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いまだに戦争すらやめられない人類は宇宙人の侵略より自滅を恐れるべき

NASAが今、地球と人類に関するさまざまな情報を含んだメッセージを宇宙に向けて送信しようとしている。

同じようなものとしては1974年に送信された「アレシボ・メッセージ」というのがあるが、今回はより詳しい情報、たとえば地球上の生命の生化学的構造、人類の男女の姿、地球の大陸や地形の特徴、銀河系内における太陽系と地球の位置情報などが含まれている。

画像出典:[1]


興味深い試みではあるが、仮にメッセージを受信する者がいたとしても彼らがメッセージの内容を理解できるかどうかはわからないし、そもそも相手は近くても数十光年から数百光年の彼方にいるのだろうから、返事が返ってくるのは百年から千年も先の話だろう。


ところで、この計画が公表されると、やはりこうした情報の送信は危険であり、やるべきではないという意見が出てきた。[2]

 しかしオックスフォード大学「人類の未来研究所(FHI)」の上級研究員アンダース・サンドバーグ博士は、こうした情報の公開にはリスクがあると警鐘を鳴らす。

 彼によれば、メッセージが知的生命体が存在する地球外文明に届く可能性は低いとはいえ、本当に届いてしまった場合「影響が大きいので、かなり真剣に考慮する必要がある」という。

 もし受け取った相手が敵対的な宇宙人だった場合、地球に侵略される危険性が極めて大きいのだ。しかも相手はメッセージにより地球の手の内を知っていることになる。

 宇宙人とのコンタクトは、もし実現すれば地球を揺るがすほどの重要な事案だ。にもかかわらず多くの人は真剣に受け止めていない。実に嘆かわしいことだと、サンドバーグ博士は語る。

 人類の未来研究所のトビー・オード氏もやはり、2020年に出版された著書『The Precipice』で、人類の存亡リスクと未来を分析しつつ似たような議論を行なっている。

 彼によると、重要なのは、平和的な文明と敵対的な文明の比率だという。

これについて推測できる証拠はほとんどなく、科学的に統一された見解もない。メリットよりもデメリットの方がはるかに大きいことを考えれば、少なくとも自分には、地球外文明とコンタクトを図ろうという流れはいい状況に思えない

宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング博士も生前、同じような警告を発していた。[3]

 いきなり話はオカルトっぽくなるが、ホーキング博士はいたって真面目に宇宙人のことを考えていたようで、再三にわたって「宇宙人と接触するべきではない」と警告していた。中国が貴州省に建設した巨大望遠鏡で「宇宙信号らしきものを受信した」と発表した際も、「応答するな!」と強く警告。「どんな意図を持っているかわからない相手に、人類の居場所をまだ教えてはならない」というのだ。

「地球外に知的生命が存在する可能性はかなり高く、資源や居住場所を求めて宇宙をさまよっている恐れがある。もし宇宙人が来たら、アメリカ先住民にとってのコロンブスの新大陸発見と同じような結果(大虐殺)になる」ということを、複数のインタビューで語っている。

大変もっともな警告に聞こえるが、これは杞憂だと思う。

自分たち自身の今の状況を見てみればいい。いま、人類はまさに宇宙への進出を始めようとする段階にあるが、一方で、無分別に地球環境の収奪・破壊を重ねてきた結果、このまま温暖化が食い止められなければいずれ壊滅的な気候変動により絶滅の淵に追いやられると予想される状況にも陥っている。

にもかかわらず、いまだに人類は一致協力して温暖化対策を推進するどころか、互いに憎み合い殺し合う戦争すらやめられずにいる。

試算によると、温暖化を制御可能なレベルに抑え込むのに必要となる追加コストは、およそ世界のGDPの2%程度(年200兆円弱)だという[4]。これが世界で軍事費として浪費されている金額(年約220兆円)より少ないというのは、ある意味象徴的な数字ではないだろうか。

どのような文明であれ、母星を離れて宇宙に進出しようとする段階ともなれば、母星の環境に与える破壊的負荷は巨大なものになっているだろう。もしこの段階で、資源をあるだけ奪い尽くし貪り尽くすような野蛮性から脱却できていなければ、その文明は本格的な宇宙進出が可能になる前に自滅しているだろう。

人類は宇宙人による侵略を心配する前に、そのような侵略的文明は宇宙進出前に自滅するという法則を示す事例になることを心配したほうがいい。

[1] “A Beacon in the Galaxy: Updated Arecibo Message for potential FAST and SETI Projects” arXiv 2203.04288
[2] 『NASAの宇宙メッセージ発信は、悪い宇宙人を呼び寄せてしまう危険性があると科学者が警告』 カラパイア 2022/4/22
[3] 『「宇宙人に侵略される」ホーキング博士が生前に強く警告したワケ』 日刊SPA! 2018/5/5
[4] 『この世の終わりを避けるのにかかるコストの意外な安さ ハラリ氏寄稿』 朝日新聞 2022/1/29