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地球温暖化を引き起こした最大の責任国はアメリカ。それも圧倒的1位

前回記事で書いたように、このまま地球温暖化が進んでいけば100年以内に人類は滅亡すると警告されている。

これは「そうなるかもしれない」といったような甘い話ではない。ドキュメンタリー『摂氏2度 -- 人類滅亡のカウントダウン』の中で明言されているように、「“もしかして”ではなく必ず起きること」なのだ。

では、こんな事態を引き起こした責任は誰にあるのか?

あるBBCニュース記事[1]ではこんなふうに書いている。

中国:世界最大のCO2排出国

中国は、CO2排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにCO2排出量と除去量を差し引きゼロにするカーボンニュートラルを目指すとしている。また、2030年までにエネルギー供給の25%を非化石燃料でまかなうことも目標としている。

カーボンニュートラルとは、CO2排出量分を、植樹などによっての大気中のCO2を吸収して相殺すること。

世界最大のCO2排出国の中国は石炭への依存度が高く、CO2排出量は依然として増加している。

習近平国家主席は9月、海外での新規石炭火力発電プロジェクトへの資金提供を停止すると発表した。

中国は2026年から石炭の使用量を削減するとも約束している。しかし国内の炭鉱では、急増するエネルギー需要を満たすために石炭の増産が命じられている。

これだと、まるで中国に地球温暖化の最大の責任があるかのようだ。

だが、これは正しくない。

確かに現時点で見れば中国が最大のCO2排出国だが、それは中国が世界最大の工業生産国である上、インドと並んで世界最大の人口を抱える国でもあるからだ。実際、人口あたりで見れば中国のCO2排出量はアメリカの半分ほどでしかない。

また、そもそも地球温暖化を引き起こしているCO2は、最近になって突然排出され出したのではない。産業革命以来、とりわけ第二次世界大戦前後から、膨大な石炭石油消費によってCO2が大気中に蓄積され続けてきた結果が現在の温暖化危機なのだ。

では、実際にはどの国にどの程度の責任があるのか。

これを正確に評価するための基準として、「炭素予算」とその「公正なシェア」という概念がある。

炭素予算とは、温暖化を一定のレベル(1.5℃とか2℃)に抑えようとした場合に許容される、人為起源CO2排出量(累積値)の上限のことだ。例えば温暖化を2℃に抑えようとする場合、炭素予算、すなわち人為的CO2排出量の上限値は2,900Gtとされている。

しかし、産業革命以来、既に1,750GtのCO2が排出されたと考えられており、予算の残額は1,150Gtしかない。これはつまり、この残額1,150Gtを使い切ってしまう前に世界全体のCO2排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)以下にしなければ温暖化を2℃以内に抑えることはできない、ということを意味する。

1.5℃を目標とする場合はもっと厳しく、炭素予算の残額はわずか400Gtしかない。


画像出典:[2]

そして、この炭素予算の「公正なシェア」とは、地球の健全な大気環境はすべての人間に公平に与えられるべき共有財であるという環境正義の考え方に基づき、世界各国にその人口規模に応じて炭素予算を割り当てたものだ。つまり、その国が排出することを許容されるCO2の累積値である。

最近、英リーズ大学などの研究者たちが、1960年以降、世界各国が自国に割り当てられた公正なシェアに対してどの程度の割合でCO2を排出してきたかを計算した。[3]

その結果明らかになったのは、裕福なグローバルノース(欧米先進諸国および日本)が過剰排出量(世界各国が自国の公正なシェアを超えて排出したCO2量)のほぼ90%を占めているという事実だ。下図は過剰排出国のトップ5を示したものだが、中でもアメリカは全過剰排出量の4割以上を占めており、圧倒的1位である。間違いなく、アメリカこそが地球温暖化危機をもたらした最大の戦犯国なのである。


画像出典:[4]

一方、世界総人口の80%以上が暮らすグローバルサウスのほとんどの国々は自国の公正なシェアより少ないCO2しか排出していない。下図は累積排出量が公正なシェアを下回る国のトップ5を示したものだが、公正なシェアまでの余裕量の合計の中でインドが圧倒的な割合を占めていることに加えて、この中に中国も含まれていることがわかる。つまり、中国は温暖化の促進どころかその抑止に貢献している国の一つなのだ。(グローバルサウスにも過剰排出国はあるが、それはサウジアラビアなどの富裕な産油国である。)


画像出典:[4]


研究者たちは、今後世界全体でのカーボンニュートラルを目指す過程で、過剰排出国だけでなく低排出国も今後のCO2排出量削減のために多大なコストを強いられることから、過剰排出国は低排出国に対して負担軽減のための補償をすべきであると提言している。[4]

“It is a matter of climate justice that if we are asking nations to rapidly decarbonise their economies, even though they hold no responsibility for the excess emissions that are destabilising the climate, then they should be compensated for this unfair burden,” said Andrew Fanning, lead author and visiting research fellow at the University of Leeds’s Sustainability Research Institute.

「気候を不安定にしている過剰排出に責任がない国々に対しても急速な経済の脱炭素化を求めるのであれば、この不公平な負担を補償すべきであることは、気候正義の問題です。」と、筆頭執筆者でリーズ大学持続可能性研究所の客員研究員であるAndrew Fanningが述べている。

彼らはIPCCシナリオにおける炭素価格評価に基づき、過剰排出国は低排出国に対して、カーボンニュートラル達成の目標時期である2050年までの間に総額192兆ドルの補償を行うべきであると述べている。もちろん最も多くの補償金を拠出すべき国はアメリカで、その額は計80兆ドルである。

 


画像出典:[3]

アメリカは地球温暖化を食い止めるのに何の役にも立たないどころか悪化させるだけの軍事費に膨大な金を費やすのをただちに止めて、低排出国の脱炭素化を支援する補償金を拠出すべきなのだ。それは温暖化危機を引き起こしてきた最大の戦犯国アメリカが必ず果たさなければならない義務である。

※実際にはCO2以外も含む温室効果ガス全体が問題となるが、ここではそのCO2換算値を単にCO2と表現している。


[1] 「気候変動対策の実情、汚染大国はCO2削減にどう取り組んでいるのか」 BBCニュース 2021/11/16
[2] 「数字で理解する 企業が脱炭素に取り組むべき理由 」三井住友ファイナンス&リース株式会社
[3] Andrew L. Fanning & Jason Hickel “Compensation for atmospheric appropriation” nature sustainability 2023/6/5
[4] Nina Lakhani “Rich countries with high greenhouse gas emissions could pay $170tn in climate reparations” The Guardian 2023/6/5