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もう一つの戦争絶滅受合法案

「戦争絶滅受合法案」というアイデアがある。こういう法律を列強各国が制定すれば世界から戦争を根絶できるというもので、第一次世界大戦後、デンマークの陸軍大将フリッツ・ホルムが書いた法案を紹介するという形で、1929年に評論家長谷川如是閑にょぜかんが発表したものだ。法案の内容は以下のとおり[1]。

戦争行為の開始後又は宣戦布告の効力の生じたる後、十時間以内に次の処置をとるべきこと。

即ち左の各項に該当する者を最下級の兵卒として召集し、出来るだけ早くこれを最前線に送り、敵の砲火の下に実戦に従はしむべし

    一、国家の元首。但し君主たると大統領たるとを問はず。尤もっとも男子たること。

    二、国家の元首の男性の親族にして十六歳に達せる者。

    三、総理大臣、及び各国務大臣、并ならびに次官。

    四、国民によつて選出されたる立法部の男性の代議士。但し戦争に反対の投票を為したる者は之を除く。

    五、キリスト教又は他の寺院の僧正、管長、其他の高僧にして公然戦争に反対せざりし者。

上記の有資格者は、戦争継続中、兵卒として召集さるべきものにして、本人の年齢、健康状態等を斟酌すべからず。但し健康状態に就ては召集後軍医官の検査を受けしむべし。

上記の有資格者の妻、娘、姉妹等は、戦争継続中、看護婦又は使役婦として召集し、最も砲火に接近したる野戦病院に勤務せしむべし。

 

こんな法律が制定されれば、戦争を始めるという決断を下した者たちは全員死を覚悟しなければならないわけで、確かに戦争の根絶に絶大な威力を発揮するだろう。

しかし、この法案には難点がある。残念ながら実現性に乏しいことだ。なぜかと言えば、戦争は常に、自国が外国からの脅威にさらされているというプロパガンダで国民を扇動することによって始められるからだ。

侵略戦争が常に自衛のためと称して行われてきたことは、かつての大日本帝国の例を見ても明らかだろう。そうしたプロパガンダに国民が踊らされている国(戦争を仕掛ける可能性が高い危険な国であり、この法案を必要とする国)であればあるほど、その国民は、戦争とは相手側から仕掛けられるものと思い込んでおり、戦争が始まった途端に戦争指導層が全滅して敗戦必至となるこの法案を成立させるのは困難になる。

そのことは如是閑本人もよく分かっていて、彼自身、この法案を紹介する文章の中で、「各国をして此の法律案を採用せしめるためには、も一つホルム大将に、「戦争を絶滅させること受合の法律を採用させること受合の法律案」を起草して貰はねばならぬ」と書いている。いわばこれは法案というより、自分は常に安全なところにいる権力者たちが庶民を戦場に送り込んで殺し合いをさせていることに対する、強烈な皮肉なのである。

 

では、もう少し現実的な「戦争絶滅受合法案」は考えられないものだろうか。というわけで、以下のような案を考えてみた。

 

  1. 戦闘行為の開始から戦争が終結するまでの間、政府に兵器、弾薬、燃料、食糧その他すべての軍需物資および軍需関連役務を納入する企業は、これをすべて無償で提供する義務を負う。
  2. 前項の結果、企業が債務超過に陥った場合、政府は当該企業を破産させた上で、政府管理によりその事業を継続させる。この際、当該企業の役員以上の地位にある者は、個人財産のすべてを提供して債務の返済に当てるものとする。
  3. 政府は戦争終結後、政府管理の当該事業をすみやかに民間に売却する。

 

戦争は自然現象ではないから勝手に「勃発」などしない。戦争が起こるのは戦争をしたい連中が意図的に起こすからだ。そして、なぜ戦争をしたいかといえば、儲かるからである[2]。

(略)太平洋戦争ではその後始末も含めて戦費支出総額は7558億9000万円で、これを2000(平成13)年の価格に換算すると、約4000倍として3023兆円という天文学的巨額になることが分かる。

 これを2000年度の国家予算一般会計の総額85兆円と比較すると、太平洋戦争期間の98か月間に、2000年度の国家予算の36年間分を支出したことになる

 そしてそのツケは、現在の住専やバブル経済破綻時の銀行の不良債権を国民の血税で穴埋めするのと同様戦後の悪性インフレーションによって国民を塗炭の苦しみに投げ入れることと引き換えでつじつまを合わせ、独占資本はこのインフレで、この不良債権をチャラにして始末したのである。時代が変わっても資本、支配者のすることは同じだということである。

 

戦争になれば莫大な政府需要で大儲けが見込めるからこそ、軍需企業とその背後にいる金融資本は安倍自民党のような好戦的極右に資金提供してその政権維持を助けるのである。だから、戦争を防ぐには、戦争しても決して儲からない法的枠組みを作ればよい。

上記のような法案が成立すれば、平時にはそれなりに儲けていられる軍需企業が、戦争になった途端に経営難に見舞われ、その経営層は個人的にも破産の危機に直面することになる。軍需企業に出資している銀行や株主も大損害を被る。となれば、彼ら自身が常に戦争回避のために必死の努力をせざるを得ない。

実に有効な「戦争絶滅受合法案」ではないだろうか。

[1] みんなの知識ちょっと便利帳 『戦争絶滅受合法案
[2] 澤昌利 『戦争で誰が儲けるか』 スペース伽耶 2004年 P.70-71

 

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