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日系アメリカ人を「出来損ない」呼ばわりした岸信介

先日TLに流れてきて知ったのだが、日系人として初めてアメリカ連邦議会議員となったダニエル・イノウエに対して、岸信介がひどい侮辱的発言をしていた。[1]

 戦後日本と日系移民との関係について、最後に一つエピソードを紹介したい。四四二部隊出身で、日系人として初めてアメリカ連邦議会下院議員となったダニエル・イノウエが一九五九年に来日し、当時の岸信介首相と面談した際のものである。

 イノウエが「いつか日系人が米国大使となる日が来るかもしれません」と水を向けると、岸首相は次のように語った。「日本には、由緒ある武家の末裔、旧華族や皇族の関係者が多くいる。彼らが今、社会や経済のリーダーシップを担っている。あなたがた日系人は、貧しいことなどを理由に、日本を棄てた「出来損ない」ではないか。そんな人を駐日大便として、受けいれるわけにはいかない」。イノウエにとって、思いがけない屈辱的な言葉であった(ETV特集『日系アメリカ人の「日本」』二〇〇八年九月二八日放送)。

日系アメリカ人は、岸のような愚かな連中が始めた日米戦争のせいで「敵性市民」と見なされ、その多くが強制収容所に送られるという苦しみを舐めさせられた。

そんな中、ダニエル・イノウエは日系人の米国への忠誠心を示すために自ら志願してヨーロッパ戦線でナチス・ドイツと戦い、右腕を失う重傷を負いながらも戦い続けて、英雄と讃えられた人物である。

そんなイノウエに面と向かって、岸は「出来損ない」と言い放ったのだ。

そもそも、岸は日系アメリカ人を「日本を棄てた」者たちだと評するが、イノウエの両親のような人々がハワイやアメリカに渡ったのは明治政府の過酷な収奪により国内での生活が成り立たなくなったせいだし、政府も「余剰人口」とみなした彼らの移民を積極的に奨励していた。移民たちが日本を棄てたのではなく、日本政府が彼らを棄てたのだ。

岸にとっては「由緒ある武家の末裔、旧華族や皇族の関係者」といった者たちだけが尊重に値する日本人であり、貧しい庶民など虫けら同然なのだろう。

出来損ないは日系アメリカ人ではない。岸こそが「人間の出来損ない」だ。

[1] 貴堂嘉之 『移民国家アメリカの歴史』 岩波新書 2018年 P.199