宇宙の広大さを考えれば、必ずどこかに地球外文明が存在しているはずなのに、なぜ見つからないのか?
いわゆる「フェルミのパラドックス」と呼ばれている問題だ。
なお、フェルミは「なぜたくさんいるはずの宇宙人がいまだに地球に到達していないのか?」という形で問いを発したそうだが、「到達」は地球外文明存在の必要条件ではないので、ここではもう少しハードルを下げて、「なぜ地球外文明が存在する兆候が検出できないのか」という問いに置き換えて考えてみる。
で、フェルミのパラドックスに対する回答としては、「宇宙人は存在しているし既に地球に来ているのだが政府が隠蔽している」といった陰謀論から「宇宙には地球以外に文明のある星は存在しない」といった超悲観論まで、さまざまな仮説が提起されている。
例えば、最近出てきた興味深い仮説には次のようなものがある。
- 地球外文明は生き残るために自身の存在を隠蔽しており、他の文明を見つけた場合は全力でそれを滅ぼしている。
これは劉慈欣氏のSF小説『三体II 黒暗森林』で提起された説で、異なる文明同士は相手が自分に対して友好的であるかどうか判別できず、自身の存在を他者に知られるのは危険なため隠れている。そして、万一他の文明を見つけた場合、相手が自分にとって脅威となる前に潰しにかかるというもの。このため、いま存在している文明は発見できないし、自分の存在を隠さなかった文明は既に滅ぼされている。 - 宇宙人は地球を「単純な生命が存在するだけのありふれた星」と見なしているため、わざわざ接触しようとしない。
こちらはヘブライ大学のAmri Wandel氏による説。宇宙には生命体の存在する惑星はたくさんあるが、それらすべてに探査機を送り込んだり通信を試みるのはコストがかかりすぎるので、宇宙人は高度な文明が見つかりそうな星に限って接触を試みている。はるかに離れた場所にいる宇宙人の側から見ると、地球に文明のありそうな証拠は見当たらないので、そもそも接触しようとしない、というもの。
しかし、こういううがった見方をしなくても、時間軸を考慮すれば、地球外文明が見つからないのは当然ではないだろうか。
例えば、次のような思考実験をしてみる。
仮に、地球からほど近い距離(数十光年以内)に、太陽そっくりの星をまわる地球そっくりの惑星があったとする。しかも、これは地球と同じ頃に形成された惑星で、豊富な大気も水も存在している。
この星で、地球と同じように生命が発生し、進化して、ついには知的生命体が誕生する可能性はとても高いと言えるだろう。
これは地球外文明を探す対象としては理想的と言える星だが、人類がこの星に存在する文明を見つけることはできるだろうか?
地球自身の歴史を振り返ってみればわかるように、生物の進化はさまざまな偶然に左右される。
地球の場合、超巨大噴火によりすべての生物種の90%以上が死滅したペルム紀末の大絶滅を始め、大量絶滅が何度も繰り返され、そのたびに進化の主役となる生物種が交代している。仮に白亜紀末に(現生鳥類につながる種を除く)恐竜を滅ぼした小惑星の衝突が起きていなかったら、今でも恐竜が繁栄していて哺乳類には出番が回ってこなかったかもしれない。
このように、生命の発生からどのくらい経てば知的生命体が発生しうるか(あるいはついに発生せずに終わるか)は、まったくの偶然によって大きく左右される。仮に、問題の星で地球のように知的生命体が発生するとしても、その時期が地球と同じになる保証はまったくない。地球で最初の生命が誕生したのは約33億年前と言われているが、となれば1億年くらいの違いなど誤差の範囲だろう。
では、1億年ずれて発生した文明が互いの存在を知ることはできるだろうか?
人類が無線による通信を行うようになってからまだわずか150年程度。地球外文明に向けてメッセージを送信したり、地球外文明からのメッセージを受信しようと試みるようになってからは、まだ半世紀ほどしか経っていない。
それなのに人類の文明は、既に自らが引き起こした環境破壊のせいで、あと100年存続できるかどうかさえ怪しいという危機的状況に陥っている。
これでは、人類が地球外文明を見つけられる可能性などほとんどないと言わざるを得ない。