは反発する傍聴者の怒声も飛んだ。

 高速増殖炉もんじゅ」を所有する日本原子力研究開発機構の男性職員も、職業は明らかにせずに「再生可能エネルギーの安定供給に疑問を感じる」と意見陳述した。

 

低線量被曝による被害はすぐには現れないし、被曝者がガンその他で後年死亡しても、それが被曝の影響によるものかどうか、死亡した個々人について判別するのは難しい。

だからこういう卑劣な意見を平然と述べる推進派も出てくるのだが、一方でこういうデータもあるのだ。

 

中日新聞(7/26)

作業被ばく総量、16倍 福島第1原発事故1年で

事故前14.9人シーベルト→事故後244.6人シーベルト 東電集計

 

 東京電力福島第1原発で事故が起きた昨年3月から今年2月末までの1年間に、同原発で作業した人の被ばく線量の総量である「集団被ばく線量」が、事故前の通常の年の約16倍に上ることが、東電の集計で分かった。

 集団被ばく線量は、作業員一人一人の被ばく線量を足した総数で、単位は「人シーベルト」。作業被ばくを低減するための目安などに使われる。

 東電などによると、事故前の2009年度の1年間は14.9人シーベルトだったのが、事故後は244.6人シーベルトと跳ね上がった。事故があった昨年3月だけで約半分の120.2人シーベルトを占めた。福島第1、第2原発を除く国内15カ所の原発の10年度の集団被ばく線量は計61.1人シーベルトだった。

 福島第1原発では、2月末までの1年間に約2万人が平均約12ミリシーベルト(1ミリシーベルトは1シーベルトの1000分の1)被ばくした。線量は、体外から放射線を浴びる外部被ばくと、放射性物質を体の中に取り込むことによって起きる内部被ばくの合計値で、作業員の被ばく量の最高値は678.8ミリシーベルト。09年度は約1万人で平均1.4ミリシーベルトだった。

 

被曝による晩発性障害が確率的に現れるということは、個々人について影響を予測することは難しくても、集団に対しては確実にその結果を予測することができるということだ。

では、上記の発表数値は何を意味しているか。

 

今ではほぼ確実に過小評価であることが分かっているICRP(国際放射線防護委員会)2007年勧告のリスク評価によれば、被曝によるガン死の生涯過剰絶対リスクは10人シーベルトあたり0.5人とされている。これを当てはめれば、244.6人シーベルト被曝

 

       244.6 / 10 * 0.5 = 12.23

 

つまり、約12人のガン死を将来生じさせることになる。

WHO(世界保健機関)のIARC(国際ガン研究センター)が行った核施設被曝労働者に関する共同研究等に基づくリスク評価はICRPのほぼ2倍となり[1]、こちらによる予測は約24人のガン死となる。

 

崩壊した福島第一原発は、昨年3月からの1年間だけで、対象を作業員だけに限っても、少なくとも12人から24人の人間に対して既に死を宣告しているのだ。現場で横行する被曝線量のごまかしを考慮すればこの数字はもっと増えるし、被曝労働は福島第一の廃炉が実現するまで(そもそもそれが可能なのかという問題は別として)この先何十年も続くことになる。しかも、この数字は被曝がもたらすガン以外の様々な疾病は一切考慮していないのだ。

そして、考慮の対象を、まったく無用の被曝をさせられた一般住民にまで広げれば、結果は到底こんな数字では済まない。(単純に外部被曝線量の影響だけを見積もっても、将来的に1200人の過剰なガン死をもたらすと予測されている。[2])

 

意見聴取会で発言した中部電力社員をはじめ、内心では同じようなことを考えているすべての原発関係者に対して言いたい。

原発は元々危険極まりない技術だが、あなたたちのような傲岸不遜な人間がその運用に関わることによって、危険性は何倍にも増幅される。あなたたちのような人間が福一事故を引き起こしたのであり、あなたたちのような人間が関与している限り、将来また確実に過酷事故が起こる。

今すぐ辞職しなさい。そして、二度と人命に関わるような仕事についてはいけない。

 

*参考*

[1] 中川保雄 『増補 放射線被曝の歴史』 明石書店(2011.11), P278-279

[2] 同書 P276


増補 放射線被曝の歴史―アメリカ原爆開発から福島原発事故まで―

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原発労働記 (講談社文庫)

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原発ジプシー 増補改訂版 ―被曝下請け労働者の記録

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