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【検察庁法改悪】安倍がいまどうしてもやりたい理由、そして元検事総長らの反対意見書に見る強烈な皮肉と危機感

検察庁法改正案の目的は黒川を検事総長にすることと検察を政権の支配下に置くこと

いま安倍政権が無理やり国会を通そうとしている「検察庁法改正案」だが、何がその目的なのかは普通に考えれば明白だろう。第一に、安倍晋三が自身の逮捕投獄を避けるために手下の黒川弘務を何としても検事総長にしたいということ、そして第二に、内閣が検察官の人事に介入できるようにすることで検察庁全体を内閣に従属する組織にすることだ。

改正案の仕組みと問題点

この法案の問題点については、園田寿氏(甲南大学法科大学院教授、弁護士)がとても分かりやすく解説されているのでぜひ一読して頂きたい。

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園田氏の解説内容をかいつまんで言うとこういうことだ。(以下、画像はすべて上記記事からの引用。)

まず、現行の検察庁法では、検事総長は65歳、その他の検事は63歳になった時点で定年と規定されている。

このままだと、今年2月8日に63歳となる(なった)黒川を検事総長にすることはできない。そこで安倍は直前の1月31日に閣議決定で黒川の定年を半年延長する、とした。こうすれば今の稲田伸夫検事総長が(2年で交代という慣例に従って)今年7月に退官するまで黒川を検事長のままにしておくことができるからだ。

しかし、これは検察庁法に反する違法無効な人事である。当然のことだが、閣議決定ごときで違法行為を合法化することはできない。(そもそも閣議決定とは、予算案や法案その他の案件について閣僚間の合意を取った、ということに過ぎない。)だから黒川は今も違法に検事長の地位に居座っていることになる。東京高検検事長が違法な存在という異常事態である。

この違法人事をごまかすために安倍政権が持ち出したのが、検察庁法ではなく国家公務員法を適用して黒川の定年を延長したのだ、という屁理屈だ。しかし、法の適用は一般法である国家公務員法より特別法に当たる検察庁法が優先されるのでこんな屁理屈は成立せず、黒川の現在の地位が違法であることに変わりはない。

注:国家公務員法の定年規定は「法律に別段の定めのある場合を除き(第81条の2)」適用されるのだから検察庁法で別途定年が定められている検察官には適用されない。

また、仮に国家公務員法を適用できることにしたとしても、現在の国家公務員法では次のような問題が生じる。政権が定年を延長させたい検察官一人ひとりについて、いちいち「その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由がある(第81条の3)」と人事院を納得させてその承認を得ることが必要になるのだ。

これでは、黒川同様の恣意的人事を行っていくには何とも使い勝手が悪い。そこで安倍政権が持ち出してきたのが問題の検察庁法改正案だ。こちらでは「人事院の承認」はきれいに消され、すべてが内閣の思いのままとなる。

検察官が、そのキャリアの最終段階において、定年を延長してもらえるかどうか、また次長検事や検事長という地位にある者がヒラ検事に降格されるか今の地位に留まれるかが政権の「おぼえ」次第で決まるのだから、これでは政権の意向に逆らえる検事などほとんどいなくなってしまうだろう。

検察OBによる反対意見書が指摘する危険性

こんな悪質な法案に批判が集中するのは当然のことだが、中でも松尾邦弘元検事総長ら検察OBが連名で法務省に提出した意見書の内容は強烈だ。

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これも全文読んで頂きたい内容だが、以下、いくつか印象に残った部分を引用する。

 3 本年2月13日衆議院本会議で、安倍総理大臣は「検察官にも国家公務員法の適用があると従来の解釈を変更することにした」旨述べた。これは、本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更したという宣言であって、フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる「朕(ちん)は国家である」との中世の亡霊のような言葉を彷彿(ほうふつ)とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない危険性を含んでいる。

 時代背景は異なるが17世紀の高名な政治思想家ジョン・ロックはその著「統治二論」(加藤節訳、岩波文庫)の中で「法が終わるところ、暴政が始まる」と警告している。心すべき言葉である。

安倍のやりかたをルイ14世並みの「中世の亡霊」と呼ぶのも強烈だが、ロックの言葉をわざわざ「加藤節訳」と明記して引用するのも皮肉が効いている。加藤節氏は成蹊大学で安倍の不真面目ぶりをつぶさに見てきた恩師だからだ。

 注意すべきは、この規定は内閣の裁量で次長検事および検事長の定年延長が可能とする内容であり、前記の閣僚会議によって黒川検事長の定年延長を決定した違法な決議を後追いで容認しようとするものである。これまで政界と検察との両者間には検察官の人事に政治は介入しないという確立した慣例があり、その慣例がきちんと守られてきた。これは「検察を政治の影響から切りはなすための知恵」とされている(元検事総長伊藤栄樹著「だまされる検事」)。検察庁法は、組織の長に事故があるときまたは欠けたときに備えて臨時職務代行の制度(同法13条)を設けており、定年延長によって対応することは毫(ごう)も想定していなかったし、これからも同様であろうと思われる。

