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あらためて、教育勅語はどこがダメか

柴山文科相、就任会見でいきなりのトンデモ発言

安倍「全員壁際ライトの野球チーム」内閣で文科相に起用された柴山昌彦が、就任会見でいきなり教育勅語を持ち上げるトンデモ発言を行った。

朝日新聞デジタル(10/4)

教育勅語「使える分野は十分にある」 柴山文科相、就任会見で発言

 内閣改造で2日に就任した柴山昌彦文部科学相が会見で教育勅語の認識を問われ、「道徳などに使うことができる分野は十分にある」と述べた。(略)
 発言のきっかけは、柴山氏が8月、ツイッターに「戦後教育や憲法のあり方がバランスを欠いていたと感じています」と投稿したこと。就任会見で趣旨を聞かれ、「戦前は義務や規律が過度に強調されたことへの反動として自由や権利に重きを置いた教育、個人の自由を最大の価値とする憲法が制定された」とし、「権利とともに、義務や規律も教えていかないといけない」と述べた。
 さらに過去の文科相が教育勅語を「(中身は)至極まっとう」と評価したことについて問われ、「現代風に解釈され、あるいはアレンジした形で、道徳などに使うことができる分野というのは十分にある」と発言。使える部分として「同胞を大切にするとか、国際的な協調を重んじるとか、基本的な記載内容」を挙げた。

こんなバカが教育行政のトップになってしまったと嘆くべきか、こんなバカだからこそ安倍が文科相に起用したのだと呆れるべきか、どうでもいいことに悩んでしまうような発言である。

呆れつつもとりあえず突っ込んでおくと、柴山が教育勅語の「使える部分」「基本的な記載内容」だとして挙げた「同胞を大切にする」も、「国際的な協調を重んじる」も、どちらも勅語中には存在しない。つまり、柴山は勅語自体読んでいないか、読んでも内容が理解できなかったか、どちらかだということだ。

繰り返すが、今やこんなのが教育行政のトップにいるのだ。

日本国憲法が保障する「権利」は義務とのバーターではない

ちなみに、柴山が「バランスを欠いて」いる、「権利とともに義務や規律も教えていかないといけない」と言う日本国憲法に書かれている「権利」は、義務とのバーターで与えられるような性質のものではない。「平和のうちに生存する権利(前文)」も、「生命、自由及び幸福追求に関する権利(第13条)」も、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(第25条)」も、「勤労者の団結する権利(第28条)」も、「裁判を受ける権利(第32条)」も、すべての人に等しく保障されるべき人権であって、商取引の契約書に義務の対価として書き込まれるような「権利」ではないのだ。

なぜかといえば、そもそも憲法とは国家の暴走を防ぎ、権力の行使に枠をはめるためのものだからだ。憲法は恣意的な権力行使によってこれらの人権が侵されることのないよう、最高法規として国家の「やるべきこと」「やってはならないこと」を規定する。これが「立憲主義」である。

柴山も安倍も、明らかに立憲主義を理解していないし、好き勝手な権力行使の邪魔になる日本国憲法(だけではなく近代民主主義国家を成立させる諸原則そのもの)を憎んでいる。今この国では、最も権力を持たせてはならない類の人間が権力を握っているのだ。

あらためて、教育勅語はどこがダメか

そんなウヨ政権が盛んに持ち上げる教育勅語はどこがダメなのか。端的に言えば、歴史の初めからこの国は天皇家のもので(←もちろんウソ)、だからお前たち臣民は天皇に忠義を尽くさねばならないのだと決めつけた上で、最後は「お上」が勝手に始めた戦争に際して「天壌無窮ノ皇運」を支えるためにその命を投げ出せと命じる構造そのものがどうしようもなくクソなのだ。

途中に挟まれるあれこれの「徳目」も、勅語をもっともらしく見せるのと、「朕カ忠良ノ臣民」を効率良く生産するのに都合がいいから入れられているに過ぎない。右派はこれらの「徳目」にいいことが書いてあるから教育勅語を復活させろと言うが、そんなに素晴らしい「徳目」ならそこだけ取り出して標語にでもして普及活動をすればいいのであって、勅語という形式にこだわる必要はないはずである。

実際にはもちろん、絶対的権威である天皇が命じ、臣民は無条件に従って命まで差し出すという勅語の構造こそが、彼らが復活させたいものの正体なのだ。(やるときは、「天皇」を「国」にでも置き換えて「現代風にアレンジ」するつもりなのだろう。)

画像出典:東京新聞 2017年8月28日『こちら特報部』

だいたい、いいことが書いてあるから国家の教育方針に入れるべきというのなら、山口組の綱領もいいことを言っているので、これも教育方針に取り入れてはどうだろうか。

実際、教育勅語とヤクザの掟に大した違いなどないのだから。

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