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天皇は「男系」でなければならないと頑迷に言い張る人々の本音

「万世一系」断絶の危機w

平成天皇明仁アキヒトから令和天皇徳仁ナルヒトもちろんここではわざとこう呼んでいる)への代替わりに伴って、天皇位の継承に関する議論がかまびすしい。

ポイントは、皇室典範を変えて「女性天皇」や「女系天皇(女性天皇とその配偶者との間の子が天皇になること)」を認めるかどうかだ。

昭和二十二年法律第三号
皇室典範

第一章 皇位継承

第一条 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。
第二条 皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。
 一 皇長子
 二 皇長孫
 三 その他の皇長子の子孫
 四 皇次子及びその子孫
 五 その他の皇子孫
 六 皇兄弟及びその子孫
 七 皇伯叔父及びその子孫
○2 前項各号の皇族がないときは、皇位は、それ以上で、最近親の系統の皇族に、これを伝える。
○3 前二項の場合においては、長系を先にし、同等内では、長を先にする。

この規定のままだと、現時点で若い皇位継承権者は秋篠宮の息子悠仁(12歳)しかいないため、悠仁に将来男子が生まれなければ継承権者はいなくなる。「万世一系」断絶の危機というわけだ。

そもそも、仮に「神武」以来王朝交代がなかったというフィクション(大嘘だが)を信じるとしても、歴代天皇の約半数が側室の子であり、過去400年では側室の子でない天皇は明正(109代)、昭和(124代)、平成(125代)の三人と男子のいない現天皇だけというのだから、側室制度を復活でもさせない限り「男系」の維持は困難だろう。

news.yahoo.co.jp

 平成13年(2001年)、当時の皇太子ご夫妻(現天皇皇后両陛下)に女子(愛子さま)が生まれたことで平成17年(2005年)、小泉政権で皇室典範に関する有識者会議が発足して、10ヶ月間、委員はいろいろな資料を元にして議論を進めたという。その中で委員が知った意外な事実があったという。

 これまでの125代におよぶ天皇のうち、約半分が「側室」(第2夫人、第3夫人など)の子と見られているという。戦後は「側室」という制度はない。過去400年間では側室の子どもではない天皇は109代の明正天皇、124代の昭和天皇、125代の前天皇(今の上皇陛下)の3人のみで、側室の制度がない現在においては「男系」の伝統の維持は難しいという声が多くの委員が認識したという。
 けっきょく、この有識者会議では男女の区別なく「直系の長子(天皇の最初の子ども)を優先する」という最終報告を出し、翌年(平成18年=2001年)、政府は「女性天皇」「女系天皇」の容認に舵を切った。

神武のY染色体が重要、という珍説

ところが、「皇統」存続のためにどうしても必要なはずの「女性天皇」「女系天皇」を断固として認めない人たちがいる。日本会議やそれにつながる極右文化人たちだ。

なぜ「女性」「女系」ではダメなのか。その「科学的」根拠として持ち出されているのが、「神武天皇のY染色体」という怪しげな代物だ。日本会議国会議員懇談会長の平沼赳夫元衆院議員がこんなことを書いている。

平沼赳夫オフィシャルホームページ

  つまり、男系継承とは「男性天皇が血統の出発点であること」を意味し、反対に女系継承とは「女性から始まる継承」をいう。愛子内親王が天皇となり、その配偶者が皇族でないかぎり、その子が天皇になると「女系継承」が始まるのである。

 「万世一系」というと本家の血筋が永遠に続くことと誤解する人がいるが、それでは「真の一系」にはならないのだ。時には分家からも継承者が現れ、男系で継承が維持されていくことが「万世一系」の本質的意味である。

 飛鳥より遥かに時代をさかのぼった第16代仁徳天皇の男系血筋は、約80年後の武烈天皇(25)で血統が途絶えたため、家系をさかのぼって分家の男系子孫を見つけだし、継体天皇(26)が誕生したという例もある。