 今回の法改正は、検察の人事に政治権力が介入することを正当化し、政権の意に沿わない検察の動きを封じ込め、検察の力を殺(そ)ぐことを意図していると考えられる。

そして意見書は、この法案が黒川の違法な定年延長を後付で正当化しようとするものであること、また政権による捜査への介入を目的としていることを明確に指摘している。

「恥ずべき事件」を利用してのし上がってきた黒川弘務

 しかし検察の歴史には、(大阪地検特捜部の)捜査幹部が押収資料を改ざんするという天を仰ぎたくなるような恥ずべき事件もあった。後輩たちがこの事件がトラウマとなって弱体化し、きちんと育っていないのではないかという思いもある。それが今回のように政治権力につけ込まれる隙を与えてしまったのではないかとの懸念もある。検察は強い権力を持つ組織としてあくまで謙虚でなくてはならない。 しかしながら、検察が萎縮して人事権まで政権側に握られ、起訴・不起訴の決定など公訴権の行使にまで掣肘(せいちゅう)を受けるようになったら検察は国民の信託に応えられない。

 正しいことが正しく行われる国家社会でなくてはならない。

ところで、これは意見書の末尾部分だが、ここで「恥ずべき事件」として挙げられている大阪地検特捜部による証拠改ざん事件を利用して検察内でのし上がってきたのが、他でもない黒川弘務だったのだ。

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 黒川弘務氏は、ある意味、今の検察の顔である。

 彼が台頭してきたのは、大阪地検特捜部証拠改ざん事件、いわゆる「村木さん事件」とか「フロッピー前田事件」と呼ばれているあの事件がきっかけだ。

 2009年、現役の検事が、現役の厚労省キャリアを罪に落とすために、無実の決定打になるはずの証拠を改ざんしてまで有罪に持ち込もうとした。この前代未聞とされる不祥事は、朝日新聞のスクープで大問題となり、その後、当時の民主党政権下、柳田法相の意向のもと、「検察の在り方検討会議」で、検察改革のための議論がなされることになった。

 そのとき、本来なら、そのような冤罪を作らないようにするために、自白偏重主義を改めるなど、検察にとって厳しい「在り方を検討する」はずだった会議は、どういうわけか、ほんのわずかの取調べ可視化と引き換えに、検察の司法取引などを容認する刑事訴訟法改悪や盗聴の拡大という、世紀の「火事場泥棒的な法案改悪」を引き起こしてしまう端緒を作ることになってしまう。

 このときの事務局として、まさに、委員を取り込んで、きれいに丸め込むという手腕を発揮したのが、黒川弘務大臣官房付だった。

黒川弘務は悪質な法務官僚の代表格であり、その黒川を、だからこそ検事総長に据えようとしているのが安倍政権なのだ。

法案と黒川の定年延長が関係ないという主張はミスリード

なお、法案施行日の関係で今回の法案と黒川の定年延長は関係ないという意見もあるが、そんな単純な話ではない。上記意見書でも指摘されているとおり、施行前でもさらなる定年延長の正当化の根拠となりうるからだ。

以下は相澤冬樹氏(森友問題を追求したためNHKを追われた元記者。現在大阪西日新聞編集局長)による指摘。

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検察庁法改正案は黒川氏と無関係ではない

 では黒川氏との関係でいくとどうなるでしょう?

 まず施行日の問題です。検察庁法改正法案は国家公務員法など複数の改正案の一部であり、附則で施行日は令和4年(2022年)4月1日と定めています。しかし但書に「必要な施行期日を定めるものとすること」とあります。これは検察庁法の施行日を早めて、黒川氏の退職前に間に合わせることを可能にする裏ワザかもしれません。

 もう1点は施行日に関係なく、この改正案が検事長らのいわゆる定年延長を正面から認めているから、施行前でも延長正当化の根拠になりうる。つまり1月に行われた超法規的定年延長の再現がありえます。

 いずれにせよ黒川氏の定年再延長に道を開くもので、「黒川氏には無関係」という主張はあたらないでしょう。

(略)

黒川氏は検察庁法改正で68歳まで検事総長を務めることができる、と法務省

 これについて検察庁法を所管する法務省はどういう見解でしょうか?

 野党共同会派の小西洋之参議院議員が法務省刑事局に見解を尋ねました。「黒川氏が」と固有名詞をあげて聞くと答えないため、一般論として「今年2月に63歳の定年を迎える検事長がいた場合(黒川氏のこと)、今の法制度と改正される新たな検察庁法の規定により、検事総長を続けることができるのは何歳までか?」と尋ねました。回答は「68歳まで続けられる」というものでした。

 まず大前提として、今の制度は検事の定年は63歳。検事総長だけが65歳で、定年延長の規定はありません。しかし今年1月に政府は、一般の国家公務員は定年を最大3年延長できるという規定を検察官にも適用するという、これまでにない“超法規的”解釈変更を行って黒川氏の退職を半年先の8月に延ばしました。

 この解釈変更が通用するなら、今の法制度のもとでも8月に再び定年延長し、最大で3年、2022年2月に65歳になるまで定年を延ばせます。それまでに検事総長になっていれば、そこからさらに定年延長ができます。そして2022年4月に改正検察庁法が施行されれば、その規定に基づき検事総長の定年は内閣の判断で68歳まで延長できるため、めでたく68歳までの“長期政権”を維持できる。そして“官邸の守護神”としての役目を存分に果たすことができるというわけです。

この法案が、単に検察官の定年を延長するだけのものだとか、黒川の定年延長とは関係ないといった政権擁護論者のミスリードに騙されてはならない。

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