 では次にこの男系継承を遺伝子学的に見てみよう。

 人間の男性の染色体はXYであるのに対して、女性のそれはXXであり、それぞれ46対ある。男女が結婚して男の子ができた場合、母の23対のX染色体と父の23対のY染色体をもらう。女の子の場合は、母の23対の×染色体と父の23対のX染色体をもらう。よって男系の子孫にのみにオリジナルのY染色体が引き継がれ、女系の子孫には引き継がれない。女系では「皇統」が護持されないのである。(参考図参照)

 つまり、皇位が男系継承で引き継がれていく限り、男性天皇には間違いなく初代神武天皇のY因子が継承されるのに対し、女性天皇ではY因子の保持は約束されないのである。

 男系継承を護持することは、神武天皇だけでなく、更に遡って二二ギノミコトのオリジナルのY因子を継承することにもなり、このY因子こそ「皇位継承」の必要要件であり「万世一系」の本当の意昧なのである

これはどこから突っ込めばいいか困惑するほど穴だらけの珍説だが、とりあえず疑問点を列挙してみると…

  • Y染色体の何が重要なのかが不明
    Y染色体は男系でしか伝わらないというが、Y染色体の何が「皇統」にとって重要なのか、その理由が何も示されていない。ちなみに、Y染色体の遺伝上の役割としては、性の決定以外にこれといったものは知られていないようだ。
  • 今の天皇と神武のY染色体が同じという保証はない
    Y染色体は比較的変異を起こしやすいことが知られている。仮に「万世一系」神話を信じるとしても、125代も前の先祖のY染色体が現在までそのまま伝わっている保証はない。
  • そもそも「皇祖」は女神である天照大神なのに、なぜY染色体を重視するのか?
    平成天皇が退位という重大事にあたって伊勢神宮に報告のため参拝したことが示すように、天皇家の権威の源泉は「皇祖」である天照大神にある。しかし、周知のとおり天照は女神なのだからY染色体などあるはずもない。「万世一系」というならむしろ、天照から女系でだけ伝わっているはずのミトコンドリアDNAのほうが重要ではないのか。
  • Y染色体が伝わっていればいいのなら、皇位継承順など無意味
    天皇になる資格が神武から伝わるY染色体だというのなら、系譜を男系で辿っていって歴代天皇の誰かにたどり着く男であれば誰が天皇になっても構わないはずで、今の天皇一族に限る必要もない。ちなみに、古事記・日本書紀には、なんとか天皇の子の誰それはなんとかの臣おみの祖、といった記述がやたらと出てくる。ならば、今の天皇家とは血縁関係のない、そうした豪族たちの末裔の誰かが天皇になってもまったく構わないはずだ。

本音は単なる男尊女卑の差別意識

というわけでボロボロのY染色体説だが、日本会議などの極右はなぜこんな珍説にこだわるのか? 実は、彼らの本音を渡部昇一が暴露してくれている。[1]

 (略)皇室の継承は、①「種」(タネ)の尊さ、②神話時代から地続きである──この二つが最も重要です。
 歴史的には女帝も存在しましたが、妊娠する可能性のない方、生涯独身を誓った方のみが皇位に就きました。種が違うと困るからです。たとえば、イネやヒエ、ムギなどの種は、どの田圃に植えても育ちます。種は変わりません。しかし、畑にはセイタカアワダチソウの種が飛んできて育つことがあります。畑では種が変わってしまうのです。

つまり、女の腹など借り物(畑)で、そこにまく男親の「種」こそが重要、というわけだ。何のことはない、バリバリの男尊女卑思想による女性差別である。Y染色体がどうこうというのは、この差別に科学的根拠があるかのように装うための道具に過ぎない。ダーウィンの進化論(自然淘汰説)を悪用して搾取や人種差別を正当化しようとした社会ダーウィニズムと同じパターンだ。

ちなみに、天皇制自体に反対の私の立場からすれば、女系天皇が認められようが認められまいがどうでもよい。むしろ、男系に執着したあげく後継者がいなくなって天皇家が断絶するほうが望ましい。

というわけで、(この件に関してだけは)日本会議ガンバレww

[1] 渡部昇一 「摂政を置いて万世一系を」 WiLL 2016年9月号 P.41-42

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